杜甫「春望」押韻・書き下し文・意味と心情をわかりやすく解説
中学2年国語で学ぶ「漢詩の風景」から、杜甫作「春望」について、現代語訳・書き下し文・詩の形式・押韻・対句・語句の意味やそれぞれの句の意味と情景、作者の心情など、定期テストで必要になるポイントをくわしく解説するよ。
杜甫「春望」テスト対策ポイントまとめ
- 作者は唐代の詩人である杜甫で詩聖と称されている
- 詩の形式は「五言律詩」
- 第二句・第四句・第六句・第八句の4箇所(深・心・金・簪)で韻が踏まれている
- 第一句と第二句、第三句と第四句、第五句と第六句が対句になっている
- 詩の主題と作者の心情は「戦乱によって破れた国と別れた家族を思う悲しみ」
- 国・城とは長安のこと
- 烽火とは戦いののろしのこと
- 家書とは家族からの手紙のこと
- 簪とは冠を留めるために挿すもの
目次
杜甫「春望」基本情報
作品名 | 春望 |
作者 | 杜甫 |
詩の形式 | 五言律詩 |
表現技法 | 【押韻】 深・心・金・簪 【対句】 第一句と第二句、 第三句と第四句、 第五句と第六句 ※「花が涙を流す」、「鳥が心を驚かす」と解釈する場合、擬人法も使われている |
作品の主題と作者の心情 | 戦乱によって破れた国と別れた家族を思う悲しみ |
杜甫とは
杜甫(712~770)は、唐代(中国の唐の時代)に活躍していた詩人。
「黄鶴楼にて孟浩然の広陵へ之くを送る」の作者である李白と並んで、中国詩歌史上最高の詩人とされているよ。
そのことから、「詩聖」と称されているんだ。
杜甫「春望」原文
国破山河在
城春草木深
感時花濺涙
恨別鳥驚心
烽火連三月
家書抵万金
白頭掻更短
渾欲不勝簪
杜甫「春望」書き下し文
国破れて山河在り
城春にして草木深し
時に感じては花にも涙を濺ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火三月に連なり
家書万金に抵る
白頭掻けば更に短く
渾べて簪に勝へざらんと欲す
歴史的仮名遣いが使われているところもチェックしておこう。
歴史的仮名遣い | 現代仮名遣い |
---|---|
草木(さうもく) | 草木(そうもく) |
烽火(ほうくわ) | 烽火(ほうか) |
勝へざらん | 勝えざらん |
欲(ほつ)す | 欲(ほっ)す |
杜甫「春望」現代語訳
戦乱によって国の都(長安)は破壊されてしまったが、(自然の)山と河は(変わることなく)そのまま在る。
城壁に囲まれた町(長安のこと)の中にも春がやってきて、(人の姿はなく、)草や木が生い茂っている。
時勢(世の中の成り行き)に悲しみを感じては花にも(花を見ても)涙を流し、
(家族との)別れを恨めしく思っては(癒されるはずの)鳥の声にも心を驚かす(不安になる)。
戦争ののろしは三ヶ月間も続き(春の三月という説もある)、
家族からの手紙は万金にも値する(ほど価値が有る)。
(悩み)白髪頭を掻けば、(髪が)ますます抜けて少なくなり、
全く簪で冠を留められないほどだ。
「春望」の内容をざっくり
戦争によって、国の都の長安はすっかり破壊されてしまったけれど、自然である山や河は変わらずそのままで、(人影のなくなった)城壁の中の町には春が訪れて草木が生い茂っている。(人間による戦争という行為の愚かさと、自然の対比)
こんな戦乱が続く世の中の成り行きを考えると、美しい花を見たって涙が流れてくるし、離ればなれになってしまった家族のことを思うと、癒しであるはずの鳥の声を聞いたって、心は不安になるばかり。
戦いののろし(戦争が起こっていることを示すもの)は、三ヶ月も続いて、家族から届く手紙は多額のお金に値するくらい価値が有る(家族の生存を知らせてくれるので)。
(悩んで)すっかり白髪になった頭を掻けば、ますます髪が抜けてしまう。
もはや冠を留めるためのかんざしがまったく挿せないくらいに。
杜甫「春望」詩の形式
漢詩の詩の形式は、「いくつの句で作られているか」と、「ひとつの句が何文字か」の組み合わせで決まるよ。
4つの句でできているものを「絶句」、8つの句でできているものを「律詩」と呼ぶんだ。
そして、5文字でできているものを「五言」、7文字でできているものを「七言」と呼ぶよ。
杜甫の「春望」は、全部で8つの句からできている漢詩なので、「律詩」だね。
そして、ひとつの句が5文字で作られているから、「五言」だね。
組み合わせると、「五言律詩」となるよ。
詩の形式が「五言律詩」だということは、テストでは必ず出るといってもいいくらいなので、必ず覚えておこう!
杜甫「春望」押韻について
押韻とは
押韻とは、「韻を踏むこと」だよ。句の終わりを、似た響きの音にすることで、印象を強くしたり、詩にリズムを持たせる効果があるんだ。
漢詩では、基本的には偶数の句の終わりの文字で押韻するというルールになっているよ。
杜甫の「春望」では、第二句・第四句・第六句・第八句の4箇所で韻が踏まれているよ。
第二句 城 春 草 木 深(シン)(shēn・シェン)
第四句 恨 別 鳥 驚 心(シン)(xīn・シン)
第六句 家 書 抵 萬 金(キン)(jīn・ジン)
第八句 渾 欲 不 勝 簪(シン)(zān・ザン)
それぞれ、「シン」「シン」「キン」「シン」(中国の発音では、「シェン」「シン」「ジン」「ザン」)という、似た響きの音になっているね。
テストでは、「どの句で押韻がされているか」とか、「韻を踏んでいる文字を4つ抜き出す」というように問題が出ることが多いよ。
杜甫「春望」対句について
対句とは
意味や形の似ている2つの句を並べる表現技法のこと。
リズムを作ったり、印象を強くする効果があるよ。
律詩では、第三句と第四句、第五句と第六句が必ず対句になるというルールがあるよ。
「春望」は、基本ルールに加えて第一句と第二句も対句になっているのが特徴的だよ。
第一句と第二句の対句
国破れて山河あり
城春にして草木深し
「国」と「城」、「破れる」と「春になる」、「山河」と「草木」、「ある」と「深し」のように、構造や内容が対になっているよね
第三句と第四句の対句
時に感じては花にも涙を濺ぎ
別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
「時」と「別れ」、「感じる」と「恨む」、「花」と「鳥」、「涙を濺ぐ」と「心を驚かす」が対になっているね
第五句と第六句の対句
烽火三月に連なり
家書万金に抵る
「烽火」と「家書」、「三月」と「万金」、「連なる」と「抵る」、が対になっているね
杜甫「春望」擬人法について
第三句と第四句は、それぞれ「花が涙を流す」「鳥が心を驚かす」と解釈することもできるんだ。
つまり、涙を流したり、心を驚かすのが杜甫ではなく、花と鳥だ、と考えるんだね。
その場合、花と鳥を人間のように表現しているので、擬人法が使われていることになるよ。
これは、先生や教科書によって解釈が変わったりするので、テストでは授業で習ったとおりに答えるのが安心だよ。
杜甫「春望」自然と人の世の対比について
「春望」では、人の手によって起こされる戦争の悲惨さや人の世のはかなさに比べて、まったく変わることのない自然との対比が描かれているよ。
反乱軍の侵攻によって、長安は破れてしまったけれど、それでも春は変わらず訪れて、草木が生い茂っていく。
美しく穏やかな自然の姿を目の前にすることで、余計に人の世の無常さを痛感して、心を痛める杜甫の心情が読み手に強く伝わるようになっているんだね。
自然 | 人の世 |
---|---|
山河・春・草木・花・鳥 | 国・城・烽火・家書・簪 |
杜甫「春望」漢字の読み方・語句の意味
語句 | 読み方 | 意味 |
---|---|---|
春望 | しゅんぼう | 春の眺めのこと |
国 | くに | 「春望」では、「国」とは中国の唐の時代に栄えていた都「長安」のこと |
城 | しろ | 「春望」では、「城」とは城壁に囲まれた都のことであり、つまり「長安」のことをさす |
草木 | そうもく | 草や木 ※城壁の中が草木だらけになっている=戦乱で破壊された長安には人の気配がないことを意味する |
時 | とき | ここでは、その時の世の中の成り行きや政治情勢をあらわす |
濺ぐ | そそ(ぐ) | (涙を)流すこと |
驚く | おどろ(く) | 不安になる ※鳥の鳴き声を敵兵の気配と思って驚くとする説もある |
烽火 | ほうか | 敵の襲撃などを味方に知らせるために、物を焼いて煙を上げる「のろし」のこと |
三月 | さんげつ | 春の三月または、三ヶ月間のこと ※明確に三ヶ月でなく、長い期間を表すという説もある |
連なる | つら(なる) | ここでは連続・継続をあらわす |
家書 | かしょ | 家族からの手紙 ※杜甫の妻は、子供たちを連れて疎開していた |
万金 | ばんきん | 「万」は「たくさんの」という意味。多額の金をあらわす |
抵る | あた(る) | ここでは釣り合う・相当するという意味 |
白頭 | はくとう | 白髪頭のこと |
掻く | か(く) | 中国では、頭を掻く=悩みや困惑をあらわす |
短く | みじか(く) | 中国では、「短」は髪が薄くなったことをあらわす |
渾べて | す(べて) | 中国語の「渾」は、「すべて」「すっかり」という意味 |
簪 | かんざし | 男性が冠をかぶるときに、外側からマゲに挿して冠を固定させるためのもの |
勝える | た(える) | 耐える・こらえる |
欲する | ほっ(する) | 中国語では、「~なろうとしている」という意味 |
杜甫「春望」時代背景
「春望」は、作者の杜甫が46歳のときの作品。
唐では、755年から763年にかけて、「安禄山」という軍人が反乱を起こしたんだ(安禄山の乱または安史の乱と呼ぶよ)。
反乱軍は、756年の6月に長安へ侵攻して破ってしまったよ。
「国破れて」というのは、反乱軍によって破られた長安のことだね。
杜甫は、この戦乱から家族を守るために、疎開させたよ。
そして自分は朝廷の役に立とうと、皇帝のもとへ駆けつけようとしたんだ。
けれど、その途中で反乱軍に捕まってしまって、長安で軟禁されることになってしまったんだ。
杜甫が捕まったのは、756年の8~9月。
「春望」は、その翌年757年の春に、軟禁された状態で詠まれた詩なんだね。
杜甫「春望」作者の心情
杜甫は、大切な家族を置いて、朝廷と皇帝の役に立とうと駆けつけようとしたところを反乱軍に捕まってしまった。
そこで目にしたのは、反乱軍によって破られてしまった国都の長安の無残な様子。
国は破れ、そこには山や河があるだけ。
城壁の中には春がやってきても、そこに人影はなく、草木が生い茂るばかり。
長く続く戦いののろし。
置いてきた家族は無事なのか。自分はいつ家族のもとへ帰れるのか。
何もすることができず、ただ軟禁されたままの生活。
心を痛めている杜甫は、花を見ても涙が流れるばかり。鳥のさえずりを聞いても、心がかき乱されるだけ。
不安から頭を掻けば、ますます髪が抜け落ち、とうとう簪も挿せないほどになりそうだということに気が付く。
当時の中国では、冠をかぶることは、成人男性にとっての常識であり、一人前の証だったんだ。
「冠を被れなくなる」という表現は、「このまま、自分は国にとっても、家族にとっても役に立たない人間になってしまうのか」という杜甫の絶望が込められているとも考えられるよ。
「春望」に込められた作者の心情
戦乱によって破れた国と別れた家族を思う悲しみ
杜甫「春望」それぞれの句の意味と情景
「春望」のそれぞれの句の内容をくわしく確認していこう。
第一句「国破山河在」の意味と情景
「国破れて山河在り」の「国」とは、唐の都である長安のことだったね。
長安は、反乱軍によって侵攻され、破られてしまった。
国が破られてしまっても、自然である山と河はそのまま在り続けている情景を表しているよ。
自然の前での、人の世の無常さ、都が破られてしまった悲痛な思いを詠んでいるんだね。
第二句「城春草木深」の意味と情景
「城春にして草木深し」の「城」は、やはり城壁に囲まれた町である、長安のことをあらわしているよ。
反乱軍によって破られてしまい、荒廃して人気のない城壁の中にも、春は変わらず訪れて、草木が青々と生い茂っている。
やはり、自然と人の世の無常さとの対比を描くことで、杜甫の悲痛な思いを印象づけているね。
第三句「感時花濺涙」の意味と情景
「時に感じては花にも涙を濺ぎ」の「時」とは、このような戦乱の世の中、時代の成り行きのことをあらわしているね。
本当であれば、美しい花を見れば楽しいはずが、戦乱の中の世の流れの中では、花を見ても涙が流れてしまうくらい心の中は悲しみでいっぱいだということを伝えているんだね。
第四句「恨別鳥驚心」の意味と情景
「別れを恨んでは鳥にも心を驚かす」の「別れ」とは、疎開先に置いてきた家族との別れのこと。
反乱軍に捕まってしまい、軟禁されている身である杜甫は、いつ家族のもとへ帰ることができるのか分からないよね。
戦乱のせいで、家族と離れ離れになってしまったことを恨めしく思い、本当であれば癒されるはずの鳥のさえずりさえも、反乱軍の兵の気配なのではないか、とびくびくしてしまう、辛い状況を表現しているんだ。
第五句「烽火連三月」の意味と情景
「烽火三月に連なり」の「烽火」とは、戦いののろしのこと。つまり、戦乱を象徴するものだね。
三月は「春の三月」とする考えや、「三ヶ月」とする考え、他にも「長い間」とする考えなどがあるけれど、どちらにせよ、「戦乱が続いている」ということを表現しているんだ。
第六句「家書抵万金」の意味と情景
「家書万金に抵る」の「家書」とは、家族からの手紙のこと。
当時の中国では、すでに郵便の文化があったよ。
戦乱の中、自分は反乱軍に捕まってしまい、疎開先に置いてきた家族が無事なのかどうかはとても心配になるよね。
だから、家族からの手紙は多額のお金に匹敵するくらい価値がある、と詠っているんだ。
※ここでは、家族からの便りが届かない状況であるという考え方が一般的だよ。
第七句「白頭掻更短」の意味と情景
「白頭掻けば更に短く」の「白頭」は、白髪頭のこと。
なぜここで「白髪」となっていないかというと、漢詩には、ざっくり説明すると音のイントネーション(平坦・上がり・下がり)のパターンの規則があって、「白髪」にしてしまうと、その規則通りにならないため、仕方なく「白頭」としたと考えられているよ。
「掻く」動作は、中国では「不安」や「悩み」をあらわすんだったよね。
戦乱の中、自分は捕まってしまい、家族の無事が分からない状況は不安で仕方がないよね。
白髪頭を掻くせいで、髪がますます抜け落ちて少なくなってしまったことを表現することで、不安で心を痛めている杜甫の心情を印象づけているんだね。
第八句「渾欲不勝簪」の意味と情景
「渾べて簪に勝えざらんと欲す」の「簪」とは、中国の成人男性がかぶる「冠」を留めるための道具だね。
頭のマゲに、冠をかぶせて、外側から簪を挿すことで、冠を留めるんだよね。
不安から頭を掻いてしまい、髪が薄くなってしまった今では、この簪を挿すこともできなくなりそうだ、と言っているんだよね。
「冠をかぶれない」ということは、中国の成人男性にとっては「役人としての努めができない」とか「一人前ではなくなる」という意味も含まれるんだ。
反乱軍に捕まってしまい、もう自分は役人として朝廷のために活躍することもできなければ、家族のもとにも帰ることができないのではないか、と自分の運命に絶望している杜甫の悲痛な思いが込められているんだよ。
ちなみにここでの「欲す」は、英語で例えると「want」ではなく、「will」のイメージ。「~したい」ではなく、「~なろうとしている」という意味だよ。
このままでは、簪が挿せなくなりそうだ、という未来を表現しているんだね。
杜甫「春望」テスト対策ポイントまとめ
杜甫「春望」テスト対策ポイントまとめ
- 作者は唐代の詩人である杜甫で詩聖と称されている
- 詩の形式は「五言律詩」
- 第二句・第四句・第六句・第八句の4箇所(深・心・金・簪)で韻が踏まれている
- 第一句と第二句、第三句と第四句、第五句と第六句が対句になっている
- 詩の主題と作者の心情は「戦乱によって破れた国と別れた家族を思う悲しみ」
- 国・城とは長安のこと
- 烽火とは戦いののろしのこと
- 家書とは家族からの手紙のこと
- 簪とは冠を留めるために挿すもの
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ゆみねこ
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青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。