小川洋子『百科事典少女』解説!あらすじ・主題・表現の工夫

中学3年生の国語で学習する、小川洋子(おがわようこ)さんの『百科事典少女』について、あらすじや登場人物、表現の工夫、テストで問われやすいポイントをわかりやすく解説するよ。

この作品は、アーケードの読書休憩室を舞台に、「私」とRちゃん、そしてRちゃんの父である「紳士おじさん」のつながりを描いた物語だよ。

一見すると「百科事典が好きな女の子の話」に見えるけれど、実は、本を通して人と人がつながること、そして亡くなった人の気配が、残されたものの中に生き続けることが、静かに描かれているんだ。

たろう
百科事典って、調べものに使う本だよね? それが物語になるの?

くまごろう
そこがこの作品のおもしろいところだよ。百科事典が、ただの本ではなく、Rちゃんの心や世界そのもののように描かれているんだ。

『百科事典少女』テスト対策ポイントまとめ

  • Rちゃんは、物語ではなく百科事典のような「本当のお話」を好んでいる。
  • 読書休憩室は、Rちゃんが自分らしくいられる大切な場所である。
  • 「私」とRちゃんはどちらも本が好きだが、好む本や世界との向き合い方が違う。
  • Rちゃんと紳士おじさんは百科事典を順番にたどる点で共通しているが、読む目的は少し違う。
  • 「アッピア街道」は、百科事典の知識が想像の旅へ変わる場面として重要である。
  • 最後の「ンゴマ」は、Rちゃんが行き着けなかった「ん」に、紳士おじさんがたどり着いたことを表している。
  • 比喩・象徴・情景描写・反復・余韻などの表現の工夫に注目しよう。

1. 『百科事典少女』のあらすじ

物語の語り手である「私」は、アーケードの二階に住んでいる少女だよ。

「私」の父は、アーケードの一角に読書休憩室を作る。そこには本棚や椅子、ホットレモネードが用意されていて、買い物に来た人たちが本を読んだり休んだりできる場所だった。

「私」は、父が作った読書休憩室で本を読むのが大好きだった。父が誕生日やクリスマスにくれる本を本棚に並べるたび、自分の世界が少し広がったように感じていたんだ。

そこへ、同じ学校のRちゃんが通うようになる。

Rちゃんは学校では無口で、一人でいることが多い女の子だった。でも読書休憩室では、学校とは別人のように生き生きとして、本についてたくさん話すようになる。

「私」が物語を好むのに対して、Rちゃんが好きなのは百科事典だった。Rちゃんは百科事典を第一巻から順番に、一ページずつていねいに読んでいく。

しかし、Rちゃんは百科事典の最後までたどり着くことができない。病気で亡くなってしまうからだ。

Rちゃんの死後、読書休憩室に、Rちゃんのお父さんである「紳士おじさん」がやってくるようになる。紳士おじさんは、Rちゃんがしていたように百科事典を第一巻から順番に開き、今度はそれを大学ノートに一字ずつ書き写していく。

長い年月をかけて、紳士おじさんはついに百科事典の最後の項目まで書き写す。そして、それを終えると、二度とアーケードに姿を見せなくなるんだ。

2. 登場人物を整理しよう

小川洋子「百科事典少女」の登場人物である私、Rちゃん、紳士おじさん、父が、読書休憩室と百科事典を通してどのようにつながっているかを整理した図解。

物語の語り手。子どものころ、父が作った読書休憩室で本を読むことが大好きだった少女だよ。

物語や童話のような「うそのお話」を好み、Rちゃんとは本の好みが違っている。でも、Rちゃんの声や百科事典を読む姿にひかれていく。

Rちゃんの死後も、ひまわりの椅子、百科事典、手提げ袋、紳士おじさんの姿を通して、Rちゃんの気配を感じ続けている人物だね。

Rちゃん

「私」と同じ学校に通う女の子。学校では無口で、一人でいることが多いけれど、読書休憩室では生き生きと本について話す。

物語よりも百科事典を好み、世界のさまざまなことを知ることに強くひかれている。

百科事典を一ページずつ順番に読む姿から、きちょうめんさ、根気強さ、知ることへの深い情熱が読み取れるよ。

紳士おじさん

Rちゃんの父。Rちゃんの死後、読書休憩室に通い、百科事典を第一巻から順番に大学ノートへ書き写していく。

Rちゃんの手提げ袋を持っていることや、百科事典を迷わず手に取ることから、「私」はすぐにRちゃんの父だと気づく。

紳士おじさんの行動は、ただ百科事典を写す作業ではない。亡くなった娘がたどった世界を、父がもう一度たどり直している行為だと考えられるよ。

「私」の父。読書休憩室を作り、百科事典を購入した人物。

父が百科事典を買ったことが、Rちゃんと百科事典の出会いにつながり、さらにRちゃんの死後、紳士おじさんが娘の世界をたどるきっかけにもなっている。

つまり父は、この物語の中で、本と人をつなぐ場を作った人でもあるんだ。

3. 読書休憩室はどんな場所か

読書休憩室は、もともと倉庫だった場所を、父が手を加えて作った部屋だよ。

買い物に疲れた人が休んだり、子どもが暇をつぶしたりできる場所で、本とホットレモネードが用意されている。アーケードのレシートを見せれば、誰でも好きなだけ利用できる仕組みだった。

「私」にとって読書休憩室は、ただの休憩場所ではない。父にもらった本を並べ、自分の世界が広がっていく場所だった。

本文では、新しい本を本棚に入れるとき、「一冊分の厚み」だけ世界が広がるように感じる場面があるね。

これは、本を一冊読むことで、知らなかった世界や物語、人の気持ちに出会えることを表しているよ。たとえば、自分の部屋の本棚にお気に入りの本が増えると、少し自分の居場所が豊かになったように感じることがあるよね。それに近い気持ちだと考えると分かりやすいよ。

たろう
本棚に本が増えると、なんだか自分の世界が広くなった気がするかも。

くまごろう
そうだね。この作品では、本棚が「心の世界の広がり」と重ねて描かれているんだ。

4. Rちゃんはどんな人物か

Rちゃんは、学校ではあまり目立たない女の子として描かれている。

けれど、それは「何も考えていない」という意味ではないよ。むしろ、周りの子とは違うことを深く考えているような人物として描かれている。

ほかの子たちが遠足のお菓子や髪ゴムの色について悩んでいる間、Rちゃんは恐竜の体のつくりや機械のしくみのような、ほかの子が思いつかないようなことを考えているように見える。

ここから、Rちゃんは周りに合わせるよりも、自分の興味のある世界を大切にする子だと分かるね。

ただし、Rちゃんは孤独でかわいそうなだけの人物ではない。読書休憩室では、学校とはまったく違う顔を見せる。

本文では、Rちゃんが読書休憩室にたどり着くと、ようやく「吸うべき空気」を得たように見える、と表現されている。

これは、読書休憩室がRちゃんにとって、息苦しさから解放され、自分らしくいられる場所だったことを表しているよ。

学校では無口だったRちゃんが、読書休憩室ではおしゃべりで、おせっかいで、いきいきしている。つまり、場所が変わることで、Rちゃんの本当の姿が見えてくるんだ。

たろう
学校で静かな子でも、好きな場所や好きな話題だと急に生き生きすることってあるよね。

くまごろう
まさにそれだね。Rちゃんにとって、読書休憩室と百科事典は、自分らしさを出せる大切な場所と道具だったんだ。

5. 「私」とRちゃんの共通点と相違点

「私」とRちゃんは、性格も本の好みも違う。でも、二人には大きな共通点があるよ。

それは、本によって自分の世界を広げているということ。

「私」は物語を読むことで、想像の世界に入り込む。Rちゃんは百科事典を読むことで、現実の世界を一つずつ知っていく。

つまり、二人とも本を通して「今いる場所の外」へ出ていくような体験をしているんだね。

観点Rちゃん
好きな本物語・童話などの「うそのお話」百科事典などの「本当のお話」
本の楽しみ方物語にうっとりし、想像の世界を楽しむ知識を一つずつたどり、世界の仕組みを知る
読書休憩室での姿安心して本を読む学校では見せないほど生き生きする
共通点本によって、自分の世界を広げている

この二人は、同じ本好きでも、見ている方向が違うんだ。

「私」は物語の中へ入り、Rちゃんは百科事典を通して世界そのものへ向かっていく。違うからこそ、二人は互いに刺激を受け合っているんだね。

たろう
好きな本は違うけど、二人とも本で遠くへ行っている感じがするね。

くまごろう
うん。想像で旅するか、知識で旅するか。その違いが二人の個性なんだ。

6. 「うそのお話」と「本当のお話」の違い

「私」は物語や童話のような本を好んでいる。一方、Rちゃんが好きなのは百科事典だよ。

Rちゃんは、物語を「うそのお話」と呼ぶ。これは、物語が作り話だからだね。

ただし、ここで大切なのは、Rちゃんが物語を完全にばかにしている、ということではないよ。

Rちゃんは、物語の展開や登場人物について、とてもよく覚えている。だからこそ、「ご都合主義」「甘ったるい」などと批評できるんだ。

つまりRちゃんは、物語を知らないから否定しているのではなく、よく知ったうえで、自分は百科事典のような「本当のお話」により強くひかれているんだね。

「うそのお話」と「本当のお話」

  • 私が好きな本:物語・童話・小説のような想像の世界。
  • Rちゃんが好きな本:百科事典のような、実際の世界について書かれた本。
  • 二人の好みは違うけれど、どちらも「世界を広げる本」である。

身近な例で言えば、「私」はファンタジー小説や物語が好きなタイプ、Rちゃんは図鑑や雑学本、理科資料集を読むのが好きなタイプ、と考えるとイメージしやすいね。

7. 百科事典は何を表しているのか

この作品で、百科事典はただの調べものの本ではないよ。

Rちゃんにとって百科事典は、世界そのものを一つずつ知っていくための道のようなものだと考えられる。

Rちゃんは、百科事典を好きなページだけ読むのではなく、第一巻から順番に、一ページずつ読んでいく。つまらないページを飛ばすこともしない。

これはまるで、知らない町を一歩ずつ歩いていくような読み方だね。百科事典の一項目一項目が、Rちゃんにとっては、世界へつながる小さな扉だったんだ。

「私」には、液体窒素やロマネスク様式などを読んで何がおもしろいのか分からない。でもRちゃんにとっては、どんな項目にも意味がある。ここから、Rちゃんが世界の細かい部分まで大切に見ようとする人物であることが分かるよ。

「し」の巻と「ん」の意味

Rちゃんは、第五巻が「し」だけで一冊になっていることに感動している。

普通なら、「し」で始まる言葉が多いんだな、で終わってしまいそうだよね。でもRちゃんは、「し」という一文字が、世界の多くの部分を支えているように感じている。

一方で、最後の巻には「む」から「ん」までの多くの文字が入っている。Rちゃんは、それも「し」より劣っているとは考えない。

ここから、Rちゃんが目立つものだけでなく、小さなもの、地味なもの、最後に残るものにも価値を見つける人物であることが分かるよ。

そしてRちゃんは、最後の「ん」がどんなふうになっているのかを楽しみにしている。これは、百科事典を最後まで読み終えることを、まるで長い旅のゴールのように感じているからだね。

たろう
Rちゃんにとって「ん」は、ただの最後の文字じゃなくて、旅のゴールみたいなものなんだね。

くまごろう
そうだよ。だからこそ、Rちゃんがそこにたどり着けなかったことが、後半でとても大きな意味を持つんだ。

8. 「アッピア街道」の場面がもつ効果

『百科事典少女』の中で特に印象的なのが、Rちゃんが百科事典の「アッピア街道」の項目を声に出して読む場面だよ。

アッピア街道は、古代ローマの道についての説明だね。普通に考えれば、百科事典の説明文は、物語のように感動的なものではないかもしれない。

ところがこの作品では、Rちゃんの声を通して、その説明文がただの知識ではなく、読書休憩室から遠い世界へ出かける旅のように描かれている。

「私」とベベは、読書休憩室にいるはずなのに、Rちゃんの声に包まれながら、アッピア街道を歩いているような気持ちになる。

ここで大切なのは、百科事典の知識が、Rちゃんの声によって想像の風景に変わっていることだよ。

つまり「アッピア街道」の場面は、百科事典がただの情報の集まりではなく、読む人を遠い世界へ連れていく力を持っていることを示しているんだ。

また、この場面は後半の紳士おじさんの行動ともつながっている。

後半で紳士おじさんが百科事典を書き写すことは、Rちゃんが歩いた百科事典の道をたどり直すことだった。だから、アッピア街道は、Rちゃんの読書が「旅」であったことを読者に強く印象づける役割を果たしているんだ。

Rちゃんが百科事典のアッピア街道を読み上げることで、読書休憩室にいる私とベベの想像が遠い古代ローマの道へ広がっていく様子を表した図解。

たろう
百科事典を読んでるだけなのに、旅をしているみたいに感じるんだね。

くまごろう
うん。ここで百科事典は「調べる本」から「世界を歩くための道」に変わっているんだ。

9. Rちゃんの死後、読書休憩室はどう変わったか

Rちゃんは、百科事典の最後までたどり着くことなく、病気で亡くなってしまう。

ここで作品は、「私はとても悲しかった」と直接説明するのではなく、読書休憩室に残されたものを描くことで、その悲しみを伝えている。

たとえば、Rちゃんが座っていたひまわりの椅子には、Rちゃんの重みのくぼみが残っている。でも、そこに手を当てても、ひまわりは「いつまでも冷たい」ままだ。

これは、Rちゃんがもう戻ってこないことを、椅子の冷たさで表しているんだ。体温がない、ということは、そこにいたはずの人がもういないということだよね。

また、百科事典には誰も手を触れなくなる。本文では、それが「ただ一人、Rちゃんのための本」だったように描かれている。

つまり、百科事典は読書休憩室に残っていても、Rちゃんがいないと、開かれる意味を失ってしまったように見えるんだ。

ここには、人がいなくなったあと、その人が大切にしていたものだけが残る悲しさが表れているよ。

10. 紳士おじさんはなぜ百科事典を書き写したのか

Rちゃんの死から半年ほどたったころ、読書休憩室に「紳士おじさん」が現れる。

「私」はすぐに、紳士おじさんがRちゃんの父だと気づく。理由は二つあるよ。

  • Rちゃんが使っていた手提げ袋を持っていたこと。
  • たくさんの本の中から迷わず百科事典を手に取ったこと。

紳士おじさんは、Rちゃんと同じように百科事典を第一巻から順番に開く。でも、読むだけではない。大学ノートに、一字ずつ書き写していく。

この行動は、とても時間がかかるし、体も疲れるはずだよね。では、なぜ紳士おじさんはそんなことをしたのだろう。

本文では、その理由ははっきり説明されていない。けれど、描写から考えると、紳士おじさんは、亡くなったRちゃんが読んだ百科事典の道を、もう一度自分の手でたどっていたのだと考えられる。

Rちゃんは百科事典を最後まで読むことができなかった。だから紳士おじさんは、娘の身代わりのように、その先の道を一歩ずつ進んでいったのかもしれない。

本文では、紳士おじさんの作業が、娘が探索した道をたどり、娘が行き着けなかった道を踏みしめるようなものとして描かれている。

これは、ただの写し書きではない。紳士おじさんにとっては、娘の記憶にふれるための時間であり、娘ともう一度一緒に旅をするような行為だったと考えられるよ。

写し終えたときの紳士おじさんの心情

百科事典の最後の項目を書き写し終えたとき、紳士おじさんは大きく泣いたり、感情を爆発させたりしない。

ただ鉛筆を置き、消しゴムのかすを払い、レモネードを飲み、百科事典を閉じる。そして、表紙をなで、両腕に抱えて本棚にしまう。

この一つ一つの動作は、とても静かだけれど、深い意味を持っているよ。

百科事典を閉じることは、Rちゃんと一緒にたどってきた長い旅を終えること。表紙をなでることは、その本に宿っている娘の時間や思い出をいたわること。両腕に抱えることは、百科事典をただの本ではなく、Rちゃんの存在そのもののように大切にしていることを表していると考えられる。

紳士おじさんにとって、最後まで書き写すことは、娘が行き着けなかった場所へたどり着くことだった。そして同時に、娘を失った悲しみと向き合い、自分なりに一区切りをつけることでもあったのだろう。

泣き叫ぶ場面ではないからこそ、読者はかえって、おじさんの静かな悲しみと愛情の深さを感じるんだ。

たろう
大きく泣かないから、逆に胸にくるね……。

くまごろう
そうだね。小川洋子さんの表現は、感情を直接言わず、動作や物で心を伝えてくるんだ。

また、紳士おじさんは読書休憩室に通うたび、アーケードで小さな買い物をする。絵はがき、石、ねじなど、手提げ袋に入る小さなものばかりだね。

これらは、アーケードの中に散らばる「世界のかけら」のように描かれている。百科事典が世界の知識を集めた本なら、手提げ袋は、紳士おじさんが少しずつ集めた小さな百科事典のようなものだと考えられるよ。

11. Rちゃんと紳士おじさんの共通点と相違点

Rちゃんと紳士おじさんは親子だけれど、物語の中では、百科事典を通して強く結びついて描かれているよ。

二人のいちばん大きな共通点は、百科事典を第一巻から順番にたどること。途中を飛ばさず、一ページずつ進んでいく姿はとてもよく似ている。

ただし、二人の目的は少し違う。

観点Rちゃん紳士おじさん
百科事典への向き合い方読む書き写す
目的世界を知りたい、最後の「ん」まで行きたい娘が読んだ世界をたどり直したい
姿勢好奇心にあふれている静かな祈りや追悼のように続けている
共通点百科事典を、世界をたどる道のように扱っている

Rちゃんにとって百科事典は、まだ知らない世界へ向かうための本だった。

一方、紳士おじさんにとって百科事典は、亡くなった娘の気配をたどるための本になっている。

つまり、Rちゃんは未来へ向かって読む。紳士おじさんは娘の過去をたどりながら書き写す。同じ百科事典でも、二人にとっての意味は少し違うんだ。

けれど、どちらにとっても百科事典は、ただの本ではない。世界とつながり、大切な人とつながるための道になっているんだね。

12. 最後の「ンゴマ」の意味と効果

物語の最後には、百科事典の最後の項目として「ンゴマ」が示される。

Rちゃんは生前、最後の「ん」がどんなふうになっているのかを楽しみにしていた。でも、そこへたどり着くことはできなかった。

紳士おじさんが第十巻の最後の項目を書き写すことは、Rちゃんが行き着けなかった最後の「ん」に、父がたどり着いたことを意味している。

だから「ンゴマ」は、単なる楽器の名前ではない。Rちゃんと紳士おじさんの長い旅の終着点なんだ。

Rちゃんが百科事典の最後の「ん」にたどり着けなかったあと、紳士おじさんが百科事典を書き写して最後の項目「ンゴマ」まで到達する意味を示した図解。

なぜ最後が「ンゴマ」の説明で終わるのか

普通なら、物語の最後は「紳士おじさんはもう来なくなった」「私は深く悲しんだ」のように、登場人物の気持ちを説明して終わってもよさそうだよね。

でもこの作品は、最後に百科事典の項目そのものを置いて終わる。

この終わり方には、大きな効果があるよ。

  • Rちゃんが楽しみにしていた「ん」に、本当にたどり着いたことが読者に伝わる。
  • 百科事典の世界が、物語の最後まで生き続けているように感じられる。
  • 登場人物の気持ちを説明しすぎないことで、静かな余韻が残る。
  • Rちゃんの不在と、紳士おじさんの長い作業の終わりが、かえって深く感じられる。

もし最後の「ンゴマ」の記述がなかったら、物語は「紳士おじさんが来なくなった」という出来事で終わることになる。

その場合、読み終えた印象は、少し説明的で、寂しさだけが前に出るものになったかもしれない。

しかし「ンゴマ」があることで、読者は「ここがRちゃんの夢見ていた最後の『ん』なのだ」と感じることができる。

つまり、最後の「ンゴマ」は、物語をただの別れで終わらせず、Rちゃんと紳士おじさんの長い旅が静かに完結したことを示しているんだ。

たろう
最後が説明じゃなくて百科事典の項目だから、余計に静かで忘れられない感じがするね。

くまごろう
そう。読者に「感じさせて終わる」ラストなんだ。だから余韻が強いんだよ。

13. 指示語の内容を確認しよう

『百科事典少女』は文章が美しいぶん、指示語の内容を見失うと読みにくくなることがあるよ。テストでも問われやすいので、確認しておこう。

本文中の表現指している内容読み取りのポイント
その仕組みアーケードのレシートを見せれば、読書休憩室を自由に利用できる仕組み。父が考えた、読書休憩室の利用方法のこと。
それを読むのと同じくらい新しい本を本棚に並べること。「私」にとって、本を棚に入れることも読書と同じくらいわくわくする行為だった。
その様子父が中庭や店先で仕事をしている様子。「私」は本の世界に入りながらも、父の存在を確認して安心している。
そういう細かいことRちゃんがレシートを持っていないのに、読書休憩室にいること。Rちゃんには、周囲に細かいルールを気にさせない独特の存在感がある。
そこ読書休憩室。Rちゃんが自分らしく呼吸できる場所として描かれている。
それ十冊セットの百科事典。高価で重い百科事典が、後にRちゃんと紳士おじさんをつなぐ大切な本になる。
その項目Rちゃんが声に出して読んでいる百科事典の項目。ベベの耳の動きによって、百科事典の内容が生き生きと感じられる。
それ本棚に並んでいる百科事典。Rちゃんの死後、百科事典はRちゃんの気配を宿した本として扱われる。
そのとき百科事典の最後の項目を書き写し終えるとき。長く続いた紳士おじさんの作業が、静かに終わる場面。

14. 表現の工夫を読み取ろう

教科書の目当てにもあるように、『百科事典少女』では表現の工夫を読み取ることが大切だよ。ここでは、短い本文表現を取り上げながら、その効果を確認しよう。

工夫1:比喩で人物の居場所を表している

Rちゃんが読書休憩室に来たときの様子は、「吸うべき空気」という表現で描かれている。

これは、読書休憩室がRちゃんにとって、息苦しさから解放される場所だったことを表しているよ。

学校では無口で一人だったRちゃんが、読書休憩室ではおしゃべりで生き生きしている。つまりこの比喩によって、読書休憩室がRちゃんの本当の居場所だったことが伝わるんだ。

工夫2:声の描写で、読書の世界を広げている

Rちゃんの声は、「小ぬか雨」のようだと表現されている。

小ぬか雨とは、細かく静かに降る雨のこと。つまりRちゃんの声は、大きく目立つ声ではなく、静かで落ち着いていて、周りにしみこんでいくような声だと分かる。

その声を聞いているうちに、「私」とベベは、百科事典に書かれたアッピア街道を本当に歩いているような気持ちになる。

ここでは、知識を読むだけでなく、知識が想像の風景に変わっていく様子が描かれているんだ。

工夫3:百科事典を「旅」のように描いている

Rちゃんが百科事典を読む場面では、ただ文字を追うだけではなく、アッピア街道をどこまでも歩いていくような描写がある。

読書休憩室にいながら、遠いローマの道を歩いているように感じられるのは、百科事典の知識と「私」の想像が結びついているからだよ。

この工夫によって、百科事典が単なる情報の集まりではなく、読む人を遠い世界へ連れていく本として描かれている。

工夫4:物の描写で悲しみを表している

Rちゃんの死後、ひまわりの椅子は「いつまでも冷たい」と描かれる。

これは、「Rちゃんがいなくなって悲しい」と直接書くかわりに、椅子の冷たさで、Rちゃんがもう戻らないことを伝えている表現だよ。

また、誰も百科事典を開かなくなることで、百科事典がRちゃんだけの特別な本だったことも分かる。

直接「悲しい」と言わなくても、残された物の変化によって、悲しみや喪失感が伝わってくるんだね。

工夫5:紳士おじさんとRちゃんを重ねている

紳士おじさんが百科事典を書き写す場面では、Rちゃんの残像と重なり、「一つの影」のようになる表現がある。

これは、紳士おじさんが娘のまねをしているだけではなく、娘の歩んだ世界を自分もたどっていることを表しているよ。

父と娘が同じ百科事典を通してつながり、読書休憩室の中で、二人が一緒に旅をしているように感じられる表現なんだ。

工夫6:手提げ袋を「もう一つの百科事典」のように描いている

紳士おじさんがアーケードで買い集めた小さな品物は、「世界のかけら」のように描かれている。

百科事典が世界中の知識を集めた本なら、手提げ袋はアーケードの中の小さな世界を集めたものだと考えられるね。

そして、その手提げ袋はもともとRちゃんのものだった。だから手提げ袋は、Rちゃんの思い出を入れるものでもあり、紳士おじさんがRちゃんと一緒に集めた世界のようにも見えるんだ。

工夫7:最後に百科事典の項目を置いて余韻を残している

物語の最後には、「ンゴマ」という百科事典の項目が置かれている。

この終わり方によって、読者は「Rちゃんが楽しみにしていた最後の『ん』に、紳士おじさんがたどり着いたんだ」と感じることができる。

説明しすぎず、百科事典の言葉そのものを最後に置くことで、静かな余韻が生まれているんだ。

15. 言葉の意味

テストで出やすい言葉の意味を確認しておこう。

言葉意味
理知的落ち着いていて、知性が感じられる様子。
頓着細かいことを気にすること。「頓着しない」は、気にしないという意味。
ご都合主義物語などで、都合よく話が進みすぎること。
暗黙言葉には出さないが、お互いに分かっていること。
いたわる相手や物事を大切に思い、やさしく扱うこと。
同意相手の意見に賛成すること。
大仰実際より大げさなこと。
差し障り都合の悪いこと。支障。
ほつれる糸や布の端がほどけること。
たいていほとんどの場合。多くの場合。
了解意味や事情を理解して、承知すること。
延々と長く続く様子。
傍らそば。近く。
談笑打ち解けて楽しく話すこと。
浸るある気持ちや雰囲気の中に入り込むこと。
堅苦しい形式ばっていて、気軽でない様子。
途切れる続いていたものが途中で切れること。

16. 新出漢字と読み方

本文に出てくる新出漢字を確認しよう。

漢字音読み訓読み
シン
ケイいこ(い)
ユイ・イ
タン
ロウ
ゆ(う)・ゆ(わえる)
トン
ケンかぎ
タイふくろ
ハイすた(れる)
さ(げる)
カツかわ(く)
リョウ
ゴウ
コウ
しり
グウ
チツ
エンその
カイ・ガイまち
カン
コウ
サイ・ソクふさ(ぐ)・ふさ(がる)
チョウつ(る)
ガン
ヤク
ハイさかずき
えら(い)
イ・ユイ

17. まとめ

小川洋子さんの『百科事典少女』は、読書休憩室を舞台に、「私」とRちゃん、そしてRちゃんの父である紳士おじさんのつながりを描いた物語だよ。

Rちゃんは百科事典を読むことで、世界を一つずつ知ろうとしていた。けれど、最後の「ん」までたどり着くことなく亡くなってしまう。

その後、紳士おじさんは百科事典を書き写し続けることで、娘が歩いた道をたどり、娘が行けなかった場所まで進んでいく。

この作品では、悲しみや愛情が、直接的な言葉ではなく、椅子、手提げ袋、百科事典、鉛筆の音、ベベの姿などを通して静かに描かれている。

テストでは、Rちゃんの人物像、「私」とRちゃんの違い、Rちゃんと紳士おじさんの共通点、百科事典の意味、アッピア街道の効果、最後の「ンゴマ」の意味が問われやすいよ。

『百科事典少女』まとめ

  • Rちゃんにとって百科事典は、世界を知るための大切な本だった。
  • 読書休憩室は、Rちゃんが自分らしくいられる場所だった。
  • 「私」とRちゃんは本を通して世界を広げる点で共通している。
  • Rちゃんは百科事典を読み、紳士おじさんはそれを書き写すことで、同じ道をたどった。
  • 「アッピア街道」は、百科事典の知識が想像の旅へ変わることを示している。
  • 最後の「ンゴマ」は、Rちゃんが行き着けなかった最後の「ん」へ父がたどり着いたことを表している。
  • 主題は、本や記憶を通して、人の存在や思いが残されていくことだと考えられる。

ここまで理解できたら、『百科事典少女』のテスト対策問題やドリルにも挑戦して、内容をしっかり定着させよう。

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青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。 ※サイト全体の運営実績についてはこちらにまとめています。

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