(古典)「筒井筒」(伊勢物語より)原文・現代語訳・品詞分解
高校古文で学習する伊勢物語の「筒井筒」について、現代語訳、文法の重要ポイント、品詞分解などテスト対策に役立つポイントを解説するよ。
目次
伊勢物語「筒井筒」解説
伊勢物語「筒井筒」テスト対策ポイントまとめ
- 伊勢物語は平安時代に成立した現存最古の歌物語
歌物語とは、すべての話が和歌を中心としてつくられているもの。 - 「筒井筒」とは井戸囲いのこと。
そこで遊んでいた幼なじみの男女が、成長して夫婦になった後のお話 - 男が河内の妻のもとに通うようになったのは、大和の女の親が亡くなって生活に困るようになったから
- 「かかる」の内容は、大和の女が不快な様子も見せずに男を送り出している態度のこと
- 男が河内へ行かなくなったのは、大和の女の健気で女性らしい様子を愛しく思い、高安の女の品の無さに幻滅もしたから
- 「風吹けば」の和歌には、序詞・掛詞・縁語が使われている。
伊勢物語「筒井筒」あらすじ
井戸のそばでよく遊んでいた二人の子供がいた。
二人は大人になると、お互いに惹かれ、やがて思いを遂げて結婚する。
しかし女の親が亡くなって生活に困ると、男は河内の高安の新しい妻のもとへ通うようになってしまった。
しかし、大和の女(おさななじみ)は、嫌そうな様子をみせない。
大和の女が浮気でもしているのではと疑った男は、河内へ行くふりをして庭に隠れて様子を見た。
女は、男がいなくてもきちんと化粧をし、河内へ出かける男の身を案じる歌を詠んでいた。
その姿をあまりに愛しいと思った男は、高安の女の下品なところを情けないと思っていたのもあって、高安へは行かなくなってしまった。
伊勢物語「筒井筒」原文
伊勢物語「筒井筒」(第二十三段)
昔、田舎渡らひしける人の子ども、井のもとに出(い)でて遊びけるを、大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、男は、この女をこそ得めと思ふ。女は、この男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。さて、この隣の男のもとより、かくなむ。
筒井筒井筒にかけしまろが丈過ぎにけらしな妹(いも)見ざるまに
女、返し、
くらべこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずしてたれか上ぐべき
など言ひ言ひて、つひに本意(ほい)のごとくあひにけり。
さて、年頃経(ふ)るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらむやはとて、河内(かふち)の国高安(たかやす)の郡(こほり)に、行き通ふ所出で来にけり。さりけれど、このもとの女、悪(あ)しと思へる気色(けしき)もなくて、出だしやりければ、男、異心(ことごころ)ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、前栽(ぜんざい)の中に隠れゐて、河内へ往(い)ぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧(けさう)じて、うちながめて、
風吹けば沖つ白浪(しらなみ)たつた山夜半(よは)にや君がひとり越ゆらむ
と詠みけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
まれまれ、かの高安に来てみれば、初めこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づから飯匙(いひがひ)取りて、笥子(けこ)の器物(うつはもの)に盛りけるを見て、心憂がりて行かずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方(かた)を見やりて、
君があたり見つつををらむ生駒(いこま)山雲な隠しそ雨は降るともと言ひて見出だすに、からうじて、大和人(やまとびと)、「来(こ)む。」と言へり。喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
君来むと言ひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞ経ると言ひけれど、男、住まずなりにけり。
伊勢物語「筒井筒」現代語訳
昔、地方を回って生計を立てていた人の子供たち二人が、(幼いころ)井戸のそばに出て(一緒に)遊んでいたが、大人になってしまったので、男も女もお互いに恥ずかしがっていたけれども、男は、この女こそ妻にしようと思う。女は、この男を(夫にしよう)と思いながら、親が(他の男と)結婚をさせようとするけれども、言うことを聞かないでいた。そうして、この隣の男のもとから、このように(歌を詠んできた)。
井戸の井筒と高さを背比べした私の背丈は、(井筒の高さを)越してしまったに違いないよ。あなたに会わずにいる間に。
女は、返歌として、
(幼ないころにあなたと長さを)比べた私の振り分け髪も肩より長くなってしまった。あなたのほかに誰のために髪上げをしようか、いや、あなたしかいない。
などと互いに(歌を)やりとりし合って、とうとうかねてからの願いどおりに結婚した。
そうして数年が経つうちに、女は、親が亡くなって、よりどころがなくなるにつれて、(男は)二人ともに言ってもしかたない状態でいられようか、いや、いられないと思って、河内の国、高安の郡に、行き通う所ができてしまった。そうであったけれども、このもとの女は、不快そうな様子もなくて、(男を河内へ)送り出したので、男は、(女が)浮気心があってこのような(様子でいる)のであろうかと、思い疑って、庭の植え込みの中に隠れてしゃがんで、河内へ行ったふりをして(女の様子を)見ると、この女は、とても美しく化粧をして、もの思いにふけってぼんやりとして、
風が吹くので沖の白波が立つ、その「たつ」田山を夜中にあなたは一人で今頃越えているのだろうか
と詠んだのを聞いて、このうえなく愛しいと思って、(それからは)河内(の女のところ)へ行かなくなってしまった。
ごくまれに、あの高安(の女のところ)に来てみると、初めこそ奥ゆかしいように取り繕っていたけれど、今は(もう)打ち解けて、自分の手でしゃもじを取って、飯を盛る器に盛りつけるのを見て、情けないとおもって、行かなくなってしまった。そうであれば、あの(高安の)女、(男のいる)大和の方を見やって、
あなたのいらっしゃるあたりを見続けていよう。だから生駒山を雲よ隠すな。たとえ雨が降ったとしても。
と詠んで外を見やると、ようやく大和(の男の)人が「行こう。」と言った。(女は)喜んで待つが、何度も(男が来ないまま)過ぎてしまったので、
あなたが行こうと言った夜ごとに(来てくれないまま)過ぎてしまう。あてにはしていないが恋しく思いながら過ごしています。
と詠んだけれども、男は、行かなくなってしまった。
伊勢物語「筒井筒」口語訳
昔、地方を回って生計を立てていた人の子供たち二人が、幼いころに井戸のそばに出て一緒に遊んでいた。二人は大人になると、男も女もお互いに恥ずかしがってはいても、男は「この女こそ妻にしたい」と思い、女も「この男を夫にしよう」と思い、女の親が他の男と結婚をさせようとしても言うことを聞かないでいた。そうして、この隣の男のほうからこのような歌が届く。
井戸の囲いの高さと背比べした私の背丈は、もう囲いの高さを越してしまったに違いないよ。あなたに会わずにいる間に。
女は、返歌として
幼いころにあなたと長さ比べをした私の振り分け髪も肩より長くなってしまった。あなたのほかの誰のために髪上げをしようものか。いや、あなたしかいない。
などとお互いに歌をやりとりし合って、とうとうかねてからの願いどおりに結婚をした。
そうして数年が経つうちに、女の親が亡くなってしまい、頼るところがなくなって、男は「二人して貧乏ではいられない」と河内の国の高安の郡に、新しく妻を作って通うようになってしまった。それにもかかわらず、幼馴染の女は嫌そうにするでもなく、男を河内の妻のもとへ送り出すので、男は、女が浮気をしているので、このような態度を取っているのではないかと疑って、庭の植え込みの中に隠れてしゃがんで、河内へ行ったふりをして女の様子を見ていると、女はとても美しく化粧をして、もの思いにふけってぼんやりとして、
風が吹くので沖の白波が立っている。その「たつ」という名の「龍田山」を夜中にあなたは一人で今ごろ越えているのだろうか
と歌を詠んだのを聞いて、男は女をこのうえなく「愛しい」と思って、それからは河内の女のところへは行かなくなってしまった。
ごくまれに、あの高安の女のところに来てみると、初めこそ奥ゆかしいように取り繕っていたが、今はもう打ち解けて、自分の手でしゃもじを取って飯を器に盛りつける姿を見て、「情けない」と思って行かなくなってしまった。そんなわけで、高安の女は男のいる大和の方を見やって、
あなたのいらっしゃるあたりを見続けていよう。だから雲よ、生駒山を隠すな。たとえ雨が降ったとしても。
と歌を詠んで外を見ると、ようやく大和の男が「行こう。」と言った。女は喜んで待つものの、男が来ないまま何度も過ぎてしまったので、
あなたが来ると言った夜ごとに、結局来てくれないまま過ぎてしまう。もうあてにはしていないけれども、恋しく思いながら過ごしています。
と歌を詠んだけれど、男は、行かなくなってしまった。
伊勢物語「筒井筒」古語の意味
「筒井筒」で使われている意味を紹介するので注意してね。
古語 | 意味 |
---|---|
田舎渡らひしける人 | 田舎とは地方のこと。地方を回って、生計を立てていた人のこと。 |
恥ぢかはして | 「恥ぢかはす」とは、お互いに恥ずかしがること。 |
得めと思ふ | 妻にしようと思う。 |
あはす | 合わせる。ここでは結婚させるという意味。 |
聞かでなむ | 聞き入れない。ここでは結婚させようとする親の言うことを聞かないという意味。 |
かくなむ | このように。その後に続く男の歌をさして、「このように(歌を詠んできた)」という意味で使われている。 |
筒井筒 | 井戸の周りを囲っているもの。「井戸囲い」 |
井筒 | これも井戸囲いの意味。 |
井筒にかけし | 井筒の高さと背比べをしたという意味。 |
まろが丈 | 私の背丈。 |
過ぎに | ここでは井筒の背丈を私の背丈が過ぎたという意味。 |
けらしな | 過去推定の助動詞の終止形+詠嘆の助詞「な」 「過ぎにけらしな」で、背丈を過ぎてしまったに違いないよ、という意味。 |
妹 | 男性から女性のことを親しみを込めて呼ぶときの言葉。二人は幼馴染のため、このような呼び方をしている。 |
くらべこし振り分け髪 | 振り分け髪とは、男女ともに昔の子供がするおかっぱ頭のこと。左右に分けて肩のあたりで切りそろえた髪型。「くらべこし」で、「あなたと長さを比べた(あの)振り分け髪」という意味。 |
上ぐ | 髪上げのこと。昔は、女性が12~14歳ごろに大人になる証として髪を結い上げた。 |
本意 | 本来の目的。かねてからの願い。ここでは、両想いだった二人が結婚すること。 |
あひにけり | 結婚した。 |
年頃経る | 数年が経つ |
親なく | 親を亡くす |
頼りなくなるままに | 頼りとは、生活のよりどころのこと。ここでは、女の親が亡くなってしまい、生活を頼るところが無くなってしまったという意味。 |
もろとも | 二人とも。 |
いふかひなくて | 言っても仕方のない状態という意味。ここでは、貧乏な暮らしのことを意味する。 |
河内の国高安の郡 | 現在の大阪府八尾市のあたり |
行き通う所 | 「通う」とは、昔の男性が女性のところに会いに行くという意味をもち、ここでは「新しい妻のもとへ通う」という意味になる。 |
もとの女 | ここでは、男が筒井筒で遊んだ幼馴染の女のこと。 |
悪し | 不快。悪しと思へる景色もないとは、女が不快そうにしている様子がないこと。 |
気色 | 顔色。 |
異心 | 浮気心。 |
かかる | このような。ここでは、男が他の妻のもとに通うのに、「悪しと思へる気色もなくて、出だしやりければ」な筒井筒の女の様子のこと。 |
前栽 | 庭の植え込みのこと。 |
往ぬる顔 | 行ってしまうふり。 |
うちながむ | もの思いにふけって、ぼんやりすること。 |
風吹けば沖つ白浪 | 「たつ」を導く序詞(じょことば)になっている。 風が吹くので、沖の白波が立つという意味。 |
たつた山 | 奈良県生駒郡にある龍田山のこと。龍田山と、白波が立つの「たつ」を掛け合わせている。 |
夜半 | 夜中。 |
かなし | 愛おしい。 |
まれまれ | めずらしく・たまたま。 |
心にくし | (人柄が)奥ゆかしい。 |
つくりけれ | 取り繕っていたがという意味。 |
飯匙 | ご飯をよそう「しゃもじ」のこと。 |
笥子の器物 | ご飯を盛る器のこと。 |
心憂がる | 「こころうがる」は情けないと思うこと。 |
大和 | 現在の奈良県。 |
生駒山 | 奈良県生駒市と大阪府東大阪市の境にある山の名前。 |
頼まぬものの | あてにはしていないが。 |
恋ひつつぞ経る | 恋しく思いながら過ごす。 |
住まずなりにけり | 行かなくなってしまった。 |
「筒井筒」内容とポイント
伊勢物語「筒井筒」のテスト問題を解くために知っておくべき、お話の内容やポイントを紹介するよ。
「筒井筒」には、主要人物が3人登場するよ。
- 男:女の幼馴染。女と結婚するも、高安にも妻をつくってしまう。
- 女:男の幼馴染。男が高安に行っても奥ゆかしく待つような女性。
- 高安の女:男が新たに作った妻。
最初に登場するのは、「男」と「女」。
ふたりは小さいころから井戸で遊んでいた幼馴染。
大人になって、お互いを意識するようになって、愛の歌を送り合ったあとに念願かなって結婚をするね。
この「女」のことは、お話の中では「もとの女」「この女」というようにも書かれているよ。
「もとの女」だなんて、まるで「新しい女」がいるよう・・・と思うよね。
そう、その通り。なんと男は新しい妻を作ってしまうんだ。
新しい妻は、河内の高安というところに住んでいるよ。
お話の中では「かの女」と書かれているよ。また、男が「河内へ行く」「高安へ行く」というのは、高安の新しい妻のもとへ行くという意味になるよ。
「筒井筒~」「くらべこし~」の歌は何を伝えようとしているのか
「筒井筒~」「くらべこし~」の和歌は、幼なじみの男と女がお互いに向けて詠み交わした和歌。
男は幼なじみである大和の女を妻にしたいと思っていて、大和の女も両親に他の男の人と結婚させられそうになっても聞き入れずにいたんだよ。二人は両想いだったんだね。
「筒井筒~」は男が女に向けて詠んだ和歌で、「井戸囲いで背比べをしていたあの頃から自分も成長しました。長い間ずっとあなたを思い続けてきましたよ」と自分の気持ちを伝えているんだよ。
和歌の中に出てくる「妹」という言葉は恋愛の対象になる女性を指す言葉だから、そういったところからも男の気持ちを理解することができるね。
男のプロポーズの和歌に対する返歌が女の詠んだ「くらべこし~」の歌。
「昔は短かった髪も伸びました。あなた以外だれのために髪を結いあげるでしょうか」と、男の歌に合わせて自分も十分に成長し、大人の女性になったことを伝えているんだ。
平安時代では髪を結いあげるのは成人の証であり、女は男のために大人になりたい、つまり結婚したいと言っているんだね。
どうして男は新しい妻を作ったのか
きっかけは女の親が亡くなってしまって、生活が苦しくなってしまったこと。
平安時代は、結婚後は男が女の実家へ通う「通い婚」が主流。食事や身の回りの品物など、妻の実家の生活費でまかなうんだ。
なので、女の親が亡くなってしまって生活が苦しくなってしまったので、男は「二人とも貧乏でいられるか、いや、いられない」と思って河内の高安のとろこの新しい妻のもとへ通うようになってしまったんだね。
現在で考えるとかなり「酷い‥!」と思ってしまうけれど、当時は一夫多妻制。ほかに妻をつくっても社会的に認められる時代。
ちなみに、男が「自分まで貧乏になるのは嫌だ」と思って河内の妻のところへ行ってしまったのか、それとも「自分の食事などの生活費の負担が少しでも減るように、他に行こう」と大和の女を気遣っていたのか、どちらなのか、それともまた別の理由なのかは詳しくは書かれていないのでわからないよ。
「かかるにやあらむ」とはどのような内容のことを言っているのか
「異心ありてかかるにやあらむ」とは、「浮気心があって、このような態度を取るのであろうかと」という意味。
「かかる(このような)」とは、どのような態度のことを言っているのかというと、大和の女の「悪しと思へる気色もなくて、出だしやりければ」の部分。
意味は「不快に思う様子もなく、(男を高安へ)送り出したので」。
本当なら、愛する夫には、他の妻のところへなんか行って欲しくないはずだよね。それなのに「不快に思う様子もない」なんて、男は「あれ?嫌じゃないの?」と不思議に思ったんだね。
他の妻のところへ出かけるのに、大和の女がすんなりと送り出してくれるので、「もしかして、大和の女も浮気をしているのでは!?」と疑ったということだね。
男は何を「限りなくかなし」と思ったのか
大和の女の浮気を疑った男は、河内へ行くふりをして、庭の植え込みに隠れて女の様子を見ていたね。
すると、大和の女は、夫である自分がいなくてもきちんと美しく化粧をして、さらには自分のことを心配するような歌を詠んでいたね。
夫がいなくてもきちんと身なりを整える女性らしさ、そして他の妻のもとへ行ってしまう夫の心配までするいじらしさ。健気さ。
そんなところに、男は一気にやられちゃったんだね。
男はなぜ河内に行かなかったのか
男は、自分が高安の女のもとへ行くことを知っているにも関わらず、恨み言ひとつ言ってこない大和の女を不信に思っていた。大和の女が浮気をしているんじゃないかと疑っていたんだね。
そこで、男は河内へ行くふりをしてこっそり庭から大和の女の様子を見ていたんだ。そこで聞いたのが、大和の女が作った、山路を一人で越えていく夫の身を案じ、無事を祈る気持ちを詠んだ和歌だったんだよ。大和の女は男がそばで聞いていることを知らないから、何か訴えようと思って詠んだ和歌ではなかったけれど、彼女の男を心配する本当に純粋な気持ちが、結果的には男の心を強く動かしたんだね。
大和の女と高安の女はそれぞれどんな人なのか
大和の女は男の幼なじみ。男が他の女のもとへ通うのに恨み言一つこぼさず男を心配する優しい妻であり、男がいなくても化粧をして身だしなみを整えているきちんとした慎み深い女性だったんだね。
一方、高安の女が男に向けて詠んだ歌は、大和の女とは違い自分のもとへ来てくれないことを恨む自分中心の歌。最初は取り繕っていたものの、徐々にぼろが出て、ご飯を自らよそうという平安時代のマナー違反を男の前で平気でしてしまい、幻滅されてしまうんだね。高安の女は大和の女に比べて慎みや教養が足りていないという欠点はあったけれど、男を追いかける情熱的で自由な女性であったという見方もできるよ。
まとめると、男が河内へ行かなくなってしまった理由は
- 大和の女があまりに健気で女性らしく、愛しくなってしまったから
- 高安の女の品の無さに情けないと思い、幻滅したから
この2つが大きな理由だね。
「筒井筒」文法
伊勢物語の「筒井筒」で使われている文法について、テストでもよく出される重要なものを詳しく紹介するよ。
歌枕
歌枕とは、よく和歌に出てくる有名な地名のことだよ。
「風吹けば~」の歌で出てくる「たつた山(竜田山)」は現在の奈良県西北部と大阪府南部の境にある山で、当時大和の国と河内の国をつなぐ道になっていたと考えられているんだ。
ちなみに、この歌で「たつた山」がひらがなで表現されているのは、白波が「たつ」と掛詞になっているからだよ。
「風吹けば」の歌の序詞・掛詞・縁語について
風吹けば沖つ白浪(しらなみ)たつた山夜半(よは)にや君がひとり越ゆらむ
この和歌には、序詞と掛詞、縁語が使われているよ。
序詞
序詞は、ある語句を導くために前置きとして用いる修飾語のこと。
「風吹けば沖つ白波」が「たつ」の序詞になっているよ。
掛詞
掛詞は同じ音で違う意味をもつ言葉。ダジャレみたいなものだったね。
「たつ」は白波が立つという意味と、龍田川という意味を持つ掛詞になっているよ。
縁語
縁語は、意味・内容のうえでつながりのある語。
「たつ」と「越ゆ」は、「波」の縁語になっているよ。
「な~そ」の意味
副詞「な」は禁止の終助詞「そ」と呼応し、柔らかい禁止を表すよ。
「君があたり~」の和歌に出てくる「な隠しそ」は、隠さないでおくれ、という意味になるね。
「肩過ぎぬ」の「ぬ」
この「ぬ」は、完了の助動詞の終止形。
くらべこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずしてたれか上ぐべき
の三句切れなので、連体形ではなくて終止形ということがわかる。
また、終止形なので打消しの助動詞「ず」ではなく、完了の意味ということがわかる。
夜半にや君がひとり越ゆらむの「らむ」
この「らむ」は現在推量の助動詞の連体形。下二段活用動詞「越ゆ」の終止形に接続していて、係助詞「や」の結びとなっているから連体形になっているよ。
「筒井筒」品詞分解
昔 | 名詞 |
田舎渡らひ | 名詞 |
し | サ行変格活用「す」の連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
人 | 名詞 |
の | 格助詞 |
子ども、 | 名詞 |
井 | 名詞 |
の | 格助詞 |
もと | 名詞 |
に | 格助詞 |
出で | 下二段活用「出づ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
遊び | 四段活用「遊ぶ」の連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
を | 格助詞 |
おとな | 名詞 |
に | 格助詞 |
なり | 四段活用「なる」の連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ば | 接続助詞 |
男 | 名詞 |
も | 格助詞 |
女 | 名詞 |
も | 格助詞 |
恥ぢかはし | 四段活用「恥ぢかはす」の連用形 |
て | 接続助詞 |
あり | ラ行変格活用「あり」の連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」の已然形 |
ど | 接続助詞 |
男 | 名詞 |
は | 係助詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
女 | 名詞 |
を | 格助詞 |
こそ | 係助詞 |
得 | 下二段活用「得」の未然形 |
め | 意思の助動詞「む」の已然形 |
と | 格助詞 |
思ふ | 四段活用「思ふ」の終止形 |
女 | 名詞 |
は | 係助詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
男 | 名詞 |
を | 格助詞 |
と | 格助詞 |
思ひ | 四段活用「思ふ」の連用形 |
つつ | 接続助詞 |
親 | 名詞 |
の | 格助詞 |
あはすれ | 下二段活用「あはす」の已然形 |
ども | 接続助詞 |
聞か | 四段活用「聞く」の未然形 |
で | 接続助詞 |
なむ | 係助詞 |
あり | ラ行変格活用「あり」の連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
さて | 接続詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
隣 | 名詞 |
の | 格助詞 |
男 | 名詞 |
の | 格助詞 |
もと | 名詞 |
より | 格助詞 |
かく | 副詞 |
なむ | 係助詞 |
筒井筒 | 名詞 |
の | 格助詞 |
井筒 | 名詞 |
に | 格助詞 |
かけ | 下二段活用「かく」の連用形 |
し | 過去の助動詞「き」の連体形 |
まろ | 代名詞 |
が | 格助詞 |
たけ | 名詞 |
過ぎ | 下二段活用「過ぐ」の連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けらし | 過去推量の助動詞「けらし」の終止形 |
な | 詠嘆の終助詞 |
妹 | 代名詞 |
見 | 上一段活用「見る」の未然形 |
ざる | 打消の助動詞「ず」の連体形 |
ま | 名詞 |
に | 格助詞 |
女 | 名詞 |
返し | 名詞 |
くらべ | 下二段活用「くらぶ」の連用形 |
こ | か行変格活用「く」の未然形 |
し | 過去の助動詞「き」の連体形 |
振り分け髪 | 名詞 |
も | 係助詞 |
肩 | 名詞 |
過ぎ | 上二段活用「過ぐ」の連用形 |
ぬ | 完了の助動詞「ぬ」の終止形 |
君 | 名詞 |
なら | 断定の助動詞「なり」の未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
して | 接続助詞 |
たれ | 代名詞 |
か | 係助詞(反語) |
上ぐ | ガ行下二段活用「上ぐ」の終止形 |
べき | 推量の助動詞「べし」の連体形 |
など | 副助詞 |
言ひ | ハ行四段活用「言ふ」の連用形 |
言ひ | ハ行四段活用「言ふ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
ついに | 副詞 |
本意 | 名詞 |
の | 格助詞 |
ごとく | 比況の助動詞「ごとし」の連用形 |
あひ | ハ行四段活用「あふ」の連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
さて | 接続詞 |
年ごろ | 名詞 |
経る | ハ行下二段活用「経」の連体形 |
ほど | 名詞 |
に | 格助詞 |
女 | 名詞 |
親 | 名詞 |
なく | 形容詞・ク活用「なし」の連用形 |
頼り | 四段活用「頼る」の連用形 |
なく | 形容詞・ク活用「なし」連用形 |
なる | ラ行四段活用「なる」の連体形 |
まま | 名詞 |
に | 格助詞 |
もろともに | 副詞 |
いふかひなくて | 形容詞・ク活用「いふかひなし」の連用形 |
あら | ラ行変格活用「あり」の未然形 |
む | 推量の助動詞「む」の終止形 |
やは | 係助詞または終助詞 |
と | 格助詞 |
て | 接続助詞 |
河内 | 名詞 |
の | 格助詞 |
国 | 名詞 |
高安 | 名詞 |
の | 格助詞 |
都 | 名詞 |
に | 格助詞 |
行き通う | ハ行四段活用「行き通う」の連体形 |
所 | 名詞 |
出で来 | カ行変格活用「出で来」の連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
さりけれど | ラ行変格活用「さり」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形+接続助詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
もと | 名詞 |
の | 格助詞 |
女 | 名詞 |
悪し | 形容詞・シク活用「悪し」の終止形 |
と | 格助詞 |
思へ | ハ行四段活用「思ふ」の已然形 |
る | 存続の助動詞「り」の連体形 |
気色 | 名詞 |
も | 係助詞 |
なく | 形容詞・ク活用「なし」の連体形 |
て | 接続助詞 |
出だしやり | ラ行変格活用「出だしやる」の連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
ば | 接続助詞 |
男 | 名詞 |
異心 | 名詞 |
あり | ラ行変格活用「あり」の連用形 |
て | 接助詞 |
かかる | ラ行変格活用「かかり」の連体形 |
に | 断定の助動詞「なり」の連用形 |
や | 係助詞 |
あら | ラ行変格活用「あり」の未然形 |
む | 推量の助動詞「む」の連体形 |
と | 格助詞 |
思ひ疑ひ | ハ行四段活用「思ひ疑ふ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
前栽 | 名詞 |
の | 格助詞 |
中 | 名詞 |
に | 格助詞 |
隠れゐ | ワ行上一段活用「隠れゐる」の連用形 |
て | 接続助詞 |
河内 | 名詞 |
へ | 格助詞 |
往ぬる | ナ行変格活用「往ぬ」の連体形 |
顔 | 名詞 |
にて | 格助詞 |
見れ | マ行上一段活用「見る」の已然形 |
ば | 接続助詞 |
こ | 代名詞 |
の | 格助詞 |
女 | 名詞 |
いと | 副詞 |
よう | 形容詞・ク活用「よし」の連用形「よく」のウ音便 |
化粧じ | サ行変格活用「化粧ず」の連用形 |
て | 接続助詞 |
うちながめ | マ行下二段活用「うちながむ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
風 | 名詞 |
吹け | カ行四段活用「吹く」の已然形 |
ば | 接続助詞 |
沖 | 名詞 |
つ | 格助詞 |
白波 | 名詞 |
たつた山 | 名詞 |
夜半 | 名詞 |
に | 格助詞 |
や | 係助詞 |
君 | 代名詞 |
が | 格助詞 |
ひとり | 名詞 |
越ゆ | ヤ行下二段活用「越ゆ」の終止形 |
らむ | 現在推量の助動詞「らむ」の連体形 |
と | 格助詞 |
詠み | マ行四段活用「詠む」の連用形 |
ける | 過去の助動詞「けり」の連体形 |
を | 格助詞 |
聞き | カ行四段活用「聞く」の連用形 |
て | 接続助詞 |
かぎりなく | 形容詞・ク活用「かぎりなし」の連用形 |
かなし | 形容詞・シク活用「かなし」の終止形 |
と | 格助詞 |
思ひ | ハ行四段活用「思ふ」の連用形 |
て | 接続助詞 |
河内 | 名詞 |
へ | 格助詞 |
も | 係助詞 |
行か | カ行四段活用「行く」の未然形 |
ず | 打消の助動詞「ず」の連用形 |
なり | ラ行四段活用「なる」の連用形 |
に | 完了の助動詞「ぬ」の連用形 |
けり | 過去の助動詞「けり」の終止形 |
まれまれ | 副詞 |
か | 代名詞 |
の | 格助詞 |
高安 | 名詞 |
に | 格助詞 |
来 | カ行変格活用「来」の連用形 |
て | 接続助詞 |
みれ | マ行上一段活用「みる」の已然形 |
ば | 接続助詞 |
初め | 名詞 |
こそ | 係助詞 |
心にくく | 形容詞・ク活用「心にくし」の連用形 |
も | 係助詞 |
つくり | ラ行四段活用「つくる」の連用形 |
けれ | 過去の助動詞「けり」の |
運営者情報
ゆみねこ
詳しいプロフィールを見る
青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。