「虎の威を借る狐」漢文(故事成語)の現代語訳・書き下し文と意味

高校古文(言語文化)で学習する漢文の「虎の威を借る狐(狐虎の威をかる)」白文・訓読文・書き下し文と現代語訳、定期テストで必要となる重要な文法のポイントなどをくわしく解説するよ。

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「虎の威を借る狐」漢文(故事成語)の 現代語訳・書き下し文と意味

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目次

「虎の威を借る狐」解説

「虎の威を借る狐」について、意味やもととなった漢文などについて解説するよ。

「虎の威を借る狐」の意味

「虎の威を借る狐」は、日本でもよく使われている「ことわざ」だよね。
意味としては、「ほかの人の権力を盾にして、いばること」だね。

たとえばドラ〇もんで言えば、ガキ大将のジャ〇アンに珍しいオモチャをプレゼントして取り入っておいて、ジャ〇アンの権力を後ろ盾にしていばっているスネ〇のような状態だね。

「ほかの人の権力を盾にいばっている人」という意味で「虎の威を借る狐」、
「ほかの人の権力を縦にしていばる」ことを「虎の威を借る」というように使ったりするよ。

「虎の威を借る狐」の由来は?

「虎の威を借る狐」の話がでてくるのは、中国の「戦国策」という本

前漢の学者である「劉向(りゅうきょう)」という人が、中国の戦国時代に国々で制作や策略を説いてまわった遊説家のことばや行動を国別に集めて、編纂した書物なんだ。全部で三十三巻から成るよ。

なんと「戦国時代」という名前はこの本が由来なんだって。

戦国時代の中国にあった「楚」という国のある大臣が外国から恐れられているという噂を聞いた王様が、家来に「どうしてあの大臣がそんなに恐れられているんだ?」と聞いたところ、「大臣が恐れられているのは、王様の軍隊が後ろにあるから」ということを説明するために、この「虎の威を借る狐」のエピソードを話したと言われているよ。

「虎の威を借る狐」白文

借虎威

虎求百獣而食之。得狐。狐曰、

 「子無敢食我也。天帝使我長百獣。今、子食我、是逆天帝命也。子以我為不信、吾為子先行。子随我後観。百獣之見我、而敢不走乎。」

 虎以為然。故遂与之行。獣見之皆走。虎不知獣畏己而走也。以為畏狐也。

語句意味
百獣ありとあらゆる獣
天帝天の神様
逃げる

「虎の威を借る狐」訓読文

漢文「虎の威を借る狐」の訓読文の画像

「虎の威を借る狐」書き下し文

虎百獣を求めてこれを食らふ。きつねを得たり。

はく、「へて我を食らふこと無かれ。

天帝我をして百獣に長たら使む。

今、子我を食らはば、れ天帝の命に逆らふなり

子我をもつて信ならと為さば、われ子のために先行せん。

子我が後にしたがひてよ。

百獣我を見て、敢へて走ららん。」と。

虎以てしかりとす。

故につひこれ行く。

獣之を見て皆走る。

虎獣の己をおそれて走るを知らなり。 以つて狐を畏ると為すなり

「虎の威を借る狐」現代語訳

虎が獣たちを探し求めて食べていたが、ある時に狐をつかまえた。

その狐が言うには、「あなたは決して私を食べてはいけません。

天帝が私を(すべての)獣たちの王にしたのです。

もしいまあなたが私を食べるならば、それは天帝の命令に逆らうことになるのです。

あなたが私のことを信用できないと思うならば、私はあなたのために前に立って歩きましょう。あなたは私の後ろについてきて、その様子をみてください。

すべての獣が私を見て、どうして逃げないことがありましょうか、いや、必ず逃げます。」と。虎は狐の言うことをもっともだと納得した。

そこでそのまま狐と一緒に行くことになった。

獣たちは虎と狐が一緒に歩いているのを見てみんな逃げた。

虎は獣たちが自分(虎)を怖れて逃げたということに気がつかなかった。 虎は獣たちが狐を怖れているのだと思ったのである。

「虎の威を借る狐」内容と文法のポイント

「虎の威を借る狐」の定期テストで必要となる知識や、ポイントとなる内容、重要な文法(句形)について紹介するよ。

重要な句形「無敢」

これは「敢へて~無かれ」という書き下し文になり、「決して~してはいけない」という禁止の句形になるよ。

「虎の威を借る狐」では、「決して私(狐)を食べてはいけない」という意味で使われているね。

重要な句形「使AB」

これは「AをしてB(せ)しむ」という書き下し文になり、「AにBさせる」という使役の句形となるよ。

「虎の威を借る狐」では、「(天帝が)私(狐)を獣たちの王にした」という意味になっているね。

「使役」は「~させる」という意味でよくテストに出題されるので注意しておこう!

重要な句形「今~」

これは「今~ならば」という書き下し文になり、「もし~ならば」という仮定の句形となるよ。

「虎の威を借る狐」では「もし今あなた(虎)が私(狐)を食べるならば」という使い方がされているね。

重要な句形「敢不~乎」

これは「敢へて~ざらんや」という書き下し文になり、「どうして~しないことがあるでしょうか、いや、~します」という否定の反語となるよ。

置字

「虎求百獣而食之」・「而敢不走乎」・「虎不知獣畏己而走也」

ここで使用されている「而(ジ)」は読むことはないけれど、接続として使用される言葉だね。

「而」の直前に読む語の送り仮名が「〜て、〜して」と読む場合は順接として使うよ。
「虎求百獣而食之」は、「虎百獣を求め」(而)「之を食らう」なので、順接だね。
「而敢不走乎」も「敢え」(而)「走らざらんやと」なので順接。
「虎不知獣畏己而走也」も「虎獣の己を畏れ」(而)「走るを知らざるなり」なので順接だね。

「而」の直前に読む語の送り仮名が「〜ども」と読む場合は逆接として使うんだ。

訓読で注意する語「之」

本文中には3回「之」が出てくるね。
それぞれが何を指すのかを整理しておきましょう。

1つ目の「虎求百獣而食之」の「之」は「獣(百獣)」のこと「これ」と読むよ。「百獣」とは、「あらゆる獣」のことだよ。虎が百獣を求めて、これ(百獣)を食べるという意味で使われているよね。

2つ目の「百獣之見我」の「之」は「の」と読むので注意しよう。漢文の「之」は、「これ」という使い方の他にも、「~の」や、「ゆく(行く)」という使い方をすることもあるんだ。
「百獣之見我」の「之」は、「百獣の我を見て」つまり、「百獣が私をみて」という意味でつかわれているよ。

3つ目の「故遂与之行」の「之」は「狐」のこと「これ」と読むよ。
「故に遂にこれと行く」の「これ」は、狐に「自分の後ろからついて来て観るように」と言われた虎が、「これ(狐)」と一緒に行った、という意味で使われているよ。

4つ目の「獣見之皆走」の「之」は「狐と虎」のことだね。やっぱり「これ」と読むよ。
「獣これを見て皆走る」つまり、「獣達がこれ(狐と虎)を見て、みんな走って逃げた」という意味で使われているね。

訓読で注意する語「以A為B」と「以為」

「子以我為不信」で使われている「以我為不信」。これは「Aを以ってBと為す」という書き下し文になり、「AをBと思う」という意味になるよ。
「我を以って不信と為す」なので、「私(狐)のことを信用できないと思うならば」という使い方がされているね。

この「以A為B」は漢文において重要な語法としてよく出てくるので、しっかり覚えておこう!

「虎以為然」で使われている「以為~」は、「思うことには~と」という意味で使われるんだ。「虎が然りと思った」ということだね。つまり、「虎が狐の言うこと(信じられないなら、後ろからついて来て観てみればよい)が、然り(当然だ)と思った」ということ。

ここでは、「以て然りと為す」と読むけれど、「以為~」は、「おもへラク~ト」という読むこともあるので注意しよう。

訓読で注意する語「故遂与之行」の「与」

これは「~と」と訳す言葉だよ。日本語ではなかなか「与」を「と」と読むことは無いので、注意がひつようだね。
「之(狐)」と共に虎が行動するという意味になるね。
ここでの「~と」の役割を押さえておこうね。

虎以為然の「然」

これは「然(しか)り」という読み方で、「もっともだ」という意味になるよ。

ここでは狐が言った内容である「狐は百獣の長であり、すべての獣は狐を怖れる。それを証明するために狐が虎に先行して一緒に行く」ということについて虎が「もっともだ」と納得した、ということだね。

「見」と「観」の違い

「虎の威を借る狐」では、「見る」と「観る」がそれぞれ使い分けられているね。
「見る」と「観る」は基本的にはどちらも目で見ることだけれど、「見る」はただ目にするのに比べて、「観る」は「観察」ということばでも使われるように、様子を注意して探ったりするというニュアンスがあるんだ。

狐が虎に対して言った「自分が先に行くので後ろから観よ」の「観よ」は、どんなことが起こるのか、注意して観てほしいという意味が込められているんだね。

運営者情報

青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。

感想や意見を聞かせてね

  1. leoanko22 より:

    コメント失礼します。
    とても分かりやすく、復習の際に利用させていただいています。
    さて、質問をしたいのですが、重要文法にあった「以為」について
    授業で扱った時、「以為へらく」と書き下し文に書いてありました。
    しかし、検索エンジンで調べた際、「おもへらく」では変換に出てこなかったものの、
    「おもえらく」だと変換に出てきました。
    もうすぐで期末テストがありますが、その時もし問われたら、授業通りに書くべきなのか、
    「おもえらく」と書いた方がいいのか、どちらの方がいいでしょうか?

    • yumineko より:

      leoanko22さん

      コメントありがとうございます。
      「おもへらく(以為へらく)」は歴史的仮名遣いでの表記ですね。
      これを現代仮名遣いにしたものが「おもえらく」となります。
      ちなみに、私も試しに検索をしてみましたが、「おもえらく」も「おもへらく」も出てきたので、もしよろしければ
      もう一度試してみてもいいかもしれません(検索エンジンを変えると、検索結果も変わるので)。

      ですので、「おもへらく」も「おもえらく」もどちらも正しいです。
      期末テストでは、もし「歴史的仮名遣いで書きなさい」とあれば、「おもへらく」と答え、「現代仮名遣いで答えなさい」とあれば
      「おもえらく」で答えれば大丈夫かと思います。
      そのような指示がない場合は、基本的に期末テストは「授業で、先生が言ったとおり」にするのが一番安心です笑

      テスト頑張ってください!応援しています!

      • leoanko22 より:

        返信ありがとうございます。
        返信が早くて助かりました。
        実は明日古典のテストで今日ふと気づいたので、質問させていただきました。
        感謝しかないです。

        • leoanko22 より:

          参考までに、
          今日のテストでは現代仮名遣い、歴史的仮名遣いでも構わないという条件のもと
          問題が出ました。
          困惑せずに済みました。
          改めてありがとうございました。

  2. leoanko22 より:

    コメント失礼します。
    お時間があれば、新しい内容を投稿してほしいのですが、
    「今昔物語集 玄象といふ琵琶、鬼のためにとらるること」
    をお願いしたいです。
    無理を承知ですが、お願いします。

    • Tintin SAMURAI より:

      わたくしもお願いしたいと思っておりました。

    • yumineko より:

      コメントありがとうございます。

      「今昔物語集 玄象といふ琵琶、鬼のためにとらるること」ですが、
      恐れ入りますが、こちらは学校の授業で取り扱われている作品でしょうか。
      というのは、当サイトで取り扱う題材は、学校で教材として学習するものを対象としておりますため、
      それ以外のものとなってしまうと、検索での需要なども考慮して対応するのがむずかしいところがあります。

      少しでもみなさまのお役にたつためには、できるだけ多くの学校・教科書で取り扱われている題材の解説記事を
      優先的に投稿する必要があり、なかなか広いところまで手がまわらず心苦しく思っております。
      もし教科書に掲載されている作品ということでしたら、ぜひまたお声がけいただけますと幸いです。

      どうぞ宜しくお願いいたします。

      • leoanko22 より:

        返信ありがとうございます。

        多くの学校で取り扱っているかは分からないもの、
        一応自分の学校では取り扱うことになっています。

        • yumineko より:

          leoanko22さん

          お返事ありがとうございます。

          承知致しました。
          少しお時間をいただいてしまうかとは思いますが、
          微力ながら解説記事を書けるように頑張りますね。
          ありがとうございます。