「走れメロス」あらすじと全文・テスト対策ポイント解説まとめ
中学2年生の国語で学習する太宰治の「走れメロス」について、あらすじや、作者の太宰治について、登場人物と物語の内容についての解説をまとめているよ。
「走れメロス」の全文と、出てくる言葉の意味もまとめているよ。
目次
「走れメロス」あらすじ
走れメロス
作 太宰 治
たった一人の妹の結婚式の準備のために、シクラスの町にやってきたメロスは、町の寂しい様子を不安に思います。
王が人を殺すと知ったメロスは、激怒し、王城へ向かいます。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。」と怒るメロスに、王は「疑うのは正当な心構えだ。人間は私欲の塊だから、信じてはならぬ。」と言います。
処刑されることになったメロスは、無二の親友セリヌンティウスを人質にする代わりに、妹の結婚式のために三日間の日限が欲しいと頼みます。
メロスは約束を破ると疑う王は、三日後にセリヌンティウスを処刑して「これだから人は信じられぬ」と見せつけるために、あえてメロスを利用しようと、メロスの提案を受け入れるのでした。
メロスは、一睡もせずに村へ帰り、無事に妹の結婚式を挙げさせます。
王との約束どおり、町へ戻る道中、濁流や山賊など、数々の困難がメロスを襲いますが、乗り越えていくメロス。
ところが、疲れ切って動けなくなったメロスの心に、どうでもいいというふてくされた根性が広がります。
弱音を吐き、言い訳を並べ、動けない自分を正当化し、投げやりになり…メロスは、とうとう四股を投げ出し、眠ります。
けれども、メロスは再び走り出します。
セリヌンティウスが自分を信じてくれているから、走るのです。
まさに日没を迎えようとしたとき、メロスは刑場に突入しました。
セリヌンティウスと再会したメロスは、セリヌンティウスを裏切ろうとしたことを告白し、自分を殴るよう頼みます。
同じくセリヌンティウスも、一度だけメロスを疑ったことを告白し、自分を殴るよう頼みます。
互いに殴り合い、抱き合ったメロスとセリヌンティウスの姿を見た王は、「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。」と心を動かされ、「どうか、わしをも仲間に入れてほしい。」と頼むのでした。
群衆からは「万歳、王様万歳。」と歓声が起こりました。
「走れメロス」の作者について
「走れメロス」は、太宰治さんが 書いた小説だよ。
太宰治さんは明治四十二年に生まれた小説家で、第二次世界大戦前から戦後にかけて、多くの名作を生み出したよ。
「富岳百景」や「人間失格」などの小説も書いているよ。
「走れメロス」全文
メロスは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。メロスは政治がわからぬ。
メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らしてきた。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
今日未明、メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里離れたこのシラクスの町にやって来た。
メロスには父も、母もない。女房もいない。十六の、内気な妹と二人暮らしだ。この妹は、村のある律儀な一牧人を、近々花婿として迎えることになっていた。結婚式も間近なのである。
メロスは、それゆえ、花嫁の衣装やら祝宴のごちそうやらを買いに、はるばる町にやって来たのだ。
まず、その品々を買い集め、それから都の大路(おおじ)をぶらぶら歩いた。
メロスには竹馬(ちくば)の友があった。セリヌンティウスである。今はこのシラクスの町で、石工をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく会わなかったのだから、訪ねていくのが楽しみである。
歩いているうちにメロスは、町の様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、町の暗いのはあたりまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりではなく、町全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になってきた。道で会った若い衆を捕まえて、何かあったのか、二年前にこの町に来たときは、夜でも皆が歌を歌って、町はにぎやかであったはずだが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。
しばらく歩いて老爺(ろうや)に会い、今度はもっと語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺の体を揺すぶって質問を重ねた。老爺は、辺りをはばかる低声で、僅(わず)か答えた。
「王様は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心(あくしん)を抱いているというのですが、誰もそんな、悪心をもってはおりませぬ。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、初めは王様の妹婿様を。それから、ご自身のお世継ぎを。それから、妹様を。それから、妹様のお子様を。それから、皇后様を。それから、賢臣のアレキス様を。」
「驚いた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を信ずることができぬというのです。このごろは、臣下の心をもお疑いになり、少しく派手な暮らしをしている者には、人質一人ずつ差し出すことを命じております。ご命令を拒めば、十字架にかけられて殺されます。今日は、六人殺されました。」
聞いて、メロスは激怒した。「あきれた王だ。生かしておけぬ。」
メロスは単純な男であった。買い物を背負ったままで、のそのそ王城に入っていった。たちまち彼は、巡邏(じゅんら)の警吏(けいり)に捕縛された。調べられて、メロスの懐中(かいちゅう)からは短剣が出てきたので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは王の前に引き出された。
「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれども威厳をもって問い詰めた。その王の顔は蒼白(そうはく)で、眉間のしわは刻み込まれたように深かった。
「町を暴君の手から救うのだ。」とメロスは、悪びれずに答えた。
「おまえがか?」王は、憫笑(びんしょう)した。「しかたのないやつじゃ。おまえなどには、わしの孤独の心がわからぬ。」
「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁(はんばく)した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑っておられる。」
「疑うのが正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私欲の塊さ。信じては、ならぬ。」暴君は落ち着いてつぶやき、ほっとため息をついた。
「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「何のための平和だ。自分の地位を守るためか。」今度はメロスが嘲笑(ちょうしょう)した。
「罪のない人を殺して、何が平和だ。」
「黙れ。」王は、さっと顔を上げて報いた。「口では、どんな清らかなことでも言える。わしには、人のはらわたの奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、今にはりつけになってから、泣いてわびたって聞かぬぞ。」
「ああ、王は利口だ。うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ねる覚悟でいるのに。命乞いなど決してしない。ただ、ー」と言いかけて、メロスは足元に視線を落とし、瞬時ためらい、「ただ、私に情けをかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えてください。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰ってきます。」
「ばかな。」と暴君は、しゃがれた声で低く笑った。「とんでもないうそを言うわい。逃した小鳥が帰ってくると言うのか。」
「そうです。帰ってくるのです。」メロスは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を三日間だけ許してください。妹が私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この町にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二(むに)の友人だ。あれを人質としてここに置いていこう。私が逃げてしまって、三日目の日暮れまで、ここに帰ってこなかったら、あの友人を絞め殺してください。頼む。そうしてください。」
それを聞いて王は、残虐な気持ちで、そっとほくそ笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰ってこないに決まっている。このうそつきにだまされたふりして、放してやるのもおもしろい。そうして身代わりの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代わりの男を磔刑(たっけい)に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいうやつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを聞いた。その身代わりを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。遅れたら、その身代わりを、きっと殺すぞ。ちょっと遅れて来るがいい。おまえの罪は、永遠に許してやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。命が大事だったら、遅れて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
メロスは悔しく、じだんだ踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。暴君ディオニスの面前で、よき友とよき友は、二年ぶりで相会うた。メロスは、友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無言でうなずき、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。セリヌンティウスは縄打たれた。メロスはすぐに出発した。初夏、満天の星である。
メロスはその夜、一睡もせず十里の道を急ぎに急いで、村へ到着したのは明くる日の午前、日は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事を始めていた。メロスの十六の妹も、今日は兄の代わりに羊群(ようぐん)の番をしていた。よろめいて歩いてくる兄の、疲労困憊(ひろうこんぱい)の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでもない。」メロスは無理に笑おうと努めた。「町に用事を残してきた。またすぐ町に行かなければならぬ。明日、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬を赤らめた。
「うれしいか。きれいな衣装も買ってきた。さあ、これから行って、村の人たちに知らせてこい。結婚式は明日だと。」
メロスは、また、よろよろと歩きだし、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
目が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。
婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらにはまだなんの支度もできていない、ぶどうの季節まで待ってくれ、と答えた。メロスは、待つことはできぬ、どうか明日にしてくれたまえ、とさらに押して頼んだ。婿の牧人も頑強(がんきょう)であった。なかなか承諾してくれない。
夜明けまで議論を続けて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだ頃、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸(しゃじく)を流すような大雨となった。祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺(こら)え、陽気に歌をうたい、手を打った。
メロスも満面に喜色(きしょく)をたたえ、しばらくは、王とのあの約束さえ忘れていた。祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。メロスは、一生このままここにいたい、と思った。このよい人たちと生涯暮らしていきたいと願ったが、今は、自分の体で、自分のものではない。ままならぬことである。
メロスは、我が身にむち打ち、ついに出発を決意した。明日の日没までには、まだ十分の時がある。ちょっとひと眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも長くこの家に愚図愚図(ぐずぐず)とどまっていたかった。メロスほどの男にも、やはり未練の情というものはある。今宵(こよい)呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。目が覚めたら、すぐに町に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しいことはない。おまえの兄のいちばん嫌いなものは、人を疑うことと、それから、うそをつくことだ。おまえも、それは知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
花嫁は、夢見心地でうなずいた。メロスは、それから花婿の肩をたたいて、
「支度のないのはお互いさまさ。私の家にも、宝といっては妹と羊だけだ。他には何もない。全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」
花婿はもみ手して、照れていた。メロスは笑って村人たちにも会釈(えしゃく)して、宴席から立ち去り、羊小屋に潜り込んで、死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。メロスは跳ね起き、南無三(なむさん)、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔(はりつけ)の台に上ってやる。メロスは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。王の奸佞邪智(かんねいじゃち)を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。
若いメロスは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。メロスは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳(よ)い夫婦になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、メロスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々(とうとう)と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵(こっぱみじん)に橋桁(はしげた)を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟(けいしゅう)は残らず浪に浚(さら)われて影なく、渡守りの姿も見えない。
流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」
濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽(あお)り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はメロスも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。
メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻(か)きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅(ししふんじん)の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍(れんびん)を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。
メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。」
「その、いのちが欲しいのだ。」
「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒(こんぼう)を振り上げた。メロスはひょいと体を折り曲げ、飛鳥(ひちょう)のごとく身近の一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、「気の毒だが、正義のためだ!」と猛然一撃(もうぜんいちげき)、たちまち三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。一気に峠を駆け降りたが、さすがに疲労し、折から午後の灼熱(しゃくねつ)の太陽がまともにかっと照ってきて、メロスは幾度となくめまいを感じ、これではならぬと気を取り直しては、よろよろ二,三歩歩いて、ついに、がくりと膝を折った。
立ち上がることができぬのだ。天を仰いで、悔し泣きに泣きだした。ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も打ち倒し、韋駄天(いだてん)、ここまで突破してきたメロスよ。真の勇者、メロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情けない。愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。おまえは、希代(きだい)の不信の人間、まさしく王の思うつぼだぞと自分を叱ってみるのだが、全身震えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍(ろぼう)の草原にごろりと寝転がった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いなふてくされた根性が、心の隅に巣くった。
私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんもなかった。神も照覧、私は精いっぱいに努めてきたのだ。動けなくなるまで走ってきたのだ。私は不信の徒ではない。ああ、できることなら私の胸を断ち割って、真紅の心臓をお目にかけたい。愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事なときに、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺(あざむ)いた。中途で倒れるのは、初めから何もしないのと同じことだ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定まった運命なのかもしれない。セリヌンティウスよ、許してくれ。君は、いつでも私を信じた。私も君を欺かなかった。私たちは、本当によい友と友であったのだ。一度だって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことはなかった。今だって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、セリヌンティウス。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世でいちばん誇るべき宝なのだからな。セリヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんもなかった。信じてくれ!私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。山賊の囲みからも、するりと抜けて、一気に峠を駆け降りてきたのだ。私だからできたのだよ。ああ、このうえ、私に望みたもうな。放っておいてくれ。どうでもいいのだ。私は負けたのだ。だらしがない。笑ってくれ。王は私に、ちょっと遅れて来い、と耳打ちした。遅れたら、身代わりを殺して、私を助けてくれると約束した。私は王の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は王の言うままになっている。私は遅れていくだろう。王は、独り合点(がってん・がてん)して私を笑い、そうしてこともなく私を放免するだろう。そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切り者だ。地上で最も不名誉の人種だ。セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君といっしょに死なせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがいない。いや、それも私の、独りよがりか?ああ、もういっそ、悪徳者として生き延びてやろうか。村には私の家がある。羊もいる。妹夫婦は、まさか私を村から追い出すようなことはしないだろう。正義だの、信実だの、愛だの、考えてみればくだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかもばかばかしい。私は醜い裏切り者だ。どうとも勝手にするがよい。やんぬるかな。ー四肢(しし)を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
「ああ、メロス様。」うめくような声が、風とともに聞こえた。
「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。
「フィロストラトスでございます。あなたのお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。「もう、だめでございます。無駄でございます。走るのはやめてください。もう、あの方をお助けになることはできません。」
「いや、まだ日は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。お恨み申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ日は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕日ばかりを見つめていた。走るより他はない。
「やめてください。走るのはやめてください。今はご自分のお命が大事です。あのか方は、あなたを信じておりました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様がさんざんあの方をからかっても、メロスは来ますとだけ答え、強い信念をもち続けている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ。ついてこい!フィロストラトス。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。まだ日は沈まぬ。最後の死力を尽くして、メロスは走った。メロスの頭は空っぽだ。何一つ考えていない。ただ、訳のわからぬ大きな力に引きずられて走った。日はゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も消えようとしたとき、メロスは疾風(しっぷう)のごとく刑場に突入した。間に合った。
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄(しわが)れた声が幽(かす)かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏(けいり)! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧(かじ)りついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。
「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若(も)し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯(うなず)き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑(ほほえ)み、
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
メロスは腕に唸(うな)りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
群衆の中からも、歔欷(きょき)の声が聞えた。暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みは叶(かな)ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」
ひとりの少女が、緋(ひ)のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
勇者は、ひどく赤面した。
「走れメロス」登場人物
主要な登場人物
- 【メロス】
笛を吹き、羊と遊んで暮らす村の牧人。邪悪に人一倍敏感で、人を殺すという王に激怒し、処刑されることになったたよ。
- 【王・暴君・暴君ディオニス】
ディオニスという名前の王。人間は私欲の塊で、信じてはいけないと考えており、たくさんの人を殺したよ。本文中では、「暴君」や「暴君ディオニス」とも書かれているよ。
- 【セリヌンティウス】
メロスの幼馴染であり、親友。処刑されるメロスが三日後の日没までに帰るまで、人質となり、必ず帰ると言うメロスを信じ続けたよ。
その他の登場人物
- 【若い衆】
町の様子が怪しいと思ったメロスが質問した、男性の若者。何も答えなかったよ。
- 【老爺】
町の様子が怪しいと思ったメロスが質問した、おじいさん。王様は、人を殺すと教えてくれたよ。
- 【妹】
メロスの十六歳の内気な妹。村の牧人と結婚式を挙げたよ。
- 【婿の牧人・花婿】
メロスの妹と結婚した牧人。
- 【山賊】
王のところへ戻るメロスを襲った、山賊。メロスは棍棒を奪い取って、三人を殴り倒し、走って峠を下ったよ。
- 【フィロストラトス】
セリヌンティウスの弟子。三日目の日暮れが迫っても走り続けるメロスに「もう走るのはやめてください。」と訴えたよ。
「走れメロス」内容と解説
「走れメロス」の場面分けごとに、内容とポイントを確認しよう。
登場人物のセリフや行動から、登場人物の気持ちを考えよう
「走れメロス」は、情景描写が豊かだから、情景描写にも注目すると、登場人物の心情や言動の変化を、より深く読み取ることができるよ。
第一の場面 メロスは王に激怒する
第一の場面は、「メロスは激怒した。」から「生かしてはおけぬ。」」まで。
【場所】シクラスの町
【内容】シクラスの町にやってきたメロスは、王が人を殺していることを知り、激怒したよ。
このお話は、「メロスは激怒した」という一文から始まっているね。
何に激怒したかというと、邪知暴虐の王に対してだね。
「必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬ」とは、王を殺すということだね。
なぜ激怒したかはわからないけれど、とにかく、王を殺さなければならないと決意したんだね。
その後の文章では、なぜ激怒したのかを説明するにあたり、まず「メロスがどんな人」で、「今どんな場面なのか」が説明されているよ。
「メロスがどんな人か」というと、「村の牧人で、笛を吹き、羊と遊んで暮らしている」「邪悪に対しては、人一倍に敏感」な人だね。
つまり、普段は田舎の村で羊たちとのんびり、のんきに暮らしているけれど、他の人以上に、悪いことや不正はよくないと強く思っていて、正義感が強い一面もあるんだね。
「どんな場面なのか」というと、メロスは、野を越え、山越え、村から十里離れたシクラスの町にやって来たところだね。
十里とは、約四十㎞だね。
なぜ、はるばる町まで来たかというと、妹の花嫁衣裳や祝宴のごちそうやらを買うためだね。
メロスは、父や母、女房もいなく、十六の内気な妹と二人暮らしだよね。
きっとメロスは、親の代わりとして 妹の面倒を見たり、助けたりしてきたんじゃないかな。
だから、妹が結婚するための準備も、唯一の家族であるメロスの大事な仕事だよね。
買い物を終えたメロスは、セリヌンティウスという石工を訪ねようと楽しみに思ったね。
二人がどんな関係なのかというと、「竹馬の友」だね。
つまり、メロスとセリヌンティウスは、幼馴染で、お互いのことをよくわかっている、気の合う親友なんだね。
メロスはきっと、「はるばるシクラスまで来たのだから、セリヌンティウスに会いたいな。」と思ったんじゃないかな。
けれどもメロスは、町の様子を怪しく思ったね。
なぜかというと、「ひっそりしていて」「町全体が、やけに寂しい」からだね。
のんきなメロスも、だんだん不安になってきたね。
なぜかというと、「二年前の町は、夜でも皆が歌を歌って、町はにぎやかだったのに何かあったのか」と 町の変わり様を心配したからだね。
二年前の、皆が歌ってにぎやかな町は、楽しくて平和そうだけれど、ひっそりして寂しい町は、暗く、不幸なイメージがあるね。
メロスは、若い衆に何かあったのかと質問したね。
若い衆は、首を振って答えなかったね。
次に、老爺に、今度はもっと語勢を強くして質問したね。
きっと「今度こそ事情を知りたい」という気持ちだったから、強い口調で質問したんだね。
老爺は答えなかったね。
メロスは、両手で老爺の体を揺すぶって質問を重ねたね。
口調を強めるだけではなく、強引な行動をとることで、無理やりにでも老爺に答えてもらおうとしたんだね。
きっと「なぜ答えないのか。何としてでも町の事情を知りたい。」と少しイライラした気持ちだったんじゃないかな。
老爺は、辺りをはばかる低声で、王が人を殺すと教えてくれたね。
「辺りをはばかる低声」ということは、自分の発言が周囲にばれないように、警戒していることがわかるね。
王様がどんな人を殺したのかというと
王の妹婿→自身の世継ぎ→妹→妹の子→皇后→賢臣のアレキス だね。
「自身の世継ぎ」とは、王が死んだ後に 王の身分を継承する人、つまり王の子だね。
「妹の子」は、世継ぎの次に、王になる順番が回ってくる人だね。
「皇后は」王の妻だね。
王がなぜ、家族や優秀な家臣を殺し始めたのかは書いていないね。
王がなぜ、家族や優秀な家臣を殺したのか書いていないけれど、王が死んだら次に王になる権利を持っている人や大きな決定権を握る人たちを殺しているから、もしかしたら、権力争いから王を亡き者にしようという企みや裏切りがあったのかもしれないね。
それから、王は、このごろは、臣下も疑い、少しく派手な暮らしをしている者には、人質を一人ずつ差し出すことを命じているんだね。
「少しく派手な暮らしをしている者」とは、裕福な暮らしをしている人のことだから、お金や力があり、王に対して反乱を起こすなどの心配があったのかもしれないね。
だから、人質を取ることで、王に逆らわないようにしていたのかもしれないね。
メロスは、王は乱心かと聞いたね。
きっと「家族や大事な家臣を殺しているなんて、信じられない。王は精神的な病気なのではないか。」と考えたんだね。
老爺の話によると、王は乱心ではなく、人を信じることができないから人を殺しているんだね。
なぜ人を信ずることができないかというと、人が悪心を抱いていると考えているからだね。
命令を拒めば、殺され、今日も六人殺されたんだね。
家族内で起こった何らかの事情から「人は信じてはいけない」という考えに至った王は、家族内だけでなく、家臣や民も信じられなくなったんだね。
そして、命令にそむいた者は処刑される状態が続いているから、民がおびえていて、町の様子が暗かったんだね。
若い衆が質問に答えなかったのも、老爺が辺りをはばかりながら答えたのも、「王が人を殺すなんて言ったことがばれたら、自分も処刑される」とおびえていたからだね。
町の人々が、思ったことを口に出せず、不自由で命の危険におびえる毎日を過ごしていたと想像できるね。
老爺の話を聞いたメロスは「あきれた王だ。生かしてはおけぬ。」と言ったね。
メロスが怒った理由は、「人を信じられない王が、たくさんの人を殺している」からだったんだね。
政治のことはよく知らないけれど、邪悪に人一倍敏感なメロスは「人を疑い、人を殺す王は許せない!」と思ったんだね。
「メロスは激怒した」の一文が、第一の場面の始めと終わりで繰り返されているから、メロスの怒りがより一層伝わってくるね。
第二の場面 処刑されることになったメロスは、妹の結婚式のために三日間の猶予をもらう
第二の場面は、「メロスは単純な男であった。」から「初夏、満点の星である。」まで。
【時間】初夏
【場所】王城
【内容】王を殺すために王城へ行ったメロスは、処刑されることになったよ。でも、妹の結婚式をあげるために、セリヌンティウスを人質に、三日間の猶予をもらったよ。
メロスは王に「人を疑うのは恥ずべき行為」と主張し、王は「疑うのは正当」と答える
メロスは単純な男であったね。
なぜかというと、「買い物を背負ったままで、のそのそ王城に入って」「懐中からは短剣が出てきた」からだね。
王を殺すなら、どうやって殺そうか念入りに計画を立てたり、怪しまれないように武器を隠したりする必要があるよね。
それなのに、メロスは何も計画を立てず、王を生かしてはおけぬという気持ちだけで、突っ走っていったんだね。
それに、老爺の話を聞いただけで、深く事情を知ろうとせずに「邪知暴虐の王」と決めつけている点も、感情的で単純な感じがするね。
メロスは、王の前に引き出されたね。
ここからは、王とメロスの会話文が続くよ。
暴君ディオニスは「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」と言ったね。
暴君ディオニスとは、王のことだね。
メロスは「町を暴君の手から救うのだ。」と言ったね。
王は、「おまえがか?」と、嘲笑し「仕方のないやつじゃ。おまえなどには、わしの孤独の心がわからぬ。」と言ったね。
王は、「メロスは何もわかっていない。」と思ったんじゃないかな。
王は、人を信じることができないから、誰も味方と思える人がいないよね。
だから、心の中は孤独だったんだね。
メロスは「言うな!」といきり立って「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑っておられる。」と言ったね。
邪悪に敏感なメロスにとって、人を疑うことが、この世で一番恥ずかしい、人の正しい道から外れた行動なんだね。
メロスにとっては、王が孤独だという事情はどうでもよくて、とにかく人を疑うのは最悪だと主張したかったんじゃないかな。
王は「疑うのが正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私欲の塊さ。信じては、ならぬ。」と言ったね。
「おまえたち」は、民、つまり国民のことだね。
シクラスの町が変わったこの二年の間で、「疑うのが正当の心構えだ」と思うような出来事がやっぱりあったのかもしれないね。
「落ち着いてつぶやき、ほっとため息をついた」様子だから、王は、やはり乱心ではなさそうだね。
何らかの事情を冷静に受け止め、誰もが自分勝手に行動することに悲しい気持ちを抱いている感じがするね。
「人を疑う」ことを、「最も恥ずべき悪徳」と主張するメロスと、「正当な心構え」と言う王の考え方は、正反対だね。
王は「わしだって平和を望んでいるのだが。」と言ったね。
人を殺すという平和でない行為をしている王だけれど、本当は、平和の世の中にしたいんだね。
でも、人は私欲の塊で信じてはいけないことがわかったから、平和を守るために、人を殺さざるを得ないと考えているんだね。
王の話を聞くと、人を殺す背景には、深い孤独や苦しみがある感じがするね。
だから、「王の顔は蒼白で、眉間のしわは刻み込まれたように深かった」んじゃないかな。
メロスは「何のための平和だ。自分の地位を守るためか。」と嘲笑し、「罪のない人を殺して、何が平和だ。」と言ったね。
メロスは、王の事情や苦しみには気づかず、「平和」を「自分の地位を守るための平和」と捉え、「それは平和とは言えない」と、ばかにしたんだね。
王は「黙れ。」とさっと顔を上げたね。
「さっと顔を上げて」という行動から、落ち着いて答えていた王が、心外なことを言われて、プライドを傷つけられ、怒っていることがわかるね。
そして、「口では、どんな清らかなことでも言える。わしには、人のはらわたの奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、今にはりつけになってから、泣いてわびたって聞かぬぞ。」と言ったね。
「人のはらわたの奥底」とは、心の中の本当の気持ち、つまり王の考えでは、「私利私欲の塊」だね。
王は「表面でどんなにきれいごとを並べても、心の奥は私欲でいっぱいなんだろう。口で言うことと、実際に思っていることは悲しいことに違うのだ。どうせメロスも、処刑されるとなれば、命が惜しくて、態度を変えるだろう。」と思ったんだね。
メロスは「ああ、王は利口だ。うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ねる覚悟でいるのに。命乞いなど決してしない。ただ、―」と言いかけて、足元に視線を落とし、瞬時ためらったね。
「王は利口だ。うぬぼれているがよい。」とは、王が言葉と本音は違うと思い込み、自分が優れた考えを持っていると得意げになっている ということじゃないかな。
メロスは「必ず帰る」と言っている言葉と本音が同じで、本当に処刑される覚悟をしているんだね。
とはいえ、「足元に視線を落とし、瞬時ためらう」様子から、何か心残りのことがありそうだね。
メロスは、「処刑までに三日間の日限を与えてください。」と頼んだね。
なぜかというと、処刑される前に、たった一人の妹に亭主を持たせてやりたいと思ったからだね。
メロスは妹の親代わりだから、妹の結婚式を見届けたいはずだよね。
それに妹が結婚したら、もし自分が処刑されても、妹が一人ぼっちではなくなるよね。
だから、メロスは、せめて妹を結婚させてから処刑されたいと思ったんだね。
王は、三日間の猶予が欲しいというメロスの提案を受け入れる
王は「ばかな。とんでもないうそを言うわい。逃した小鳥が帰ってくると言うのか。」と笑ったね。
「とんでもないうそ」とは、メロスが結婚式を挙げさせ、必ず帰ってくることだね。
「逃がした小鳥が帰ってくると言うのか」ということは、メロスを一度自由にしたら、わざわざ殺されるために帰ってくるはずがない ということだね。
メロスは、自分が必ず帰ってくるという強い意志を示すために、ある提案をしたね。
どんな提案かというと、無二の友人であるセリヌンティウスを人質にすることだね。
三日目の日暮れまでに帰らなければ、大切な友人を絞め殺していいという条件を自ら提案するくらい、メロスは、本気で処刑されるために帰ることを覚悟していたんだね。
いきり立ったり、嘲笑したりしていたメロスが、少し丁寧な言葉で頼んでいるから、どうしても提案を受け入れてもらいたいことが伝わってくるね。
王は、残虐な気持ちで、そっとほくそ笑んだね。
なぜかというと、このうそつきにだまされたふりをして、身代わりの男を、三日目に殺してやるのも気味がいいと思ったからだね。
「このうそつき」はメロス、「身代わりの男」は人質、つまりセリヌンティウスだね。
「残虐な気持ち」とは、約束を守らないメロスの代わりに、セリヌンティウスを殺して、人は信じられないのだと、民に見せつけたいということじゃないかな。
つまり、王は「人は私欲の塊で、信じてはならない」という自分の考えが正しいということを、世の中に見せつけるために、メロスの嘘を利用してやろうと考えたんだね。
王は、メロスの提案を受け入れたね。
そして、「ちょっと遅れて来るがいい。おまえの罪は、永遠に許してやろうぞ。」と言ったね。
「おまえの罪」とは、メロスが約束を破って、三日目の日没までに帰らないことだね。
王は、どうして「ちょっと遅れて来るがいい」と言ったのかな?
例えば、何時間も遅れて帰ってきたり、二度と帰ってこなかったりしたら、きっと誰もが、「初めから裏切るつもりだったんだ。」「セリヌンティウスの命を無駄にしたひどい裏切りものだ。」と、メロスを批判すると予想できるね。
一方で、間に合いそうでギリギリ間に合わなかった場合は、「本当に惜しいが、約束どおり帰って来たんだな。」「あと一歩のところで友人を失って、メロスも辛いだろう。」などと、残念な気持ちになりながらも、メロスのことをたたえたり、気持ちをわかろうとしたりする人がいそうだよね。
王は、「どうせ、メロスの心の中も私欲の塊だから、友人の命よりも、自分の命や名誉が大事だろう。ちょっと遅れて来ることが、メロスの望む命も名誉も守ることができる一番の方法だぞ。どうせそうするつもりだろう。」と挑発したんだね。
メロスは、「なに、何をおっしゃる。」と言ったね。
なぜかというと、提案を受け入れてくれたと思った王が、メロスが帰ることを信じていないことが分かったから、驚き、怒ったんだね。
本気で帰ると覚悟を決めているメロスにとって、「遅れて来い」と言われるなんて、屈辱的な気持ちになるよね。
王は「はは。命が大事だったら、遅れて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」と言ったね。
「おまえの心」とは、自分の名誉や命を一番大事に思っているから、大切な友人の命と引き換えに、自分は帰ってくるつもりがない ということだね。
メロスは、悔しく、じだんだ踏んだね。
ものも言いたくなくなったね。
なぜかというと、絶対に帰ってくる強い意志でいるのに、王に信じてもらえず、挑発されたことが悔しかったからだね。
セリヌンティウスは王城に呼ばれ、よき友とよき友は、二年ぶりで相会うたね。
「よき友とよき友」は、メロスとセリヌンティウスのことだね。
メロスは、友に一切の事情を語ったね。
つまり、「王に処刑されることになったが、セリヌンティウスを人質にし、三日目の日暮れまでに帰るという条件で、妹の結婚式を挙げる時間をもらった。必ず帰るので、待っていてほしい。」と頼んだんだね。
セリヌンティウスは無言でうなずき、メロスをひしと抱きしめたね。
友と友の間は、それでよかったね。
つまり、セリヌンティウスは、メロスに相談もされずに勝手に人質にされたのに、メロスを責めたり、質問したりすることなく、メロスの事情を受け入れ、信じて待つことにしたんだね。
竹馬の友であるメロスとセリヌンティウスは、言葉を交わさなくても、お互いの気持ちを分かり合えるという、強い絆で結ばれているということがわかるね。
こうして、初夏、満天の星のもと、メロスは出発したね。
メロスが村へ向かったのは、まさに一日目が始まろうとしている夜中だったんだね。
「初夏、満天の星」という、美しく爽やかな情景は、メロスの覚悟やメロスとセリヌンティウスの信頼関係を応援している感じがするね。
第三の場面 メロスは妹の結婚式を挙げさせる
第三の場面は、「メロスはその夜」から「死んだように深く眠った。」まで。
【時間】その夜
【場所】(メロスの故郷の)村
【内容】メロスは、妹の結婚式を挙げさせたよ。
メロスは、結婚式の準備をする
メロスは、明くる日の午前に村へ到着したね。
メロスの妹は、よろめいて歩いてくる兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いたね。
なぜ疲労困憊かというと、一睡もせず十里の道を急ぎに急いだからだね。
三日間しか時間がないから、急いで帰ったんだね。
妹は、うるさく兄に質問を浴びせたね。
なぜかというと、疲れ切った兄の様子を見て「何があったんだろう?」と心配したんだね。
メロスは「なんでもない。」と無理に笑おうと努めたね。
なぜかというと、「これから結婚をする幸せな妹に、自分が処刑されるだなんて話せない。心配をかけたくない。」と思ったからじゃないかな。
メロスが「明日、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」と言うと、妹は頬を赤らめたね。
「頬を赤らめる」とは、恥ずかしがっているということだね。
まだ十六歳だから、結婚が恥ずかしいのかもしれないね。
でも、メロスが「うれしいか。」とも聞いているから、うれしそうに照れている様子でもあったんじゃないかな。
メロスは、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調えたね。
昔は自宅で、結婚式を行っていたんだ。
だから、メロスは、自分の家で結婚式の準備をしたんだね。
けれども、メロスは、まもなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまったね。
なぜかというと、一度も眠らずに村に帰ってきて、疲労困憊だったからだね。
目が覚めると、夜だったね。
つまり、一日目の夜だね。
メロスは、起きてすぐ、花婿の家を訪れたね。
なぜかというと、結婚式を明日にしてくれと頼むためだね。
花婿は驚き、こちらにはまだなんの支度もできていない、ぶとうの季節まで待ってくれと断ったね。
第二の場面で、「初夏」と書いてあるから、この場面は夏の初めだね。
ぶとうの季節ということは、秋のことだよね。
つまり、花婿は、秋まで待ってほしいと言ったんだね。
突然明日結婚式をするなんて言われたら、「準備もしていないのに、無理だよ。」と困るよね。
メロスは、待つことはできぬと答えたね。
なぜかというと、自分が’(この時点では)二日後には処刑されてしまうからだね。
そして、どうか明日にしてくれたまえとさらに押して頼んだね。
夜明けまで議論を続けて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せたね。
強引な感じがするけれど、メロスは、花婿の機嫌をとったり、なぐさめたりして、説得することに成功したんだね。
メロスは、妹の結婚式を挙げさせる
結婚式は、真昼に行われたね。
つまり、二日目の真昼だね。
新郎新婦の誓いが済んだ頃、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつりと雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となったね。
村人たちは、何か不吉なものを感じたね。
なぜかというと、黒雲や大雨は、暗いイメージがあるよね。
結婚を誓うという喜ばしく、神聖な出来事の直後に、いきなり天気が崩れたから、村人たちは「おてんとうさまは祝福していない、よくないことが起こるんじゃないか」と思ったんだね。
結婚式の後、メロスは処刑されるという運命を、悪天候が示しているような感じがするね。
それでも、村人たちは、めいめいに気持を引きたて、陽気に歌をうたい、手を打ったね。
なぜかというと、お祝いの場であるから、結婚する二人を祝福しようと、盛り上げたんじゃないかな。
メロスは、しばらくは、王とのあの約束さえ忘れていたね。
王とのあの約束とは、三日目の日暮れ(この時点では、翌日の日暮れ)までに必ず帰るということだね。
約束を忘れるくらい、たった一人の妹が祝福されている様子がとても幸せだったんだね。
メロスは、一生このままここにいたいと思ったね。
なぜかというと、このよい人たちと生涯暮らしたいと願ったからだね。
「このよい人たち」は、妹を祝福してくれている村人たちのことだね。
でも、メロスは、ついに出発を決意したね。
なぜかというと、今は、自分の体で、自分のものではないからだね。
「自分の体で、自分のものではない」とは、メロスの体は、セリヌンティウスの命がかかった、セリヌンティウスのための体だということだね。
メロスは、ちょっとひと眠りして、それからすぐに出発しようと考えたね。
なぜかというと、明日の日没までには、十分時間があり、少しでも長くこの家に愚図愚図とどまっていたからだね。
「セリヌンティウスのところへ行かなくては」と決意してもなお、「少しでも幸せな結婚式の場に長くいたい」という気持ちが、心の中で戦っている感じがするね。
それから、花嫁に「おまえの兄のいちばん嫌いなものは、人を疑うことと、それからうそをつくことだ。」「おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」などと言ったね。
明日には処刑されてしまい、妹に会うのが最後になるから、自分が大切にしていることを最後の言葉として伝え、正義のために処刑される自分を誇りに思っていてほしいと願ったんだね。
メロスが言う「たぶん偉い男」の「たぶん」は「人を疑うべきではないという考えは、正しいはずだ」とメロスが思っているということじゃないかな。
そして、「偉い男」とは、決して人を疑わない自分はすごいという意味なんじゃないかな。
花嫁は、夢見心地でうなずいたね。
なぜかというと、祝福されて幸せで、歓喜に酔っていたからだね。
まるで遺言のような兄の言葉だけれど、それに気づかないくらい幸せな気持ちに浸っている感じがするね。
メロスの言葉を深くは理解していなかったかもしれないね。
それからメロスは、花婿の肩をたたいて、「私の家にも、宝といっては妹と羊だけだ。全部あげよう。」「メロスの弟になったことを誇ってくれ。」などと言ったね。
なぜかというと、「処刑される自分の代わりに、これからは、花婿に宝物の妹と羊たちを、大事にしてもらいたい。」「正義のために処刑されることを、妹婿にも誇ってもらいたい。」と思ったからじゃないかな。
花婿はもみ手して、照れていたね。
幸せいっぱいの花婿も、メロスの言葉の意味を深くは理解していなかったのかもしれないね。
メロスは、羊小屋に潜り込んで、死んだように深く眠ったね。
第四の場面 心身が疲れ果てたメロスは どうでもいいとあきらめる
第四の場面は、「眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃」から「まどろんでしまった。」まで。
【時間】(三日目の)早朝~午後
【場所】(村から町へ向かう道中)
【内容】心身が疲れ果てたメロスは、正義だのくだらないと、走るのをやめてしまうよ。
眼が覚めたメロスは、寝過ごしてしまったか?と一瞬焦るけれど、すぐに身支度を整えて出発するよ。
「私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。」と、この時のメロスは、共のセリヌンティウスを助けるためと、王に信実とはどういうことかを見せるために走り抜いてやるぞ!という決心にあふれているね。
しかし、そんなメロスにはいくつか試練が待ち構えていたんだ。
ひとつは、きのう降った激しい雨のせいで、氾濫してしまった川。
橋は破壊されてしまっていて、とても渡れるような状態ではなくなっていたね。
でも、そんな中でもメロスは必死の思いで、荒れ狂う川の流れに飛び込んで、水を掻き分けてなんとか対岸にたどりついたね。
メロスの「なんとしてもセリヌンティウスとの約束を守りたい」「王に信実とはなにかを見せつけてやりたい」という強い思いが伝わってくるね。
しかし、今度はせっかく対岸にたどりついたメロスのことを、山賊が襲いかかるよ。
山賊は、実は王様がメロスを殺そうとして手配したものだったね。
なぜ、王様は山賊を手配したのかというと、もしもメロスが本当に時間通りに帰ってきたら、王様の考えは間違っていたことが人々の前で証明されてしまうからね。王様としては、メロスには帰ってきてほしくないんだね。
けれど、メロスは強かったね。山賊たちが棍棒を振り上げてきたから、メロスは山賊たちを奪った棍棒で殴り、さっさと走って峠を下ったね。
「折から午後の灼熱の太陽がまともにかっと照ってきた」とあるから、この時点で、三日目の午後になっているんだね。
重なる試練をなんとかくぐりぬけてきたメロスだけれど、さすがのメロスも幾度となくめまいを感じ、これではならぬと気を取り直しては、よろよろニ、三歩歩いて、ついにがくりを膝を折ったね。
つまり、あきらめない強い気持ちを持っていたけれど、疲れがたまった上に、灼熱の太陽がさらに体力をうばって、メロスは立ち上がることができなくなったんだね。
メロスは、悔し泣きに泣きだしたね。
なぜかというと、真の勇者である自分が、疲れ切って動けなくなるのが情けないからだね。
メロスは、「おまえは希代の不振の人間、まさしく王の思うつぼだぞ。」と自分を叱ってみたね。
なぜかというと、自分を叱ることで、頑張る気持ちを奮い立たせようとしたんじゃないかな。
体は動かないけれど、気持ちはあきらめてはいないようだね。
でも、全身震えて、芋虫ほどにも前進ができずに、路傍の草原にごろりと寝転がったね。
メロスの心に、「もう、どうでもいい」という、勇者に不似合いなふてくされた根性が、広がったね。
なぜかというと、身体が疲労していたから、精神もやられてしまったからだね。
「必ず帰る」と言っていたメロスの心がくじけてしまったんだね。
メロスは、寝転びながら、心の中で、いろいろなことを考えたね。
まず、メロスは、私は不信の徒ではないと思ったね。
なぜかというと、約束を破る心はみじんもなく、動けなくなるまで走ってきたからだね。
「私の胸を断ち割って、真紅の心臓をお目にかけたい」と思ったね。
なぜかというと、メロスの心臓が、愛と信実の血液だけで動いていることを見せてやりたいからだね。
メロスは、「私は笑われるし、私の一家も笑われる」と思ったね。
「私の一家」とは、結婚したばかりの妹夫婦のことだね。
なぜかというと、大事なときに、精も根も尽きて、セリヌンティウスを欺くことになってしまったからだね。
メロスは、「ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定まった運命なのかもしれない」と思ったね。
「これ」とは、大事なときに、精も根も尽きたことと、友を欺いたことだね。
それから、メロスは、セリヌンティウスのことも考えたよ。
どんなことを考えたかというと、まずは二人の友情についてだね。
「ありがとう、セリヌンティウス。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。」と思ったね。
なぜかというと、友と友の間の信実は、この世でいちばん誇るべき宝だからだね。
「たまらない」という気持ちは、自分を信じてくれたセリヌンティウスへの感謝の気持ちや二人の信頼関係を誇りに思う気持ち、そしてセリヌンティウスに対する申し訳ない気持ちなどの、複雑な気持ちがこみあげてくるということじゃないかな。
「人を信じる」ことを特別にこだわるメロスの気持ちがわかるね。
それから、「君を欺くつもりは、みじんもなかった。信じてくれ!」と思ったね。
「君を欺くつもり」とは、最初から、三日目の日暮れまでに王城に帰らない予定 ということだね。
メロスは、濁流や山賊などの数々の困難を突破したのは、私だからできたと言っているね。
「裏切る結果になったけれど、自分が努力した上で達成できなかったということを、セリヌンティウスにわかってほしい。」と思ったんじゃないかな。
なんだか、自分の行動を必死で、正当化している感じがするね。
メロスのみじめなところを感じてしまうね。
それから、王の様子やこれから先にどう生きていくかなどにも、思いをめぐらせているよ。
「王は、独り合点して私を笑い、そうしてこともなく私を放免するだろう」と考えているね。
「独り合点」とは、「王が予想したとおり、メロスが、セリヌンティウスを犠牲にして、わざと約束に遅れてきたと王が納得すること」だね。
「そうなったら、私は、死ぬよりつらい。」とも言っているね。
「そうなったら」とは、「王は、独り合点して私を笑い、そうしてこともなく私を放免する」ことだね。
なぜ死ぬよりつらいかというと、永遠の裏切り者で、地上で最も不名誉の人種として、生きることになるからだね。
永遠の裏切り者である自分に向き合い、人から批判を浴びながら生きるのは、死ぬこと以上につらく、耐えられないと考えたんだね。
だから「セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君といっしょに死なせてくれ。」と思ったんだね。
「ああ、もういっそ、悪徳者として生き延びてやろうか。」と思ったね。
つまり、永遠の裏切り者で、地上で最も不名誉の人種として生きるくらいなら、あれだけ大事にしていた正義を捨て、人として正しい道から外れた人として生きてやろうと考えたんだね。
「妹夫婦は、まさか私を村から追い出すようなことはしないだろう。」とも考えているね。
きっと、「たった一人の兄だから、悪徳者としての自分を受け入れ、助けてくれるんじゃないか。」と期待する気持ちを抱いたんじゃないかな。
しまいには、「正義だの、信実だの、愛だの、考えてみればくだらない。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかもばかばかしい。」などと言っているね。
第二の場面では、人を疑うのは最も恥ずべき悪徳と主張していたメロスが、第四の場面では、正反対の気持ちを抱いているね。
一番大切にしていた正義などを、くだらない、ばかばかしいと言うなんて、とても投げやりな気持ちになっていることがわかるね。
それくらい、メロスの心は、くじけ、弱音と自己防衛でいっぱいになっているんだね。
メロスは、四股を投げ出して、うとうと、まどろんでしまったね。
四股を投げ出して、うとうと、まどろんでしまったなんて、完全に走るのをやめて、あきらめているよね。
第四の場面では、膝を折った→ごろりと寝転がった→四股を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった という順番で、弱音をはくごとに、どんどん行動がだらけていったね。
第五の場面 メロスは再び走り続ける
第五の場面は、『「ああ、メロス様。」』から「間に合った。」まで。
【場所】(村から町へ向かう道中)
【内容】セリヌンティウスが、自分を信じ続けていることを知ったメロスは、走り続けるよ。
「ああ、メロス様。」という、うめくような声が聞こえたね。
誰の声かというと、セリヌンティウスの弟子のフィロストラトスだったね。
「うめくような声」から、メロスのことをよく思っていないことや、師匠の処刑が迫り、苦しい気持ちでいることが想像できるね。
「メロスは走りながら」「若い石工も、メロスの後について走りながら」と書いてあるから、第五の場面では、メロスは、再び走っていることが読み取れるね。
メロスが再び走り始めた場面は、書いていないね。原作の小説では、泉の水を飲んで、肉体が回復し、再び走ったとされているよ。
フィロストラトスは、「走るのはやめてください。もうあの方をお助けになることはできません。」と言ったね。
「あのお方」とは、セリヌンティウスのことだね。
メロスは「いや、まだ日は沈まぬ。」と言ったね。
フィロストラトスは、「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。お恨み申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」と言ったね。
「ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」とは、「ほんの少し、もうちょっとでも、早かったならセリヌンティウスを助けられた。」ということだね。
メロスは、「いや、まだ日は沈まぬ。」と言ったね。
一つ前のセリフと全く同じセリフを、繰り返しているね。
メロスが、あきらめない強い気持ちを取り戻していることがわかるね。
メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕日ばかりを見つめていたね。
「赤く大きい夕日」とは、太陽が地平線に浮かんでいて、日暮れが近づいているということだね。
「胸の張り裂ける思い」ということは、セリヌンティウスが処刑されてしまうまでの時間がすぐそこに迫っているから、とても苦しい気持ちということじゃないかな。
フィロストラトスは、「やめてください。走るのはやめてください。今はご自分のお命が大事です。あのか方は、あなたを信じておりました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様がさんざんあの方をからかっても、メロスは来ますとだけ答え、強い信念をもち続けている様子でございました。」と言ったね。
セリヌンティウスは、王の言葉に動揺せず、メロスを信じる態度を貫き続けたんだね。
フィロストラトスは、どうして「走るのはやめてください。」と繰り返しお願いしたのかな?
セリヌンティウスを助けたいなら、「もっと早く走ってください」と言ってもいいよね。
セリヌンティウスは、ご自分の命が大事と言っているね。
きっと「メロスを恨んではいるが、大切な師匠のセリヌンティウスが信じている親友のメロスを死なせてはならない。師匠は、メロスの死を望んでいない。」「メロスまで死ねば、師匠の死が無駄になる」と思ったんじゃないかな。
メロスは、「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいもののために走っているのだ。ついてこい!フィロストラトス。」と言ったね。
「それだから」とは、セリヌンティウスが今もなお自分を信じてくれているからということだね。
「間に合う、間に合わぬは問題でない」とは、三日目の日暮れまでに帰るという約束に間に合うかどうかは、大事なことではないということだね。
つまり、第五の場面のメロスは、王との約束を守るために走っていたわけではないんだね。
「人の命も問題でない」とは、自分やセリヌンティウスの命を守るために、走っているのではないということだね。
メロスは、「もっと恐ろしく大きいもの」のために走っているんだね。
「もっと恐ろしく大きいもの」とは、何だろう?
メロスは、「信じられているから走るのだ。」と言っているから、「もっと恐ろしく大きいもの」は「セリヌンティウスからの信頼」じゃないかな。
これほどまでに人から厚い信頼を受けたことがなく、もしかしたら、メロスがこれまで経験したことのない大きな感情だったのかもしれないね。
だから、「もっと恐ろしく大きいもの」という言い方をしたのかもしれないね。
フィロストラトスは「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」と言ったね。
「もう日暮れなのに、走る続けるなんて、正気でない。でも、そんなに強い覚悟なら、間に合うかもしれない。」と思ったんだね。
メロスに敬語で話していたのに、急に敬語ではなくなっているから、メロスに話しかけているのではなく、フィロストラトスが、心の声を独り言のように発したのかもしれないね。
最後の死力を尽くして、メロスは走ったね。
どんな風に走っていたかというと、何一つ考えておらず、ただ、訳の分からぬ大きな力に引きずられて走ったね。
「訳の分からぬ大きな力」は、「もっと恐ろしく大きいもの」と同じだね。
「訳の分からぬ大きな力」は「セリヌンティウスからの信頼」だね。
メロスは、セリヌンティウスの信頼にこたえようと自分の意思で走ったわけではなく、セリヌンティウスからの信頼という、訳の分からぬ大きな力が、メロスの背中を押して、メロスを走らせていたんだね。
日はゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も消えようとしたとき、メロスは疾風のごとく刑場に突入したね。
「日はゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も消えようとした」とは、太陽全体が地平線より下に沈んでしまったけれど、太陽が放つ光がわずかに地平線の下から地平線上に漏れるように見えているということじゃないかな。
つまり、完全に真っ暗になる寸前ということだね。
メロスは、完全に日が暮れる寸前に、刑場にたどり着いたんだね。
もし数秒遅ければ、間に合っていなかったかもしれないくらい、本当にギリギリだったことがわかるね。
そんなギリギリな状況なら、あきらめる気持ちが出てきそうだけれど、「疾風のごとく」走り続けたメロスの姿から、「信じられているから走る」ことの大きな力がひしひしと感じられるね。
三日間の時系列を簡単に整理しておこう。
日にち | 時間 | メロスの行動 |
一日目 | 深夜 午後 夜~夜明け | 町から村へ出発 村へ到着 祝宴の準備をして、寝る 花婿を説得 |
二日目 | 昼間 夜 | 結婚式を挙げさせる 眠る |
三日目 | 午後 日没寸前 | 疲れで心がくじける 再び走り続ける 刑場に到着 |
第六の場面 メロスとセリヌンティウスが信じ合う様子を見た王は、仲間に入れてほしいと頼む
第六の場面は、『「待て。その人を殺してはならぬ。」』から「勇者は、ひどく赤面した。」まで。
【場所】刑場
【内容】メロスとセリヌンティウスは、お互いを疑ったことを許し合うよ。二人が許し合い、抱き合う姿を見た王は、信実とは空虚な妄想ではなかったと気づくよ。
メロスは大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりだったけれど、群衆は、ひとりとして気づかなかったね。
「群衆」とは、民のことだね。
王はセリヌンティウスを処刑して、人は信じてはならないことを見せつけようと思っていたから、王とメロスの約束は民に知れ渡っていて、みんな刑場に集まってきていたんだね。
なぜ群衆が気づかなかったかというと、メロスの喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかりだったからだね。
すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆくところだったね。
つまり、メロスが到着したときは、まさにセリヌンティウスが処刑されようとしているところだったんだね。
メロスは最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫んだね。
そして、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついたね。
「最後の勇」とは、「最後の勇気を振り絞って」ということだね。
声だけでは、自分が到着したことがわかってもらえなかったから、群衆をかきわけて、必死でセリヌンティウスの所へ行き、処刑を止めようとしたんだね。
刑場に到着がゴールではなく、セリヌンティウスの両足に齧りついたことがゴールになったんだね。
群衆は、どよめいたね。
なぜかというと、メロスが帰って来たことに、驚いたからだね。
メロスが現れなかったから、きっと刑場にいた誰もが、「メロスは自分の命を優先したんだな。」とメロスを疑っていたんじゃないかな。
群衆は、あっぱれ、ゆるせと口々にわめいたね。
疑っていたメロスが、約束どおりに帰ってきたから、メロスの勇気や努力をたたえ、メロスを認める声が、群衆の間に広がっていたんだね。
セリヌンティウスの縄がほどかれると、メロスは、セリヌンティウスに、「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」と言ったね。
「悪い夢」とは、第四の場面で、言い訳を並べたり、投げやりになったりして、セリヌンティウスを裏切ろうとしたことだね。
セリヌンティウスは自分を信じ続けてくれたのに、自分はあきらめようとしたから、殴ってもらえなければ、自分はセリヌンティウスと対等に接する価値がないと思ったんだね。
セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴ったね。
「すべてを察した様子」ということは、メロスの告白で、メロスが苦悩しながらも、くじけた心に勝ち、刑場まで必死にやってきたことを理解したんだね。
「刑場一ぱいに鳴り響くほど音高く」という行動から、セリヌンティウスが遠慮せずに、力いっぱいメロスを殴ったことがわかるね。
セリヌンティウスは、優しく微笑み、
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」と言ったね。
王がからかっても、「メロスは来ます。」と言い続けていたセリヌンティウスも、実は一度だけ、メロスを疑ったんだね。
優れた人格で、強い心を持っているように見えるセリヌンティウスでも、人を疑う心はあったんだね。
メロスは腕に唸をつけてセリヌンティウスの頬を殴ったね。
「腕に唸をつけて」という行動から、メロスも遠慮せずに、勢いよく殴ったことが伝わってくるね。
メロスとセリヌンティウスは、「ありがとう、友よ。」と同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いたね。
きっと、お互いが相手を疑う気持ちを乗り越え、許し合い、信じ合えたことが嬉しかったんじゃないかな。
お互いが、自分の弱さを正直に告白し、認め合ったことで、二人の絆がより深まった感じがするね。
群衆の中からも、歔欷の声が聞えたね。
メロスとセリヌンティウスがお互いに、許し合い、信じ合う姿を見て、民の心も動かされ、涙を流したんだね。
暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたね。
「まじまじと」とあるから、二人の姿に何か思うことがあったり、心を動かされたりしたんじゃないかな。
ディオニスは、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。」と言ったね。
「おまえらの望み」とは、「メロスとセリヌンティウスの望み」だね。
メロスとセリヌンティウスの望みとは何だろう?
メロスは、第二の場面で「人を疑うのは最も恥ずべき悪徳」と言い、第四の場面では「友と友の間の信実は、この世でいちばん誇るべき宝」と思っていたね。
つまり、メロスは、人を信じることを何よりも大事にしていたね。
セリヌンティウスは、信じて待っていてほしいと言うメロスを受け入れ、王にからかられても、メロスを信じるという姿勢を貫いたよね。
つまり、セリヌンティウスも、「人を疑うべきだ」という王の考えには賛同しておらず、メロスと同じく、人を信じることを大事にしているね。
これらのことを考えると、「おまえらの望み」とは、「人を信じること」なんじゃないかな。
「わしの心」は、「王の心」だね。
つまり、「人は信じてはいけないこと」だね。
王は、「人を信じること」が「人を信じてはいけないこと」に勝ったと言っているんだね。
「信実とは、決して空虚な妄想ではなかった」ということは、人を信じることは、決して意味のない、ありえない信念ではないということだね。
王は、人を疑うことはあっても、それを乗り越え、許し合い「人を信じた」メロスとセリヌンティウスの姿から、「人は信じてはならぬ」という自分の考えが間違っていたことに気づき、恥ずかしく思ったんじゃないかな。
だから、「顔を赤らめた」んだね。
王は「どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」とも言っているね。
王は、なぜ仲間に入れてほしいと言ったのだろう?
王は、人を信じられなかったよね。
正義を語るメロスも、正義や愛だのがばからしくなって、セリヌンティウスを裏切ろうとしたよね。
セリヌンティウスも、メロスのことを疑ったよね。
王もメロスもセリヌンティウスも、完璧な人間ではなく、人を疑うという弱みのある人間という点が、実は同じだったよね。
でも、メロスとセリヌンティウスは、人を疑う気持ちに勝ち、お互いに人を疑ったことを告白し、許し合った点が、人を殺し続けた王とは違ったね。
だから、きっと王は、人を疑うことはあっても、その気持ちを乗り越えたり、許し合ったりすることができる二人の姿に、感動したんじゃないかな。
きっと「私もやり直したい。」「私も人を許し合い、信じ合いたい。」と思って、仲間に入れてほしいと言ったんじゃないかな。
「許し合い、信じ合う」ことは、一人ではできないもんね。
「どうか」というセリフから、王がメロスやセリヌンティウスのことを敬い、ていねいに接していることがわかるね。
どっと群衆の間に、歓声が起ったね。
なぜかというと、群衆は、王が人を信じる心を取り戻したことが嬉しかったからだね。
「万歳、王様万歳。」というセリフからも、自分の誤りを認め、人を信じようとする王を認め、歓迎していることが伝わってくるね。
群衆もまた、王を許し、再び王を信じたんだね。
ひとりの少女が緋のマントをメロスに捧げたね。
メロスは、まごついたね。
なぜかというと、「なぜマントをくれるのだろう」「どうしたらいいのだろう」とわからなかったんじゃないかな。
セリヌンティウスは「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」と教えたね。
勇者は、ひどく赤面したね。
「勇者」とはメロスのことだね。
メロスは、自分が裸のまま群衆の前に立っていることに気づき、恥ずかしくなったんだね。
第一の場面では、若い衆も老爺も、自由に発言することを恐れていたけれど、第六の場面では、ひとりの少女が、王に認められた勇者のメロスにマントを差し出すなんて、思ったことを自由に行動に表すことができる、平和な世の中になったことがわかるね。
第一の場面の老爺と対照的な「ひとりの少女」を最後に登場させることで、明るく、希望のある世の中になったことを、作者は表したかったのかもしれないね。
それから、第ニの場面で「単純な男」と書かれていたメロスが、第六の場面で「勇者」と書かれているね。
単純な男であるメロスが、自分の弱さと向き合い、自分の弱い心に打ち勝ったから、メロスの大きな成長ぶりを、作者は「勇者」と表現したんじゃないかな。
でも、勇者として信念を貫いたメロスが、実は裸だったという結末には、どんな勇者でも、完璧な人はいないんだというメッセージが隠れている感じがするね。
この小説を通して、きっと作者は、私たちに、
「どんな人間でも、誰もが心の弱さや醜さを持っていること」
「けれど、心の弱さを認め合い、許し合い、信じ合う美しい心も持っていること」
「心の弱さを、お互いが信じ合う気持ちで克服することは、人の心を動かすほどすばらしいこと」
を伝えたかったんじゃないかな。
「走れメロス」意味調べ
「走れメロス」に出てくる言葉の意味をまとめているよ。
「走れメロス」の中で使われている意味を取り上げているので、注意しよう。
言葉 | 意味 |
---|---|
邪智暴虐 | 悪いことに知識がよく働いて、乱暴な行動で人々のことを苦しめること |
未明 | 日の出前のこと。だいたい午前3時から日の出までのこと |
十里 | 距離のこと。一里は約3.9km。よって、十里はだいたい40km |
内気 | 気が弱く、人の前ではきはきしない性格のこと |
律儀 | 義理がたいこと。誠実で正直なこと |
竹馬の友 | 幼い頃から遊んだともだち。幼馴染のこと |
語勢 | ことばを話したり書いたりするときの勢いのこと |
はばかる | まわりに遠慮すること |
悪心を抱く | 悪いことをしようとする心。他人に害を与えようとする心 |
世継ぎ | 子供や孫など、自分のあとを相続するひとのこと |
賢臣 | 賢明で優れた家臣のこと |
乱心 | 心が乱れて狂うこと。狂気 |
のそのそ | 動作がにぶくて、ゆっくりと行動するようす |
巡邏 | パトロールのこと |
警吏 | いわゆる警察官のこと |
捕縛 | 捕まって、縛りあげられること |
懐中 | 着ている服のふところや、ポケットの中のこと |
暴君 | 暴虐で、人民を苦しめる君主のこと |
蒼白 | 青白いこと |
憫笑 | あわれみ、さげすんで笑うこと |
いきり立つ | 怒って興奮すること |
反駁 | はんばく。他の意見に反対して、論じ返すこと |
悪徳 | 人の道にそむく心、行い |
忠誠 | 君主や国、団体に対する一途な真心のこと |
利欲の塊 | 自分一人の利益だけを考えること |
嘲笑 | あざけり(見下して)笑うこと |
報いる | 人からされたことに対して、それに見合ったものを返すこと |
はらわたの奥底 | 腹の中に隠していること。つまり、人には見えないように、心の奥底で考えている(ここでは)悪いこと |
はりつけ | 罪人を板や柱などに縛り付けて、処刑すること |
情けをかける | あわれみをかける、あわれんで助けること |
日限 | あらかじめ定めた日、期日のこと |
しゃがれた声 | 声ががさがさしていたり、かすれていること |
無二の友人 | 他に二人といない、一番大切な友人のこと |
残虐 | ひどくむごいこと |
ほくそ笑む | ひかえめに、かすかに笑うこと。満足そうに微笑むこと |
気味がいい | 気持ちが良いこと |
磔刑 | はりつけにして処刑すること |
やつばら | やつらども |
じだんだ踏む | 怒りや悔しさなどの激しい感情から、地面をはげしく踏む動作のこと |
召される | 呼ばれること |
相合う | 互いに会うこと。対面すること |
一切 | すべて。残らず |
疲労困憊 | 疲れきってしまうこと |
頑強 | ねばり強くて、なかなか相手に屈しないこと |
承諾 | うけいれること。引き受けること |
なだめ、すかす | 機嫌をとったり、慰めたりして相手の気持ちを落ち着かせること |
説き伏せる | よく話をして相手を自分の考えに従わせること |
車軸を流すような大雨 | 激しく雨が降ること |
列席 | 出席すること |
めいめい | それぞれ |
気持ちを引き立てる | 元気づけて力が出るようにすること |
怺える | 苦しみや痛みを耐えて我慢すること |
喜色をたたえる | 喜んでいるようすのこと |
ままならぬ | 思うようにならないこと |
身にむち打つ | 無理をして励まして、ふるいたたせること |
未練の情 | 手放したくない、諦められないと思う気もち |
呆然 | ぼんやりとすること |
ご免こうむる | 相手の許しを得ること |
夢見心地 | 夢を見ているようにぼんやりしたようす。うっとりしているようす |
揉み手する | ここでは、下手に出ること |
会釈 | かるく礼をすること |
薄明の頃 | 日の出前の、空がうす明るい状態のころ。だいたい、日の出る30分前くらいのこと |
南無三 | 本来は「南無三宝」。三宝の仏に呼びかけて、救いを求めることば。そのため、なにか失敗をしたときや、驚いたときに言う言葉になった。「しまった!」というイメージで使う |
刻限 | 決められた時間のこと |
信実 | 真面目でいつわりがないこと |
悠々と | よゆうを持って、あわてたりしないこと |
奸佞邪智 | 心がひねくれて、ずるがしこくすること |
氾濫 | 大雨で川などの水があふれること |
濁流滔々 | 「滔々」とは、水が流れるようすのこと。濁った水が流れているようす |
猛勢一挙 | 勢いよく一気に動くこと |
木葉微塵 | 「木端微塵」とも。もとの形がないくらい、細かくくだけること。こなごなにくだけること |
橋桁 | 橋のおもな部分。橋の道路になっている部分のこと |
茫然 | 気が抜けて、ぼんやりしているようす |
繋舟 | 船をつなぎとめること。ここではおそらく、川辺に繋がれていたはずの舟が波にさらわれて無くなっていたということかと思われる |
ゼウス | 古代ギリシャ人にとっての最高神。天空神なので、雨などの天気をつかさどるため、メロスはゼウスにお願いをしたと考えられる |
哀願 | 人の同情する心にうったえてお願いすること |
せせら笑う | ばかにして冷ややかに笑うこと |
煽り立てる | 風などの勢いで、ものを激しく動かすこと |
照覧 | 明らかに見ること。神や仏がご覧になること |
満身の力 | 自分が持ち出せる全ての力のこと |
めくらめっぽう | 少しも見当がつかないこと。やみくもに |
獅子奮迅 | 獅子(ライオン)が荒れ狂ったように、すばらしい勢いで奮闘するようすのこと |
憐愍を垂れる | 哀れに思って、同情すること |
飛鳥のごとく | 「ひちょうのごとく」と読む。空を飛んでいる鳥のように動作が速いようす |
膝を折る | ひざこぞうを床や地面につけること |
韋駄天 | 足の速い神様のこと。足の速い人をたとえる言葉 |
希代 | 世にもまれなこと |
思うつぼ | 考えたとおり、たくらんだとおり |
心の隅に巣くう | 好ましくない感情が、その人の心の表面ではないところに起こって、とどまっているようす |
不信の徒 | 信義を守らない人のこと |
精も根もつきる | 勢力も根気も使い果たして、やる気がおきなくなったこと |
欺く | だますこと |
無心 | 何も考えないこと |
耳打ちする | 相手の耳元でささやくこと。こっそりと話すこと |
独り合点 | 自分だけの考えで分かったつもりになること |
放免 | 罪人や被疑者を、自由にしてあげること |
定法 | 決まっているおきて |
やんぬるかな | もうおしまいだ、どうしようもない |
四肢 | 両手と両足のこと |
まどろむ | うとうとと、軽く眠ること |
言うにや及ぶ | 言うまでもない |
疾風のごとく | 非常に速く吹く風のようなスピードで |
嗄れた声 | 「しわがれたこえ」と読む。かすれた声 |
幽かに | 「かすかに」と読む。かろうじて感じ取ることができる程度のこと |
刑吏 | 刑を執行する役人のこと |
唸りをつけて | 「唸る」とは、能力や力を発揮したくてじっとしていられないようす。ここでは、メロスが持っている力をすべて使ってセリヌンティウスの頬を殴ったと考えられる |
歔欷 | すすりなき・むせび泣き |
空虚 | 何もないこと・からっぽ |
緋 | 火のような濃くて明るい紅色 |
まごつく | どうすればよいか分からなくて、まごまごすること |
口惜しい | 残念がること、くやしいこと |
運営者情報
ゆみねこ
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青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。
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ポイント掴んでてわかりやすかったです!
あと、作者の伝えたいことや、言葉の意味もまとめてくれたので、助かりました!ありがとうございます!
授業ので使うやつを作って欲しいです。