芥川龍之介「羅生門」解説!あらすじ・下人の心情変化・主題をわかりやすく解説
高校言語文化・現代文で学習する芥川龍之介「羅生門」について、あらすじ・登場人物・下人の心情変化・老婆の論理・主題をわかりやすく解説するよ。
「羅生門」は、荒れ果てた平安京を舞台に、職を失った一人の下人が、生きるために悪へ踏み出していくまでを描いた小説だよ。
テストでは、物語のあらすじだけでなく、下人の心情がどのように変化したか、老婆の言い分が下人にどんな影響を与えたか、そして最後の「下人の行方は、誰も知らない。」の意味がよく問われるんだ。
「羅生門」テスト対策ポイントまとめ
- 「羅生門」は、芥川龍之介が『今昔物語集』などをもとにして書いた小説である。
- 舞台は、災いが続き荒れ果てた平安京の羅生門である。
- 下人は、主人から暇を出され、飢え死にするか、盗人になるかの間で迷っている。
- 老婆の「生きるためには悪も仕方ない」という論理が、下人の決断に大きな影響を与える。
- 最後に下人は、老婆の着物を奪って闇の中へ消える。これは、下人が悪の世界へ踏み出したことを表している。
目次
- 1. 「羅生門」の基本情報
- 2. 作者・芥川龍之介について
- 3. 「羅生門」の舞台と時代背景
- 4. 登場人物を整理しよう
- 5. 「羅生門」のあらすじ
- 6. 場面の流れを整理しよう
- 7. 下人の状況と心情
- 8. 「手段を選んでいる暇はない」とは
- 9. 「この局所」と「すれば」の意味
- 10. 「一人の男」と書かれている理由
- 11. 「すぐにそれと知れた」の「それ」とは
- 12. 「ある強い感情」とは
- 13. 下人の「激しい憎悪」とは
- 14. 「許すべからざる悪」の意味
- 15. 「この意識は、憎悪の心を冷ましてしまった」の理由
- 16. 老婆の行動とその言い分
- 17. 「平凡なのに失望した」理由
- 18. 「ある勇気」とは
- 19. 「嘲るような声」と「では」の意味
- 20. にきびの意味と象徴
- 21. 下人の心理の推移
- 22. 最後の場面の意味
- 23. 題名「羅生門」の意味
- 24. 「羅生門」の主題
- 25. 「羅生門」に出てくる重要語句
- 26. テスト対策ポイント
- 27. まとめ
1. 「羅生門」の基本情報
まずは、「羅生門」の基本情報を確認しよう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 羅生門 |
| 作者 | 芥川龍之介 |
| 発表 | 1915年 |
| ジャンル | 短編小説 |
| 主な素材 | 『今昔物語集』の説話など |
| 主なテーマ | 極限状態における人間の心理、善悪の揺らぎ、生きるための悪 |
「羅生門」は、ただ「盗みをする人の話」ではないよ。
仕事を失い、生きるすべをなくした下人が、最初は悪を憎みながらも、最後には自分も悪を行う側へ変わっていく。その心の変化を読むことが大切なんだ。
たろう
くまごろう2. 作者・芥川龍之介について
「羅生門」の作者は、芥川龍之介だよ。
芥川龍之介は、明治25年から昭和2年にかけて生きた小説家で、大正時代を代表する作家の一人だよ。
「羅生門」「鼻」「地獄変」「杜子春」などの作品で知られていて、古典や説話をもとにしながら、人間の心理やエゴイズムを鋭く描いた作品が多いんだ。
芥川龍之介について覚えること
- 大正時代を代表する小説家
- 「羅生門」「鼻」「地獄変」「杜子春」などを書いた
- 古典や説話をもとに、人間の心理を鋭く描いた
- 「羅生門」は『今昔物語集』などをもとにした作品である
3. 「羅生門」の舞台と時代背景
「羅生門」の舞台は、平安京の羅生門だよ。
羅生門は、平安京の正面にあった大きな門だけれど、物語の中では、すでに荒れ果てた場所として描かれている。
京都では、地震・辻風・火事・飢饉などの災いが続き、町全体がひどく衰えている。羅生門も修理されず、狐狸や盗人がすみ、引き取り手のない死人が捨てられる場所になってしまっているんだ。
この荒れ果てた羅生門は、ただの背景ではないよ。下人が生きるために悪へ傾いていく、暗く不安定な世界を象徴する場所でもあるんだ。
| 舞台設定 | 内容 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 時間 | ある日の暮れ方 | 明るさが消え、闇へ向かう時間帯である |
| 天候 | 雨が降っている | 下人の不安や行き詰まりを強める |
| 季節 | 晩秋ごろ | 「きりぎりす」「夕冷え」「火桶が欲しいほどの寒さ」などから分かる |
| 場所 | 荒れ果てた羅生門 | 社会の荒廃や、人間の道徳の崩れを感じさせる |
たろう
くまごろう4. 登場人物を整理しよう
「羅生門」の中心人物は、下人と老婆の二人だよ。
| 人物 | 人物像 | 物語での役割 |
|---|---|---|
| 下人 | 主人から暇を出された若い男。明日の暮らしに困り、飢え死にするか盗人になるかで迷っている。 | 物語の主人公。老婆との出会いによって、盗人になる決意をする。 |
| 老婆 | 羅生門の楼の上で、死骸の髪の毛を抜いていた老女。 | 「生きるためなら悪も仕方ない」という論理を語り、下人に影響を与える。 |
| 髪を抜かれていた女の死骸 | 生前、蛇を干魚だと言って売っていたと老婆が語る人物。 | 老婆の言い分の根拠として語られる。 |
下人と老婆は、一見すると「悪を責める側」と「悪を行った側」に見える。
しかし物語が進むと、下人もまた、老婆の論理を利用して悪を行う側へ変わっていくんだ。
5. 「羅生門」のあらすじ
ある日の暮れ方、一人の下人が羅生門の下で雨やみを待っている。
下人は、四、五日前に主人から暇を出され、行くあてもなく、明日の暮らしをどうするかで途方に暮れていた。
そのころ京都は、災いが続いてひどく衰えていた。羅生門も荒れ果て、引き取り手のない死人が捨てられる場所になっている。
下人は、飢え死にをするか、盗人になるかを考える。しかし、盗人になることを積極的に肯定するだけの勇気はまだない。
やがて下人は、雨風をしのぐために羅生門の楼の上へ上がる。すると、楼の上には死骸が無造作に捨てられており、その中で一人の老婆が、女の死骸の髪の毛を抜いていた。
下人は、老婆の行為を「許すべからざる悪」と感じ、激しい憎悪を抱く。そして老婆を捕らえ、何をしていたのか問い詰める。
老婆は、死骸の髪の毛を抜いて、かつらにしようとしていたと答える。さらに、その女も生前には蛇を干魚だと偽って売っていたのだから、自分が髪を抜くことも大目に見てくれるだろうと言う。
老婆の言い分は、簡単に言えば「生きるためには悪も仕方がない」というものだった。
その話を聞いた下人の心には、ある勇気が生まれる。それは、さっき羅生門の下では持てなかった、盗人になる勇気だった。
下人は、老婆の言い分を逆に利用し、「俺もそうしなければ、飢え死にをする体なのだ」と言って、老婆の着物を剥ぎ取り、夜の闇の中へ消えていく。
物語は、「下人の行方は、誰も知らない。」という一文で終わる。
6. 場面の流れを整理しよう
「羅生門」は、下人の心が少しずつ悪へ傾いていく流れを整理すると読みやすいよ。
| 場面 | 出来事 | 下人の心情 |
|---|---|---|
| 羅生門の下 | 下人が雨やみを待っている。 | 行き場がなく、明日の暮らしに途方に暮れている。 |
| 門の下での思案 | 飢え死にするか、盗人になるかを考える。 | 盗人になるしかないと考えながらも、決断できない。 |
| 楼の上へ上がる | 雨風を避けるため、羅生門の上へ向かう。 | 上には死人しかいないと思っている。 |
| 老婆を発見する | 老婆が死骸の髪を抜いているのを見る。 | 恐怖と好奇心を抱き、やがて激しい憎悪へ変わる。 |
| 老婆を問い詰める | 老婆を捕らえ、理由を聞く。 | 老婆の生死を自分が支配していると感じ、得意と満足を覚える。 |
| 老婆の話を聞く | 老婆が「生きるためには仕方ない」と説明する。 | 老婆の答えに失望し、侮蔑を抱く。 |
| 最後の場面 | 下人が老婆の着物を奪って逃げる。 | 盗人になる勇気を得て、悪を行う側へ変わる。 |
このように、下人の心は一気に変わるのではなく、迷い・恐怖・憎悪・失望・侮蔑を経て、最後に盗人になる決意へ進んでいくんだ。
7. 下人の状況と心情
下人は、四、五日前に主人から暇を出されている。つまり、長く仕えていた主人のもとを追われ、仕事を失った状態なんだ。
これは、下人だけの問題ではないよ。当時の京都では災いが続き、町全体が衰えていた。人々の暮らしが苦しくなり、主人の側にも使用人を雇い続ける余裕がなくなっていたと考えられるんだ。
だから、下人が主人から暇を出されたことは、「この衰微の小さな余波」と表現されている。京都全体の荒廃が、一人の下人の生活にも影響しているということだね。
下人は「雨やみを待っていた」と書かれているけれど、実際には雨がやんでも行くあてがない。雨にふりこめられているだけでなく、人生そのものでも行き場を失っている状態なんだ。
8. 「手段を選んでいる暇はない」とは
下人は、明日の暮らしをどうにかしなければならない。けれど、まじめな手段を選んでいる余裕はないところまで追いつめられている。
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる暇はない。選んでいれば、築土の下か、道端の土の上で、飢え死にをするばかりである。
ここでの「手段を選ぶ」とは、正しい方法・まっとうな方法だけを選ぶということだよ。
しかし、そんなことをしていたら、下人は飢え死にするしかない。だから、手段を選ばないなら、盗人になるしかない、というところまで考えが進んでいくんだ。
| 選択 | 結果 |
|---|---|
| 手段を選ぶ | 飢え死にするしかない。 |
| 手段を選ばない | 盗人になるしかない。 |
ただし、この時点の下人は、まだ盗人になる決心まではできていないよ。そこが大事なんだ。
9. 「この局所」と「すれば」の意味
「羅生門」でよく問われるのが、「この局所」と「すれば」の意味だよ。
選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低回した揚句に、やっとこの局所へ逢着した。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。
ここでの「この局所」とは、盗人になるよりほかに仕方がないという結論のことだよ。
「手段を選ばないとすれば」、つまり正しい方法にこだわらないなら、盗人になるしかない。下人の考えは、何度も同じところをめぐったすえに、そこへたどり着いたんだ。
けれど、「この『すれば』は、いつまでたっても、結局『すれば』であった」とあるように、下人はまだ「盗人になる」と決断してはいない。
「もし手段を選ばないとすれば……」という仮定のままで止まっていて、盗人になることを積極的に肯定する勇気が出ずにいるんだ。
「この局所」と「すれば」の整理
- 「この局所」=盗人になるしかないという結論
- 「すれば」=手段を選ばないとすれば、という仮定
- 下人は盗人になるしかないと考えているが、まだ決断できていない
- この迷いが、老婆との出会いによって変化する
10. 「一人の男」と書かれている理由
羅生門の楼へ上る場面で、それまで「下人」と呼ばれていた人物が、突然「一人の男」と表現されるよ。
羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の様子を窺っていた。
この「一人の男」は、もちろん下人のことだよ。
では、なぜ急に「下人」ではなく「一人の男」と書かれているのだろう。
ここでは、羅生門の下にいた場面から、楼の上へ向かう場面へと切り替わっている。つまり、場面の変化を印象づけるために、「一人の男」という少し距離を置いた表現が使われていると考えられるよ。
また、「下人」という身分を表す呼び方から、「一人の男」という人間そのものを表す呼び方に変わることで、このあと下人が一人の人間として、善悪の境目でどう行動するのかが強調されているとも読めるんだ。
11. 「すぐにそれと知れた」の「それ」とは
楼の上へ上がろうとした下人は、上に誰かがいることに気づくよ。
上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄色い光が、隅々に蜘蛛の巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。
ここでの「それ」は、直前の「上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい」という内容を指しているよ。
下人は、楼の上には死人しかいないだろうと高をくくっていた。ところが、上では誰かが火をともして動いている。つまり、そこには「生きている何者か」がいると分かったんだ。
この気づきによって、物語の緊張感が一気に高まるよ。
12. 「ある強い感情」とは
楼の上で下人は、死骸の腐ったにおいに思わず鼻を覆う。けれど、次の瞬間にはその手が鼻を覆うことを忘れてしまう。
ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからである。
この「ある強い感情」は、そのすぐ後に出てくる「六分の恐怖と四分の好奇心」のことだと考えると分かりやすいよ。
死骸だらけの場所に、火を持った老婆がうずくまっている。下人は、その異様な光景に恐怖を感じながらも、「何をしているのか」という好奇心も抱いているんだ。
たろう
くまごろう13. 下人の「激しい憎悪」とは
はじめ、下人は老婆を見て恐怖と好奇心を抱いていた。
けれど、老婆が死骸の髪の毛を一本ずつ抜いていることが分かると、下人の心から恐怖が消え、代わりに激しい憎悪がわいてくる。
その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。
下人にとって、死人の髪の毛を抜くという行為は、死者を傷つける許せない悪だった。
そのため、老婆そのものへの怒りというより、あらゆる悪に対する反感が強くなっていくんだ。
このときの下人は、さっきまで自分が盗人になるかもしれないと考えていたことを忘れている。自分の中の悪の可能性を棚に上げて、老婆の悪を強く憎んでいるところがポイントだよ。
14. 「許すべからざる悪」の意味
下人は、老婆がなぜ死人の髪の毛を抜いているのか、まだ理由を知らない。
合理的に考えれば、善悪のどちらに判断してよいか分からないはずだよね。
それでも下人にとっては、この雨の夜に、羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くという行為そのものが、すでに許せない悪だった。
つまり、ここでの「それ」は、老婆が死人の髪の毛を抜いている行為を指しているんだ。
この時点の下人は、悪を行う老婆を責める側にいる。だからこそ、この後、自分が悪を行う側へ変わることが、強い皮肉になっているんだね。
15. 「この意識は、憎悪の心を冷ましてしまった」の理由
下人は老婆を捕らえ、太刀を突きつける。老婆は怯えて黙りこむ。
その様子を見て、下人は初めて、老婆の生死が完全に自分の意志に支配されていると意識するよ。
この意識によって、さっきまで激しく燃えていた憎悪は冷めてしまう。
なぜなら、下人は老婆を憎んでいるというより、いまや老婆を支配している立場に立ち、ある仕事を成し遂げたような得意と満足を感じているからだよ。
ここでは、下人の心が「悪を憎む正義感」から、「相手を支配する満足感」へ移っていることを読み取ることが大切なんだ。
16. 老婆の行動とその言い分
羅生門の楼の上で、老婆は死骸の髪の毛を抜いていた。
その理由は、抜いた髪の毛でかつらを作るためだった。下人にとって、死人の髪を抜くという行為は、それだけで許せない悪に見える。
しかし老婆は、自分の行為を次のような理屈で説明する。
老婆の論理
- 自分が髪を抜いた女も、生前には悪いことをしていた。
- その女は、蛇を干魚だと言って売っていた。
- それでも、飢え死にしないためには仕方がないことだった。
- だから、自分がその女の髪を抜くことも、生きるためなら仕方がない。
- 女も、自分の行為を大目に見てくれるだろう。
老婆の言い分は、善悪を正面から考えるものではないよ。
「生きるためなら仕方がない」という理屈で、悪を正当化しているんだ。
17. 「平凡なのに失望した」理由
老婆は、死人の髪の毛を抜いていた理由を、「かつらにしようと思った」と答える。
これを聞いた下人は、老婆の答えが思いのほか平凡なことに失望するよ。
下人は、死骸の中にうずくまり、死人の髪を抜く老婆に、もっと異様で特別な理由を期待していたと考えられる。
ところが、理由は「かつらにするため」という生活のためのごく現実的なものだった。そのため、下人の中には失望と同時に、冷やかな侮蔑が生まれてくるんだ。
ここでは、下人が老婆を「恐ろしい存在」として見る段階から、「つまらない、見下すべき存在」として見る段階へ変わっていることを押さえよう。
18. 「ある勇気」とは
老婆の話を聞いた下人の心には、ある勇気が生まれる。
しかし、これを聞いている中に、下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。
この「ある勇気」とは、悪を正す勇気ではないよ。盗人になる勇気なんだ。
下人は、羅生門の下にいたとき、「盗人になるよりほかに仕方がない」と考えながらも、それを積極的に肯定する勇気がなかった。
けれど、老婆の「生きるためには悪も仕方がない」という言い分を聞いて、下人はその論理を自分にも当てはめる。
つまり、「自分も生きるためなら盗みをしてもよい」と考える勇気を得てしまったんだ。
また、これは「老婆を捕らえた時の勇気」とは反対の方向に動く勇気だよ。老婆を捕らえた時の勇気は、悪を責める側の勇気だった。けれど、最後に生まれた勇気は、自分が悪を行う側へ進む勇気なんだ。
19. 「嘲るような声」と「では」の意味
老婆の話を聞いた下人は、「きっと、そうか。」と嘲るような声で念を押す。
「嘲る」とは、ばかにして笑うことだよ。
老婆の主張は、「生きるためには悪事を働くのも仕方がない」「悪事をした者も、自分が悪事をされることを大目に見てくれるだろう」というものだった。
けれど、それはそのまま、下人が老婆に悪事を働く理由にもなってしまう。
「では、俺が引剥ぎをしようと恨むまいな。俺もそうしなければ、飢え死にをする体なのだ。」
この「では」は、老婆の理屈を受けている言葉だよ。
つまり下人は、「生きるためなら悪も仕方がないというなら、俺があなたの着物を奪っても恨まないよな」と言っているんだ。
老婆は、自分の行為を正当化するために語った理屈によって、逆に下人から着物を奪われることになる。ここに強い皮肉があるよ。
20. にきびの意味と象徴
「羅生門」では、下人が右の頬にできた大きなにきびを気にする描写が何度も出てくるよ。
にきびは、下人がまだ若い人物であることを示す手がかりになる。にきびができる年ごろであることから、下人は少年から青年くらいの若い男だと考えられるんだ。
また、にきびを気にして触っている場面は、下人がまだ迷いの中にいる状態とも重ねて読めるよ。
最後に下人は、不意に右の手をにきびから離して、老婆の襟髪をつかむ。
これは、下人が迷いから離れ、盗人になる決意を固めたことを暗示していると考えられるんだ。
にきびの読み方
- にきびは、下人の若さを示す手がかりである。
- にきびを気にする動作は、下人の迷いや未熟さと重ねて読める。
- にきびから手を離す動作は、迷いを捨てて悪へ踏み出す決意を暗示している。
ただし、「にきび=必ずこの意味」と一つに決めつける必要はないよ。テストでは、本文の流れにそって、下人の迷いから決断への変化と結びつけて説明できるようにしよう。
21. 下人の心理の推移
ここまでの内容を、下人の心理の流れとして整理しよう。
| 順番 | 下人の心情 | きっかけ・内容 |
|---|---|---|
| 1 | 途方に暮れる | 主人から暇を出され、行くあてがない。 |
| 2 | 迷う | 飢え死にするか、盗人になるかを考えるが、決断できない。 |
| 3 | 恐怖と好奇心 | 楼の上で、死骸の中にうずくまる老婆を見つける。 |
| 4 | 憎悪 | 老婆が死人の髪の毛を抜いていることを知る。 |
| 5 | 得意と満足 | 老婆の生死を自分が支配していると感じる。 |
| 6 | 失望と侮蔑 | 老婆の理由が「かつらにするため」という平凡なものだった。 |
| 7 | 盗人になる勇気 | 老婆の「生きるためには悪も仕方ない」という論理を聞く。 |
| 8 | 悪への踏み出し | 老婆の着物を奪い、闇の中へ消える。 |
たろう
くまごろう22. 最後の場面の意味
「羅生門」の最後で、下人は老婆の着物を剥ぎ取り、急な梯子を夜の底へかけ下りていく。
ここで大切なのは、下人が単に「着物を盗んだ」というだけではないことだよ。
下人は、老婆の「生きるためには悪も仕方がない」という論理を奪い取り、自分自身も悪の世界へ踏み出したんだ。
また、下人が老婆の着物を剥ぎ取って闇の中へ消えることには、下人が道徳や正義の側から離れ、どこへ向かうか分からない存在になったことが表れている。
最後の「下人の行方は、誰も知らない。」という一文は、下人がその後どうなったのかを説明していない。
だからこそ、読者は「下人はこのあと本当に盗人として生きていくのか」「悪へ踏み出した人間はどこへ向かうのか」と考えさせられるんだ。
最後の場面のポイント
- 下人は、老婆の着物を奪って逃げる。
- 老婆の論理を利用して、自分の盗みを正当化している。
- 闇の中へ消えることは、下人が悪の世界へ踏み出したことを暗示する。
- 「下人の行方は、誰も知らない。」は、下人の未来を読者に考えさせる終わり方である。
23. 題名「羅生門」の意味
題名の「羅生門」は、物語の舞台となる場所の名前だよ。
けれど、この題名はただの場所を表しているだけではない。
羅生門は、荒れ果てた京都の象徴であり、死人が捨てられ、盗人や老婆が生きるために悪を行う場所として描かれている。
つまり羅生門は、社会の荒廃、人間の道徳の崩れ、善と悪の境目があいまいになる場所を象徴しているんだ。
下人は、羅生門の下で迷い、羅生門の上で老婆に出会い、最後には羅生門から闇の中へ降りていく。
その意味で、羅生門は下人が悪へ踏み出す境界の場所ともいえるよ。
24. 「羅生門」の主題
「羅生門」の主題は、一言でまとめると、極限状態に置かれた人間の心の弱さや、善悪のあいまいさだよ。
下人は、最初は老婆の悪を激しく憎んでいた。けれど、老婆の「生きるためなら仕方がない」という言い分を聞くと、その論理を自分の悪に利用してしまう。
ここには、「生きるためなら悪をしてもよいのか」「悪をした者には悪をしても許されるのか」という重い問いがある。
作品は、その答えをはっきりとは示していない。最後に「下人の行方は、誰も知らない。」と結ぶことで、読者自身に考えさせているんだ。
「羅生門」の主題として押さえたいこと
- 善悪は、状況によって簡単に揺らいでしまう。
- 極限状態では、人間は自分の悪を正当化してしまうことがある。
- 下人は、老婆を責める側から、自分も悪を行う側へ変わる。
- 作品は、下人の行方を明かさず、読者に問いを残して終わる。
25. 「羅生門」に出てくる重要語句
「羅生門」には、現代ではあまり使わない語句や、テストに出やすい語句が多く出てくるよ。ここで紹介している意味は、「羅生門」の本文中での意味を中心にしているよ。
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 下人 | 身分の低い使用人。ここでは、主人に仕えていた下働きの男。 |
| 羅生門 | 平安京の正面にあった大きな門。物語では荒れ果てた場所として描かれる。 |
| 丹塗り | 赤い色で塗ること。また、その塗り。 |
| 朱雀大路 | 平安京の中央を南北に通る大通り。 |
| 市女笠 | 女性が外出時などにかぶった笠。 |
| 揉烏帽子 | 柔らかく作った烏帽子。男性のかぶり物。 |
| 辻風 | つむじ風。急に吹き起こる強い風。 |
| 飢饉 | 食べ物が不足して、多くの人が飢えること。 |
| 洛中 | 京都の町の中。 |
| 旧記 | 古い記録。 |
| 薪の料 | 薪として使う材料。 |
| 狐狸 | きつねやたぬき。ここでは荒れた場所にすむ不気味なものとして描かれる。 |
| 足ぶみをしない | そこへ近づかないこと。 |
| 鴟尾 | 屋根の両端につける飾り。 |
| 刻限 | 定められた時刻。 |
| 襖 | 衣服の一種。ここでは下人の着物。 |
| 格別 | 特別に。とりたてて。 |
| あて | 見込み。目的。頼り。 |
| 暇を出す | 使用人などをやめさせること。解雇すること。 |
| 衰微 | 衰えて、勢いが弱くなること。 |
| 余波 | ある出来事の影響のなごり。 |
| 途方に暮れる | どうしてよいか分からず困り果てること。 |
| Sentimentalisme | 感傷的な気分。 |
| 申の刻下り | 午後四時過ぎごろ。 |
| 気色 | 様子。気配。 |
| とりとめもない | まとまりがない。はっきりしない。 |
| 甍 | 屋根瓦。また、瓦ぶきの屋根。 |
| 暇がない | 時間や余裕がないこと。 |
| 築土 | 土をつき固めて作った塀。 |
| 低回 | 思いにふけって歩き回ること。ここでは考えが同じところをめぐること。 |
| あげく | しまいには。いろいろした結果。 |
| 逢着 | 出くわすこと。ある結論や場面に行きつくこと。 |
| 片をつける | 物事を決着させること。 |
| 嚔 | くしゃみ。 |
| 大儀 | 骨が折れること。苦労。 |
| 火桶 | 木製の丸い火鉢。 |
| 憂え | 心配。気がかり。 |
| 楼 | 高い建物。ここでは羅生門の上の部分。 |
| 梯子 | はしご。 |
| 聖柄の太刀 | 柄に飾りのある太刀。 |
| 鞘走る | 刀が鞘から自然に抜け出る。 |
| 息を殺す | 呼吸をおさえて、静かにすること。 |
| 高をくくる | その程度だろうと安易に予想すること。 |
| 足音を盗む | 足音を立てないように歩くこと。 |
| 無造作 | 手軽に、または雑に扱うようす。 |
| 唖の如く | 口をきかない人のように。ものを言わずに。 |
| 嗅覚 | においを感じ取る感覚。 |
| 檜皮色 | ひのきの皮のような赤黒い茶色。 |
| 暫時 | しばらくの間。 |
| 頭身の毛も太る | ぞっとするほど恐ろしいようす。 |
| 虱 | 人や動物に寄生する小さな虫。 |
| 語弊がある | 誤解をまねく可能性がある言い方である。 |
| 未練 | あきらめきれない気持ち。 |
| 合理的 | 筋道が通っていて無駄がないこと。 |
| とうに | とっくに。ずっと前に。 |
| 弩 | いしゆみ。矢を発射する武器。 |
| 執拗く | しつこく。執念深く。 |
| 成就 | 物事が成し遂げられること。 |
| 検非違使 | 平安時代の警察・裁判のような役割をもった役所の役人。 |
| 存外 | 思いのほか。意外にも。 |
| 平凡 | 特に変わったところがないこと。 |
| 侮蔑 | 相手を見下してばかにすること。 |
| 蟇 | ひきがえる。 |
| 現に | 実際に。目の前に。 |
| 太刀帯の陣 | 宮中の警備などに関わる武官の詰め所。 |
| 疫病 | 流行病。伝染病。 |
| 菜料 | おかずの材料。 |
| おおかた | たぶん。おそらく。 |
| 大目に見る | 悪いことや失敗を厳しく責めず、見逃すこと。 |
| 冷然 | 冷ややかで、情に動かされないようす。 |
| 嘲る | ばかにして笑うこと。 |
| 念を押す | 十分に確かめること。重ねて確認すること。 |
| 引剥ぎ | 身につけているものを無理にはぎ取ること。 |
| 〜な体 | 〜というありさま。〜という状態。 |
| 手荒く | 乱暴に。 |
| またたく間 | ほんの短い時間。 |
| 黒洞々たる夜 | 真っ暗で、奥深く広がっているような夜。 |
26. テスト対策ポイント
最後に、「羅生門」でテストに出やすいポイントを整理するよ。
「羅生門」テスト対策ポイント
- 作者は芥川龍之介である。
- 主な素材は『今昔物語集』の説話である。
- 舞台は荒れ果てた平安京の羅生門である。
- 下人は、主人から暇を出され、明日の暮らしに困っている。
- 下人は「飢え死にするか、盗人になるか」で迷っている。
- 「この局所」は、盗人になるしかないという結論を指す。
- 「すれば」は、手段を選ばないとすれば、という仮定のまま止まっている下人の迷いを表す。
- 「ある強い感情」は、六分の恐怖と四分の好奇心と考える。
- 下人は、老婆が死人の髪を抜く行為を「許すべからざる悪」と感じる。
- 老婆は、「生きるためには悪も仕方がない」という論理で自分の行為を正当化する。
- 下人は、その論理を利用して老婆の着物を奪う。
- にきびから手を離す動作は、迷いを捨てて悪へ踏み出す決意と結びつけて読める。
- 最後の「下人の行方は、誰も知らない。」は、下人が悪の世界へ消えていくことを印象づけている。
27. まとめ
芥川龍之介「羅生門」は、荒れ果てた平安京を舞台に、職を失った下人が、生きるために悪へ踏み出していくまでを描いた小説だよ。
下人は最初、盗人になるしかないと考えながらも、それを積極的に肯定する勇気を持てずにいた。
しかし、羅生門の楼の上で老婆に出会い、老婆の「生きるためには悪も仕方がない」という論理を聞くことで、下人は盗人になる勇気を得てしまう。
最後に下人が老婆の着物を奪って闇の中へ消える場面は、下人が悪の世界へ踏み出したことを表している。
この作品では、善と悪がはっきり分かれているわけではない。追いつめられた人間が、生きるためにどのように変わってしまうのか。その人間の弱さや怖さが描かれているんだ。
ここまで学習できたら、「羅生門」のテスト対策練習問題にも挑戦しよう!
芥川龍之介「羅生門」テスト対策①(語句・漢字)
芥川龍之介「羅生門」テスト対策②(読解問題1)
芥川龍之介「羅生門」テスト対策③(読解問題2)
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yumineko
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青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。 ※サイト全体の運営実績についてはこちらにまとめています。

