漢文「矛盾」原文・書き下し文・現代語訳をわかりやすく解説
高校古文で学習する漢文「矛盾」について、故事成語「矛盾」とはどういう意味か、由来となった漢文の書き下し文や現代語訳、定期テストで必要となる知識・ポイントをわかりやすく解説するよ。
漢文「矛盾」テスト対策ポイント
- 「矛盾」の意味は「話のつじつまが合わない」こと。読み方は、「むじゅん」。
- 由来は、中国戦国時代の学者「韓非(かんぴ)」が記した書物「韓非子(かんぴし)」に書かれたたとえ話。
- 「鬻ぐ」は「ひさ(ぐ)」と読む。意味は「売る」
- 「楚人有鬻盾与矛者」の「与」は「〇与△」で「〇と△」という助詞として使っている
- 「能」は「よく~」と読んで、「~できる」という意味になる
- 「莫」は「~するもの莫(な)し」と読んで、「否定」の意味になる
- 「能」と「莫」を合わせて使うことで、「~することはできない」となる
- 「物に於いて陥さざる無きなりと」という部分だけれど、ここで「無」と「不」が並んで使われていることで「二重否定、強い否定」となるよ。
- 「~しないものは無い」ということで「必ず~できる」という意味になるんだ。
- 「弗能」は「あたはざる」と読ませて、「~することができない」という意味になる。
目次
「矛盾」の意味(解説)
「矛盾」は現代の日本で一般的に使われている故事成語だね。
意味は「話の前後のつじつまが合わない」や「二つの物事が食い違っていてつじつまが合わない」こと。読み方は「むじゅん」だね。
由来となった書物
「矛盾」のエピソードが書かれているのは、中国戦国時代の法家(学者)の「韓非(かんぴ)」という人の著書「韓非子(かんぴし)」。
韓非は、当時の中国の儒家(儒学・儒教に尽くす人)を批判するために、たとえ話として「矛盾」のエピソードを記しているよ。
余裕があったら読もう!
韓非が「矛盾」のエピソードを書いた理由
儒家は「徳」によって国を治めるべきという主張、対して韓非は「法」によって国を治めるべきという主張だったんだ。
儒家の主張では、「堯(ぎょう)」と「舜(しゅん)」という伝説の皇帝がいるんだ(神話的な存在と考えられている)。
それによると、「堯」は徳によって完璧にすばらしく国をよく治めていた。そして、これまた素晴らしい人物で、世の中の良くない部分を徳によって改めていった「舜」が血縁関係でないのに「堯」に認められ、あとをついで皇帝となった、と説いているんだ。
つまり両者ともが最高の人物で、徳によって理想的な政治を行うことができる、という主張だね。
それに対して、韓非は
「堯」の政治は完璧だったはずなのに、どうして「舜」は世の中の良くないところを改めることができたのだ?(完璧なら、直すところなどないだろう、ということ)と、儒家の主張のつじつまの合わないところを指摘したんだ。
その流れで、たとえ話として「矛盾」のエピソードを記したんだよ。
「矛盾」あらすじ
楚の国の人が矛と盾を売っていた。
どちらも無敵な矛と盾だという主張に、ある人が「無敵同士を戦わせたらどうなる」と指摘すると、黙るしかなかった。
「矛盾」白文(原文)
楚人有鬻楯与矛者。
誉之曰、
「吾楯之堅、莫能陥也。」
又誉其矛曰、
「吾矛之利、於物無不陥也。」
或曰「以子之矛、陥子之楯、何如」
其人弗能応也。
「矛盾」書き下し文
楚人(そひと)に楯と矛(とを鬻(ぐ者有り。
之を誉(ほ)めて曰はく、
「吾(わ)が盾の堅きこと、能(よ)く陥(とほ)すもの莫(な)きなり。」と。
又其の矛を誉めて曰はく、
「吾が矛の利(きこと、物に於いて陥さざる無きなり。」と。
或るひと曰はく、「子(し)の矛を以つて、子の楯を陥さば何如(いかん)。」と。
其の人応ふる能(あた)はざるなり。
「矛盾」現代語訳
盾と矛を売っている楚の国の人がいた。
これ(売っている盾)を自慢して言うには、
「私の盾の堅さは、(この盾を)つきとおすものは無いくらいだ。」と。
また、その矛を自慢して言うには、
「私の矛の鋭さは、どんなものでも(この矛なら)つきとおせないものは無いくらいだ。」と。
ある人が言うには、
「(では)あなたのその(なんでもつきとおす)矛で、(つきとおすものは無い)盾をつきとおそうとするとどうなるのか。」と。
その(盾と矛を売っていた)人は答えることが出来なかった。
「矛盾」古語・語句の意味
語句 | 意味 |
---|---|
楚人 | 「楚」とは、戦国時代の中国にあった国。戦国時代に有力だった7つの国(戦国七雄)のうちの1国。「楚人」は、「楚」の国の人ということ |
楯 | 盾のこと |
矛 | 槍のような、持ち手のついている武器のこと |
鬻ぐ | 売る |
能く | ~できる |
陥す | つきやぶる |
莫き | 無い |
利き | するどい |
於いて | ~について、~にとって |
何如 | どうなる |
能はざる | 「弗能(あたはざる)」=~することができない |
「矛盾」内容とポイント
「矛盾」の漢文の内容とポイントを解説していくよ。
「楚人有鬻盾与矛者」
書き下すと「楚人に楯と矛とを鬻ぐ者有り。」となるね。
まず「盾」と「矛」を売っている者がいたというところから始まっているね。
「矛」はイメージとしては「槍」に近いような武器だと思えば大丈夫。
ここでは、「鬻ぐ」の読み方がテストでは出題されやすいので、おさえておこう。
誉之曰、「吾楯之堅、莫能陥也。」
書き下すと、「之を誉めて曰はく、『吾(わ)が盾の堅きこと、能(よ)く陥(とほ)すもの莫(な)きなり。』と。」となるね。
矛と盾を売っていた人は、自分の売っているものがいかに素晴らしいかをアピールして、できるだけ買ってほしいから、この盾と矛がいかにすばらしいかを「ほめる」んだよね。
まずは「盾」のことを、「この盾をつきやぶることが出来るものなんて、この世にはないよ!それぐらい堅くて、すばらしい盾なんだよ!」とアピールしたんだ。
又誉其矛曰、「吾矛之利、於物無不陥也。」
書き下すと、「又其の矛を誉めて曰はく、『吾が矛の利(きこと、物に於いて陥さざる無きなり。』と。」となるね。
こんどは矛をアピールする番。そこで、盾のときと同じように「この矛はとても鋭くて、どんなものだってつきやぶるんだ!!この矛でつきやぶれないものなんて、この世にはないよ!」と言ったんだね。
ちなみに、「利」の読み方は、「と(き)」または「するど(き)」があって、教科書によってどちらが使われているかが異なるので、テストのときは自分が使っている教科書に合わせると安心だよ。
或曰「以子之矛、陥子之盾、何如」
書き下すと、或るひと曰はく、「子(し)の矛を以つて、子の楯を陥さば何如(いかん)。」と。
何でも突き通すことができる「矛」で、どんなものでも突き通すことができない「盾」を突けばどうなるのか、という矛盾の中心となる部分だね。
最強の矛で最強の盾を突けばどうなるのか、最強のものは同時に2つは存在しないということを言っているんだ。
「其人弗能応也」
結局商人は質問に答えることができなかったね。
それはそうだよね、どちらも「無敵」と言ってしまったんだから。
「矛盾」重要文法
「矛盾」の漢文でつかわれている重要な文法を紹介していくよ。
「楚人有鬻盾与矛者」
ここで使われている「与」は「〇与△」で「〇と△」という助詞として使っているよ。
書き下すときに「与える」という動詞の意味で扱わないことが重要だよ。
「莫能陥也」
ここは「能く陥す莫きなり」となって「突き通すことなど出来ない」という意味になるね。
「能」は「よく~」と読んで、「~できる」という意味になるよ。
英語の「can」のイメージだね。
「莫」はあまり見ることがない漢字なので注意が必要だね。「~するもの莫し」と読んで、「否定」の意味になるよ。
「能」と「莫」を合わせて使うことで、「~することはできない」となるんだ。
「於物無不陥也」
「物に於いて陥さざる無きなりと」という部分だけれど、ここで「無」と「不」が並んで使われていることで「二重否定、強い否定」となるよ。
「~しないものは無い」ということで「必ず~できる」という意味になるんだ。
ここでは、「私の矛で突き通せないものはない(どんなものでも突き通すことができる)」と商人は言っているんだね。
「其人弗能応也」
ここでは「弗能」に注意です。「弗能」は「あたはざる」と読ませて、「~することができない」という意味になるよ。
つまり「答えることができなかった」となるね。
ここまで学習できたら、「矛盾」のテスト対策練習問題のページにチャレンジしよう!
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ゆみねこ
詳しいプロフィールを見る
青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。