芥川龍之介「羅生門」テスト対策練習問題③(読解問題2)

高校現代文で学習する芥川龍之介の「羅生門」でよく出る問題や過去問をまとめているよ。
作者について、登場人物の心情や状況を答える問題を確認しよう。

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芥川龍之介「羅生門」テスト対策練習問題③(読解問題2)

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芥川龍之介「羅生門」テスト対策練習問題

以下の文について問いに答えなさい。

それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、➀一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の様子を窺っていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤く膿を持ったにきびのある頬である。下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと➁高を括っていた。それが、梯子を二、三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄色い光が、隅々に蜘蛛の巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐに③それと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。
 下人は、守宮のように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平にしながら、首を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗いて見た。
 見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸が、無造作に捨ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるという事である。勿論、中には女も男もまじっているらしい。そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、土を捏ねて造った人形のように、口を開いたり手を伸ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖の如く黙っていた。
 下人は、それらの死骸の腐乱した臭気に思わず、鼻を覆った。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を覆う事を忘れていた。④ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからである。
 下人の目は、その時、はじめてその死骸の中に蹲っている人間を見た。檜皮色の着物を着た、背の低い、痩せた、白髪頭の、猿のような老婆である。その老婆は、右の手に火をともした松の木片を持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。髪の毛の長い所を見ると、多分女の死骸であろう。
 下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、【➀】は息をするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば、「頭身の毛も太る」ように感じたのである。すると老婆は、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱をとるように、その長い髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。
 その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、【ア】が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい【イ】が、少しずつ動いて来た。――いや、この老婆に対すると云っては、【➁】があるかも知れない。むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこの下人に、さっき門の下でこの男が考えていた、飢え死にをするか盗人になるかと云う問題を、改めて持ち出したら、恐らく下人は、何の未練もなく、飢え死にを選んだ事であろう。それほど、この男の悪を憎む心は、老婆の床に挿した松の木片のように、勢いよく燃え上り出していたのである。

問1

下線部➀「一人の男」とあるが、誰のことか。本文より抜き出して答えなさい。

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下人

問2

作者がここで「一人の男」と表現した理由としてもっとも正しいものを次の中から選びなさい。

ア:下人の心情の変化を強調するため
イ:場面の変化を強調するため
ウ:老婆と下人の心の距離を強調するため
エ:時間の変化を強調するため

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問3

下線部➁「高を括っていた」とあるが、どのようなことか正しく説明しているものを次の中から選びなさい。

ア:楼の上に死体がたくさんあることを覚悟していた
イ:楼の上が死体だらけであると恐怖していた
ウ:楼の上は死体だけだろうと予想していた
エ:楼の上は死体だけなのかと疑っていた

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【解説】「高を括る」とは、その程度だろうと予測すること。

問4

下線部③「それ」のさす内容を本文から抜き出し、30文字で答えなさい。

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上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしている

問5

下線部④「ある強い感情」とあるが、どのような感情か。次の中からもっとも正しいものを選びなさい。

ア:老婆への怒り
イ:恐怖と好奇心
ウ:不安
エ:死者への哀れみ

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【解説】死体の中にうずくまる老婆を見た下人は「六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて」とあるように、この時の下人の感情は恐怖心と好奇心である。

問6

【ア】と【イ】に入る語句をそれぞれ漢字2字で答えなさい。

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【ア】恐怖
【イ】憎悪

問7

「しばらくの間」という意味の【➀】に当てはまる語句を漢字で答えなさい。

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暫時

問8

「誤解をまねく可能性がある言い方」という意味の【➁】に当てはまる語句を漢字で答えなさい。

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語弊

以下の文について問いに答えなさい。

下人には、勿論、何故老婆が死人の髪の毛を抜くかわからなかった。従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪であった。勿論、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。
 そこで、下人は、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。そうして聖柄の太刀に手をかけながら、大股に老婆の前へ歩みよった。老婆が驚いたのは云うまでもない。
 老婆は、一目下人を見ると、まるで弩にでも弾かれたように、飛び上った。
「おのれ、どこへ行く。」
 下人は、老婆が死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行く手を塞いで、こう罵った。老婆は、それでも下人を突きのけて行こうとする。下人はまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。下人はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへじ倒した。丁度、鶏の脚のような、骨と皮ばかりの腕である。
「何をしていた。言え。言わぬと、➀これだぞよ。」
 下人は、老婆を突き放すと、いきなり、太刀の鞘を払って、白い鋼の色をその眼の前へ突きつけた。けれども、老婆は黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、目を、眼球がまぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗く黙っている。これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。➁そうしてこの意識は、今まで険しく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。そこで、下人は、老婆を見下しながら、少し声を和らげてこう言った。
「俺は検非違使の庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄をかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを俺に話しさえすればいいのだ。」
 すると、老婆は、見開いていた目を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。③まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い目で見たのである。それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。細い喉で、尖った喉仏の動いているのが見える。その時、その喉から、鴉の啼くような声が、喘ぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、かつらにしようと思うたのじゃ。」
 ④下人は、老婆の答えが存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑と一しょに、心の中へはいって来た。すると、その気色が、先方へも通じたのであろう。老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、蟇のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を言った。
「成程な、死人の髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい人間ばかりだぞよ。現に、わしが今、髪を抜いた女などはな、蛇を四寸ばかりずつに切って干したのを、干魚だと言うて、太刀帯の陣へ売りに往んだわ。疫病にかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。それもよ、この女の売る干魚は、味がよいと云うて、太刀帯どもが、欠かさず菜料に買っていたそうな。わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。せねば、飢え死にをするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、飢え死にをするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、おおかたわしのする事も⑤大目に見てくれるであろ。」
 老婆は、大体こんな意味の事を言った。

問9

下線部➀「これだぞよ」とあるが、「これ」が指すものを本文から抜き出して漢字で答えなさい。

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【解説】下人は、「これだぞよ」と言いながら、刀を老婆の目の前に突きつけている。つまり、「何をしていたか白状しないのであれば、殺すぞ」と脅しているのである。よって、本文から抜き出すのは「死」となる。

問10

下線部➁「そうしてこの意識は、今まで険しく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった」とあるが、その理由として正しいものを次の中から選びなさい。

ア:悪事を働く老婆の生き死にを自分が支配していると感じたから
イ:老婆がなぜ死人の髪の毛を抜くのか、好奇心の方が勝ったから
ウ:自分は検非違使の役人ではなく、老婆を罰することはできないと感じたから
エ:力なく黙る様子の老婆に、哀れみと同情の念を感じたから

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【解説】直前の「明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した」から判断する。

問11

下線部③「まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い目で見たのである」とあるが、このときの老婆の様子として正しくないものを次の中から選びなさい。

ア:下人に対する警戒心
イ:薄気味の悪さ
ウ:下人を狙う獰猛さ
エ:ずる賢い意地汚さ

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【解説】「自分は検非違使の役人ではないので、捕らえるつもりはない」と説明する下人に対して向ける鋭い目は、下人の言葉をにわかには信じず、警戒を解ききってはいない様子がわかる。肉食鳥という表現から、薄気味の悪さと、死肉を食らう獣のような意地汚さが伝わる。下人に対しては、とうてい力では敵わないと思い知らされた老婆が下人を狙うとは考えにくいため、ウが正しくない。

問12

下線部④「下人は、老婆の答えが存外、平凡なのに失望した」とあるが、その理由として正しいものを次の中から選びなさい。

ア:自分勝手な理由で死者を貶める行動に嫌気がさしたから
イ:下人の今後の身の振り方の参考にはならないつまらない答えだったから
ウ:老婆の状況に同情し、責める気持ちが弱まってしまったから
エ:自分の好奇心と正義感を満足させるほどの特異な理由ではなかったから

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【解説】死人の中にうずくまり、髪の毛を抜くなどという許すべからざる悪に、下人はもっと特別な、「何か」を期待していたのである。

問13

下線部⑤「大目に見てくれるであろ」とあるが、老婆がこのように考える根拠として正しいものを次の中からえらびなさい。

ア:悪をしたものは悪を働かれても仕方がない
イ:女は自分の悪行を反省しているから
ウ:人間は誰もがみな悪い心を持っているから
エ:生きていく上では悪を働いても仕方がないから

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以下の文について問いに答えなさい。

 下人は、太刀を鞘におさめて、その太刀の柄を左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きなにきびを気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、➀下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。下人は、飢え死にをするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。➁その時のこの男の心もちから云えば、飢え死になどと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。
「きっと、そうか。」
 老婆の話が終わると、下人は③嘲るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手をにきびから離して、老婆の襟髪をつかみながら、噛みつくようにこう言った。
「では、俺が引剥ぎをしようと恨むまいな。俺もそうしなければ、飢え死にをする体なのだ。」
 下人は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。下人は、剥ぎとった檜皮色の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。
 しばらく、死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。老婆はつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪を逆さまにして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
 下人の行方は、誰も知らない。

問14

下線部➀「下人の心には、ある勇気が生まれて来た」とあるが、どんな勇気か。次の中から選びなさい。

ア:老婆を捕らえて悪事を糾弾する勇気
イ:飢え死にをしてでも真っ当に生きる勇気
ウ:生きるためには盗みを犯すことも辞さない勇気
エ:不運な自分の運命を受け入れる勇気

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【解説】「ある勇気」とは、そのすぐ後に書かれている「さっき門の下で、この男には欠けていた勇気」のことである。では欠けていた勇気とは何かというと、門の下で下人が悩んでいたときの描写「『盗人になるよりほかに仕方がない』と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいた」という部分に繋がる。つまり、「盗人になるよりほかに仕方がないということを、積極的に肯定する勇気=盗みを犯してでも、生き抜いていくこと」ということである。

問15

下線部➁「その時の」が指す内容を本文の言葉を使って答えなさい。

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下人の心に、ある勇気が生まれてきた時

問16

下線部③「嘲るような声」とあるが、ここには下人のどのような心情が込められているか。次の中からもっとも正しいものを選びなさい。

ア:なすすべのない自分の運命を呪い、自暴自棄になっている
イ:自身の理屈が自分の首をしめることになる老婆を蔑む気持ち
ウ:許されざるべき悪事を働いた老婆に対する侮蔑の感情
エ:無情な世の中の犠牲となる自分と老婆に対する無力感

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【解説】「嘲る」とは、ばかにして笑うこと。「生きるためには悪事を働くのも仕方がない、悪事をしたものには悪事を働いても許してくれる」という老婆の主張は、つまり下人が悪事を働いた老婆に対して、生きるためには悪事を働いてもよいという皮肉なことになる。そこまで考えが及んでいない老婆を見下げているのである。

問17

老婆の話を聞いた下人の心が「生きるためには盗人になることも厭わない」と決意したことを暗に示す、下人の動作を本文の言葉を使って16文字で答えなさい。

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不意に右の手をにきびから離した
【解説】この物語において、下人がにきびを触ることは「悪には染まりきらない青年」「正義と悪との間でゆれうごく心情」を暗に示していた。そのにきびから手を離したということは、「悪行をしてでも、生きると決意した」、悪へとこころを振り切った大人の下人を表現していると考えることができる。

問18

下人の老婆に対する心情の変化のとおりに、次のア~エを並び替えなさい。

ア:憎悪
イ:恐怖と好奇心
ウ:失望と侮蔑
エ:嘲笑

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イ→ア→ウ→エ

運営者情報

青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。

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