10沙石集「正直の徳」
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近き頃、帰朝の僧の説とて、ある人語りしは、唐土にいやしき夫婦あり。餅を売りて世を渡りけり。夫の、道のほとりにして餅を売りけるに、人の袋を落としたりけるを見ければ、銀の軟挺六つありけり。家に持ちて帰りぬ。
妻、心素直に欲なき者にて、「我らは商うて過ぐれば、事も欠けず。この主、いかばかり嘆き求むらむ。いとほしきことなり。主を尋ねて返し給へ。」と言ひければ、「まことに。」とて、あまねく触れけるに、主といふ者出で来て、これを得て、あまりにうれしくて「三つをば奉らむ。」と言ひて、すでに分かつべかりけるとき、思ひ返して、煩ひを出ださむがために、「七つこそありしに、六つあるこそ不思議なれ。一つは隠されたるにや。」と言ふ。「さることなし。もとより六つこそありしか。」と論ずるほどに、果ては、国の守のもとにして、これをことわらしむ。
「餅を売りて世を渡りけり」の主語としてふさわしい語を古文から抜き出して2字で答えなさい。
正解は「夫婦」です。
近き頃、帰朝の僧の説とて、ある人語りしは、唐土にいやしき夫婦あり。餅を売りて世を渡りけり。夫の、道のほとりにして餅を売りけるに、人の袋を落としたりけるを見ければ、銀の軟挺六つありけり。家に持ちて帰りぬ。
妻、心素直に欲なき者にて、「我らは商うて過ぐれば、事も欠けず。この主、いかばかり嘆き求むらむ。いとほしきことなり。主を尋ねて返し給へ。」と言ひければ、「まことに。」とて、あまねく触れけるに、主といふ者出で来て、これを得て、あまりにうれしくて「三つをば奉らむ。」と言ひて、すでに分かつべかりけるとき、思ひ返して、煩ひを出ださむがために、「七つこそありしに、六つあるこそ不思議なれ。一つは隠されたるにや。」と言ふ。「さることなし。もとより六つこそありしか。」と論ずるほどに、果ては、国の守のもとにして、これをことわらしむ。
「家に持ちて帰りぬ」の主語としてふさわしい語を古文から抜き出して答えなさい。
正解は「夫」です。
「夫の、道のほとりにして…家に持ちて帰りぬ」とあるように、銀の軟挺が入った落し物のの袋を持って帰ったのは夫である。
「我らは商うて過ぐれば、事も欠けず」の意味としてもっとも正しいものを次の中から選びなさい。
ア:私たちは商売をしているので、物がなくなると困る
イ:私たちは物を売りすぎてしまうと、品物が足りなくなる
ウ:私たちは商売をしているので、過ちをおかすことはできない
エ:私たちは商売をしているので、生活には困らない
正解は「エ」です。
「事も欠けず」は問題にならないという意味。問題なく過ぎるということは、つまりこれから生活していくのに困ることはないということ。
「いとほしきことなり」の意味としてもっとも正しいものを次の中から選びなさい。
ア:とても欲しいものだ
イ:気の毒なことだ
ウ:いとおしいことだ
エ:めったにないことだ
正解は「イ」です。
「いとほしき」とは気の毒、かわいそうだという意味。
「まことに。」とあるが、これは誰が何に対して言った言葉か。もっとも正しく説明しているものを次の中から選びなさい。
ア:夫が、妻の「軟挺を落とした人に返すべき」という意見に同意している
イ:妻が、夫が軟挺を落とした人に同情する言葉に同意している
ウ:妻が、夫が軟挺を落とした人を探し出そうという考えに同意している
エ:夫が、妻の軟挺を落とした人に同情する言葉に同意している
正解は「ア」です。
この言葉は、夫の言葉なので、夫が妻に同意している言葉である。さらに、妻の「主を尋ねて返し給へ」に対して同意しているので、「落とした人に返すべき」という意見に同意しているのである。エも正しく思えるが、「もっとも」と問題文にあるため、正解はアとなる。
近き頃、帰朝の僧の説とて、ある人語りしは、唐土にいやしき夫婦あり。餅を売りて世を渡りけり。夫の、道のほとりにして餅を売りけるに、人の袋を落としたりけるを見ければ、銀の軟挺六つありけり。家に持ちて帰りぬ。
妻、心素直に欲なき者にて、「我らは商うて過ぐれば、事も欠けず。この主、いかばかり嘆き求むらむ。いとほしきことなり。主を尋ねて返し給へ。」と言ひければ、「まことに。」とて、あまねく触れけるに、主といふ者出で来て、これを得て、あまりにうれしくて「三つをば奉らむ。」と言ひて、すでに分かつべかりけるとき、思ひ返して、煩ひを出ださむがために、「七つこそありしに、六つあるこそ不思議なれ。一つは隠されたるにや。」と言ふ。「さることなし。もとより六つこそありしか。」と論ずるほどに、果ては、国の守のもとにして、これをことわらしむ。
「これを得て」とあるが、「これ」が指す語を古文から6字で抜き出して答えなさい。
正解は「銀の軟挺六つ」です。
近き頃、帰朝の僧の説とて、ある人語りしは、唐土にいやしき夫婦あり。餅を売りて世を渡りけり。夫の、道のほとりにして餅を売りけるに、人の袋を落としたりけるを見ければ、銀の軟挺六つありけり。家に持ちて帰りぬ。
妻、心素直に欲なき者にて、「我らは商うて過ぐれば、事も欠けず。この主、いかばかり嘆き求むらむ。いとほしきことなり。主を尋ねて返し給へ。」と言ひければ、「まことに。」とて、あまねく触れけるに、主といふ者出で来て、これを得て、あまりにうれしくて「三つをば奉らむ。」と言ひて、すでに分かつべかりけるとき、思ひ返して、煩ひを出ださむがために、「七つこそありしに、六つあるこそ不思議なれ。一つは隠されたるにや。」と言ふ。「さることなし。もとより六つこそありしか。」と論ずるほどに、果ては、国の守のもとにして、これをことわらしむ。
「さることなし。もとより六つこそありしか。」は誰が言った言葉か。古文の中から抜き出して答えなさい。
正解は「夫」です。
軟挺を落とした人物は、お礼として半分を夫に渡そうとしたが、急に惜しくなり、「七つあったはずが六つしかない」と難癖をつけはじめたのである。それに対して、夫が「六つしかなかった」と反論しているのである。
「すでに分かつべかりけるとき」の意味としてもっとも正しいものを次の中から選びなさい。
ア:すでに分かっていたので
イ:すでに分けていたので
ウ:もう少しで分けるときに
エ:もう少しで分かりそうなので
正解は「ウ」です。
「すでに」は「もう・とっくに」という意味。「分かつ」は、「分ける・別々にする」という意味。つまり、六つの軟挺を分けようとしているのである。
「夫が状に少しも違はず」の意味として最も正しいものを次の中から選びなさい。
ア:妻が言うことが夫の言うことと少しも違わない
イ:夫が国の守の命令に少しも従わない
ウ:妻が夫に遠慮して少しも話さない
エ:夫の言うことが国の守が考えたことと少しも違わない
正解は「ア」です。
「夫が」とあるので、夫が○○したと考えてしまいそうだが、これは「夫の」という意味となる。つまり、夫の状(夫の言うこと)と少しも違わないという意味となる。妻が言っていることが、夫の言うこと少しも変わらないということとなる。
「いみじき成敗」の意味として最も正しいものを次の中から選びなさい。
ア:厳しい判断
イ:いじわるな判断
ウ:すばらしい判断
エ:難しい判断
正解は「ウ」です。
「いみじき」は「並々でない・すばらしい」という意味を持つ。(参考:ひどい・恐ろしいという意味も持っている)「成敗」には、「裁定・決裁」という意味があり、ここでは軟挺を落とした主と、夫の問題に対して「すばらしい判断」をしたという意味となる。
「ののしる」の意味として最も正しいものを次の中から選びなさい。
ア:悪口を言う
イ:評判になる
ウ:文句を言う
エ:誉める
正解は「イ」です。
現代では「悪口をいう」というイメージの強い「ののしる」だが、古文では「評判になる・うわさする」という意味があるので注意しよう。
国の守、眼賢しくして、「この主は不実の者なり。この男は正直の者。」と見ながら、なほ不審なりければ、かの妻を召して、別の所にて事の子細を尋ぬるに、夫が状に少しも違はず。「この妻は極めたる正直の者。」と見て、かの主、不実のこと確かなりければ、国の守の判にいはく、「このこと、確かの証拠なければ判じがたし。ただし、共に正直の者と見えたり。夫妻また言葉変はらず、主の言葉も正直に聞こゆれば、七つあらむ軟挺を尋ねて取るべし。これは六つあれば、別の人のにこそ。」とて、六つながら夫妻に賜りけり。
宋朝の人、いみじき成敗とぞ、あまねく褒めののしりける。心直ければ、おのづから天の与へて、宝を得たり。心曲がれば、冥のとがめにて、宝を失ふ。このことわりは少しも違ふべからず。かへすがへすも心清く素直なるべきものなり。
この説話による教訓が述べられている一文を抜き出して答えなさい。
※句読点まで含めること
正解は「かへすがへすも心清く素直なるべきものなり。」です。
この説話は、軟挺を惜しむあまり嘘をついた主ではなく、拾った軟挺をきちんと落とし主に返そうとしたり、嘘をつかず正直でいたことによって得をした夫婦の話である。よって、「正直でいるべきである」と述べる一文を抜き出そう。
この説話が収録されている説話集の名前を漢字で答えなさい。
正解は「沙石集」です。
この説話が収録されている説話集が成立した時代を漢字で答えなさい。
※○○時代という形式で答えること
正解は「鎌倉時代」です。
「唐土にいやしき夫婦あり」を現代語に訳したものとして正しいものを次の中から選び、カタカナで答えなさい。
ア:中国に身分の低い夫婦がいた。
イ:外国に身分の低い夫婦がいた。
ウ:中国に意地の悪い夫婦がいた。
エ:外国に意地の悪い夫婦がいた。
正解は「ア」です。
「唐土」は、昔に中国のことを指していう言葉。「いやしき」とは、身分が低いという意味。
「三つをば奉らむ」を現代語に訳したものとして正しいものを次の中から選び、カタカナで答えなさい。
ア:銀の軟挺を3つ賜りください
イ:銀の軟挺が3つあれば喜びます
ウ:銀の軟挺を3つ差し上げましょう
エ:3つの銀の軟挺はどこにありますか
正解は「ウ」です。
「この主は不実の者なり。」とあるが、「この主」とは誰のことか。次の中から選び、カタカナで答えなさい。
ア:夫婦
イ:夫
ウ:軟挺を落とした人
エ:国の守
正解は「ウ」です。
次の語の読みを送り仮名も含めてひらがなで答えなさい。ただし、歴史的仮名遣いが使われている場合は、現代仮名遣いに直すこと。
唐土
正解は「もろこし」です。
次の語の読みを送り仮名も含めてひらがなで答えなさい。ただし、歴史的仮名遣いが使われている場合は、現代仮名遣いに直すこと。
賢しく
正解は「さかしく」です。
次の語の読みを送り仮名も含めてひらがなで答えなさい。ただし、歴史的仮名遣いが使われている場合は、現代仮名遣いに直すこと。
違はず
正解は「たがわず」です。
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青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。