宮沢賢治「永訣の朝」定期テスト対策|頻出問題と詳しい解説

高校現代文で学習する宮沢賢治の詩「永訣の朝」について、定期テストでよく出る問題や過去問を研究して予想問題を作成しているよ。語句の意味、内容の意味、人物の心情や表現技法など、重要なポイントを確認しよう。

宮沢賢治「永訣の朝」テスト対策練習問題

宮沢賢治の詩「永訣の朝」について、問題に答えなさい。

永訣の朝

けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつそう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
(あめゆじゆとてちてけんじや)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
(あめゆじゆとてちてけんじや)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
(あめゆじゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
…ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまつてゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまつしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらつていかう
わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ
みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)
ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あぁあのとざされた病室の
くらいびやうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
(うまれでくるたて
こんどはこたにわりやのごとばかりで
くるしまなあよにうまれてくる)
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになつて
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

語句の意味・歴史的仮名遣いについての問題

次の語句の意味として、最も適切なものをそれぞれア〜エの中から一つ選びなさい。

問1

永訣
ア:重要な物事を、きっぱりと決断すること。
イ:固い決意をして、故郷を永遠に離れること。
ウ:生きている人と亡くなった人との、永久の別れ。
エ:長い間会っていなかった人と、感動的な再会を果たすこと。

答えを見る


【解説】「永訣」は「永の訣れ」と書き、死別、つまり二度と会うことのできない永久の別れを意味する。

問2

陰惨
ア:非常に悲惨で、涙を誘うような様子。
イ:音もなく静まり返っていて、神秘的な様子。
ウ:影が差して、ひんやりと涼しく感じられる様子。
エ:暗く、見るからに惨めで気が滅入るような様子。

答えを見る


【解説】「陰惨」は、ただ悲惨なだけでなく、「陰」という字が示すように、暗く、じめじめとして気が滅入るような雰囲気を伴う。読みは通常「いんさん」だが、詩の中では宮沢賢治の故郷の訛りである「いんざん」という読み方がされていると考えられている。

問3

蒼鉛
ア:青みがかった銀白色の金属。ここでは、そのような暗い灰色のこと。
イ:雨をたくさん含んで重くなった、濃い紺色のこと。
ウ:書道で使われる、青みがかった上質な墨のこと。
エ:絵の具の顔料として使われる、鮮やかな群青色のこと。

答えを見る


【解説】「蒼鉛」は金属元素の名前。宮沢賢治は科学的な知識を活かし、単なる「鉛色」や「灰色」ではなく、より具体的で専門的な言葉を使って、雲の不気味な色合いを表現している。

問4

健気
ア:健康で病気をせず、いつも元気にふるまう様子。
イ:困難に屈せず、弱いながらも懸命に努力する様子。
ウ:自分の本当の気持ちを隠し、無理に明るくふるまう様子。
エ:危険を顧みず、勇ましく大胆に行動する様子。

答えを見る


【解説】「健気」は、弱い立場にある者が、困難な状況に負けずに一生懸命ふるまう様子を指す。病に苦しみながらも、兄を気遣うとし子の姿にぴったりの言葉。「健康」とは意味が異なるので注意しよう。

問5

二相系
ア:二つのものが互いに影響を与え合いながら存在する関係性のこと。
イ:純白と漆黒のように、二つの対照的な色が混じり合った状態のこと。
ウ:物質が固体と液体など、二つの異なる状態で共存している状態のこと。
エ:二種類以上の分子が化学的に結合してできた、化合物のこと。

答えを見る


【解説】「二相系」は物理化学の用語。「相」は物質の状態(固体・液体・気体など)を指し、「二相系」は雪(固体)とそれが溶けた水(液体)という二つの状態が一緒に存在していることを科学的に表現した言葉。

問6

資糧
ア:ある目的のために集められた、参考となる文献やデータのこと。
イ:活動の元手となる精神的、物質的な糧のこと。
ウ:長旅に出る際に必要となる、最低限の食料やお金のこと。
エ:生活していくために必要な、米や穀物などの主食のこと。

答えを見る


【解説】「資糧」は、旅の食料(路銀糧食)が元々の意味だが、転じて、活動や成長の元となる糧(かて)全般を指す。ここでは、妹の魂を天国で養うための、聖なる食べ物という意味で使われている。「資料」と混同しないように注意しよう。

次の語句をそれぞれ現代仮名遣いで書きなさい。

問7

もやう

答えを見る

もよう

問8

てつぱうだま

答えを見る

てっぽうだま

問9

いつしやう

答えを見る

いっしょう

問10

さいはひ

答えを見る

さいわい

【作者】宮沢賢治についての知識・背景問題

※【発展問題】について:教科書の範囲を少し超えるが、知っておくと作品の理解がより深まる問題。テストによっては、ここまでの知識が問われた事例もあるため、可能であればおさえておきたい。

問1

次のア〜エの中から、宮沢賢治の童話作品として適切でないものを一つ選びなさい。

ア:注文の多い料理店
イ:セロ弾きのゴーシュ
ウ:銀河鉄道の夜
エ:ごん狐

答えを見る


【解説】エの「ごん狐」は、愛知県出身の児童文学作家・新美南吉(にいみ なんきち)の代表作。宮沢賢治と同じく、若くして亡くなり、死後に評価が高まったという共通点があるため、テストでは混同しないように注意しよう。

問2【発展問題】

宮沢賢治が生きた時代や、その生涯に関する説明として、明らかに誤っているものを、次のア〜エの中から一つ選び、記号で答えなさい。

ア:明治時代の後期に岩手県で生まれ、大正時代に盛岡高等農林学校(現在の岩手大学農学部)で農業を専門的に学んだ。
イ:「大正デモクラシー」と呼ばれる、個人の自由や多様な価値観が尊重された風潮の中で、詩集『春と修羅』などを刊行した。
ウ:昭和時代に入ると、農民の生活を向上させることを目指して「羅須地人協会」を設立し、農業指導や芸術活動を行った。
エ:第二次世界大戦の終結を経験し、戦後の日本の復興を見届けながら、荒廃した人々の心を癒すための作品を書き続けた。

答えを見る


【解説】ア:宮沢賢治は1896年(明治29年)に生まれ、盛岡高等農林学校に入学したのは1915年(大正4年)で正しい。
イ:詩集『春と修羅』や童話集『注文の多い料理店』を刊行した1924年(大正13年)は、まさに「大正デモクラシー」の真っただ中であり正しい。賢治の個性的な作風も、こうした時代の空気に育まれた側面がある。
ウ:「羅須地人協会」を設立したのは1926年で、彼の活動は昭和初期にかけて行われたため正しい。
エ:宮沢賢治は1933年(昭和8年)に37歳の若さで亡くなった。第二次世界大戦が始まる(一般的に1939年とされる)より前であり「戦後の復興を見届けた」という部分が誤り。

問3【発展問題】

宮沢賢治が生前に刊行した唯一の詩集と唯一の童話集の正しい組み合わせを、次のア〜エの中から一つ選びなさい。

ア:詩集『春と修羅』、童話集『風の又三郎』
イ:詩集『雨ニモマケズ』、童話集『注文の多い料理店』
ウ:詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』
エ:詩集『永訣の朝』、童話集『銀河鉄道の夜』

答えを見る


【解説】宮沢賢治が生前に自費で刊行したのは、1924年(大正13年)に出版された詩集『春と修羅』と、同じ年に出版された童話集『注文の多い料理店』の2冊のみ。しかし、生前は一般的には無名に近い存在だったため当時はほとんど売れなかった。『風の又三郎』や『銀河鉄道の夜』、『雨ニモマケズ』などの有名な作品は、すべて賢治の死後に遺稿として発見され、出版されたものである。

問4【発展問題】

宮沢賢治の詩集『春と修羅』には、「永訣の朝」の他にも、妹トシの死を悼んで作られた「挽歌(ばんか)」と呼ばれる詩がいくつか収められている。次のア〜エのうち、このトシの死を悼む挽歌詩に当てはまらないものを一つ選びなさい。

ア:青森挽歌
イ:無声慟哭
ウ:松の針
エ:原体剣舞連

答えを見る


【解説】トシの死後、賢治は深い悲しみの中で、彼女を追悼する一連の詩(挽歌詩)を残しており、「永訣の朝」はその代表作。
ア「青森挽歌」、イ「無声慟哭」、ウ「松の針」は、いずれもトシの死に関連して作られた詩。「青森挽歌」は、トシの死後に樺太へ旅行した際、彼女の魂を思いながら詠んだものです。「無声慟哭」は「永訣の朝」のすぐ後に作られた詩。
エの「原体剣舞連(げんたいけんぶれん)」は、岩手県の伝統芸能である「鬼剣舞」をモチーフにした詩であり、トシの死を悼む挽歌詩ではない。

詩の形式・表現技法についての問題

問1

この詩の形式を答えなさい。

答えを見る

口語自由詩
【解説】日常的な話し言葉(口語)で書かれ、音数や形式に決まったパターンを持たない(自由)詩のため、口語自由詩である。

問2

この詩の中から、みぞれが降ってくる様子や、地面に落ちる音を表しているオノマトペ(擬態語・擬音語)を一つ探し、抜き出しなさい。

答えを見る

びちよびちよ

問3

この詩の中で、みぞれが降る様子を描写するために「みぞれはびちよびちよふつてくる」という表現が使われている。
このオノマトペ「びちよびちよ」が、この詩においてどのような効果をもたらしているか。その説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選び、記号で答えなさい。

ア:乾いた大地を潤す恵みの雨のような、生命力あふれる瑞々しい様子を表現し、妹の病状が回復に向かう希望を暗示している。
イ:リズミカルで楽しい音の響きによって、死という重いテーマを和らげ、読者が親しみやすい雰囲気を作り出している。
ウ:水分を多く含んだ重いみぞれが地面を叩く不快な音を描写することで、妹の死が迫る陰惨で重苦しい雰囲気を聴覚的に強調している。
エ:雪が溶け始める春先ののどかな情景を表現し、作者の穏やかで安らかな心境を読者に伝えている。

答えを見る


【解説】ア:「びちよびちよ」は水分を多く含み、「生命力」や「希望」といった明るいイメージではなく、むしろ不快で重苦しい印象を与えている。
イ:このオノマトペは「リズミカル」ではあるが、「楽しい」雰囲気は全くなく、むしろ詩全体の悲痛な調子を強めている。
ウ:「びちよびちよ」という音は、水分が多くて重い雪(みぞれ)が地面に落ちる、粘りつくような不快な響きを持っている。この音が、愛する妹の死に直面しているという「陰惨」で「重苦しい」状況を表現し、読者にその場の不吉な雰囲気を聴覚を通してリアルに伝えている。
エ:描かれているのは妹との永遠の別れの朝であり、情景も心境も「のどか」や「穏やか」とは程遠い、極限の状況である。

問4

この詩の中で直喩が使われている一文を抜き出しなさい。

答えを見る

わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
【解説】直喩とは、「~のようだ」「~みたいだ」「~のごとく」といった言葉を使い、あるものを別のものに直接的にたとえる表現方法。

問5

この詩の中では、妹の言葉である「(あめゆじゆとてちてけんじや)」という一節が4回繰り返されている。このような同じ言葉や似た言葉を繰り返す表現技法を何というか答えなさい。

答えを見る

反復法(リフレイン)

問6

この詩において、妹の言葉である「(あめゆじゆとてちてけんじや)」という一節が4回繰り返されることで、どのような効果がもたらされているか。その説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選びなさい。

ア:妹の意識が朦朧(もうろう)とする中で、同じ言葉しか言えなくなっている様子を表現しており、読者に物語の終わりが近いことを予感させる効果がある。
イ:作者が妹の願いを聞き入れず、何度も同じことを言わせている状況を描くことで、作者の冷淡な態度を強調する効果がある。
ウ:妹の最後の願いが切実であることを読者に強く印象づけるとともに、その声が作者の心の中で何度もこだましているように響かせ、詩全体の悲痛な調子を高める効果がある。
エ:詩全体に軽快で音楽的なリズムを生み出し、死という重いテーマを和らげることで、読者が親しみやすい雰囲気を作り出す効果がある。

答えを見る


【解説】リフレインは「意味の強調」の働きがある。何度も繰り返すことで、妹の「雪を食べたい」という願いが、いかに切実で強いものであるかを読者に伝え、さらに、この声が何度も響くことで、それを受け止める作者の悲痛な心情や、切羽詰まった状況の「臨場感」を高める効果もある。
ア:「物語の終わりが近いことを予感させる」という点は間違いではないが、「同じ言葉しか言えなくなっている」という意識の混濁だけを強調するのは、この言葉が持つ「切実な願い」という側面を見過ごしており、最も適切とは言えない。
イ:作者の心情を全く逆(冷淡)に解釈しているため間違い。作者は妹の願いを叶えるために必死に行動している。
エ:「音楽的なリズムを生み出す」という点はリフレインの一つの効果であるが、この詩においては「軽快」なリズムではなく、むしろ悲痛な調子を強めている。「死の悲しみを和らげる」という説明は、詩全体の雰囲気と合わないため間違い。

問7

この詩の中から次の色に関する表現やものを抜き出しなさい。(同じ表現が複数ある場合は1回でよい。)

・赤系
・青(緑)系
・白

答えを見る

赤系:うすあかく
青(緑)系:青い (または 藍)
白:まつしろな (または 雪、あをじろく)
【解説】実際に出た問題をもとにしている。赤系は、詩の序盤にある「うすあかくいつそう陰惨(いんざん)な雲から」という部分から抜き出す。
青(緑)系は「青い蓴菜(じゆんさい)のもやうのついた」または「みなれたちやわんのこの藍のもやうにも」から抜き出せ、どちらも正解とされる。「あをじろく」の「あを」も青系だが、「青い」「藍」の方がより直接的で分かりやすい。
白は「雪と水とのまつしろな二相系」や「あんまりどこもまつしろなのだ」から抜き出す。「雪」という言葉も、そのものが白を象徴しており、「やさしくあをじろく燃えてゐる」の「じろく」も白を表していると考えることもできる。

問8

この詩のなかで、隠喩が使われている部分を2つ見つけ、それぞれその一文を抜き出しなさい。

答えを見る

・やさしくあをじろく燃えてゐる
【解説】隠喩は、「〜のようだ」「〜のような」といった言葉を使わずに、「AはBだ」の形で、あるものを別のものにたとえる表現技法。
「やさしくあをじろく燃えてゐる」は、妹の「命」を、消えゆく「炎」にたとえた隠喩。「A(妹の命)は、B(やさしくあをじろく燃える炎)だ」という構造になっている。「あをじろく」という言葉は、病人の血の気の引いた顔色と、炎が消える直前に見せる高温の光という、二つのイメージを重ね合わせている。これにより、まさに尽きようとしている妹の命の儚(はかな)さと、その最後の輝き、そして「やさしく」という言葉に込められた妹本来の穏やかな人柄とが表現されている。
「どうかこれが天上のアイスクリームになつて」は、「わたくし」が持ってきた「雪」を、天国で妹の魂を救う「聖なる食べ物」にたとえた隠喩。
「A(この雪)は、B(天上のアイスクリーム)だ」という構造になっている。

問9

詩の冒頭にある「みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ」という表現から読み取れる、この朝の雰囲気として最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:雪解けが近いことを感じさせ、これから訪れる春への希望に満ちた明るい雰囲気。
イ:夜が明け、太陽の光が雪に反射している、清らかで神々しい雰囲気。
ウ:自然の摂理とは異なる異常な明るさであり、妹の死を暗示する不吉な雰囲気。
エ:これから良いことが起こりそうな予感をさせる、心躍るような明るい雰囲気。

答えを見る


【解説】「へんにあかるい」という表現がポイント。この「へんに」は「変に」「妙に」という意味で、普通の朝の明るさではないことを示している。最愛の妹が亡くなろうとしている非日常的な状況と、外の異常な明るさが重なり合い、これから起こる不幸を暗示する不吉な雰囲気を醸し出している。(ア)や(エ)のような希望に満ちた明るさではなく、(イ)のような神々しさとも違う、心をざわつかせる不気味な明るさとして捉えるのが適切。

問10

「わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに/このくらいみぞれのなかに飛びだした」という比喩表現からうかがえる、この時の「わたくし」の心情として最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:妹の役に立てる喜びから、目的へ向かってまっすぐに突き進む高揚した気持ち。
イ:妹の死が近いことを悟り、自暴自棄になって衝動的に行動する絶望的な気持ち。
ウ:妹の最後の願いを何としても叶えたいという、切迫した焦りと必死な気持ち。
エ:自分が何をすべきか分からず、ただ呆然と立ち尽くしている無力な気持ち。

答えを見る


【解説】「まがつたてつぽうだま」とは、狙いが定まらずあらぬ方向へ飛んでいく弾丸のこと。この比喩は、妹の一刻を争う状態に対し、冷静さを失い、ただただ必死に、がむしゃらに行動しようとする「わたくし」の心理状態を表しており、妹の最後の願いを叶えたい一心からくる「焦り」や「必死さ」が最も的確な心情。(イ)の「自暴自棄」や(エ)の「呆然」という状態ではなく、目的(雪を取ってくること)に向かってはいるものの、心がひどく動転している様子が読み取れる。

問11

「ふたきれのみかげせきざい」の上で雪を取る場面で、「雪と水とのまつしろな二相系をたもち」と科学的な表現が使われている。この表現の効果として最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:作者の科学者としての知識を誇示し、詩の権威を高める効果。
イ:雪の美しさを科学的に分析することで、感動をより深める効果。
ウ:極度の悲しみの中でも対象を冷静に観察しようとする、作者の知的な側面を示す効果。
エ:人間には理解できない自然現象の神秘性を、あえて難解な言葉で表現する効果。

答えを見る


【解説】「二相系」は、固体(雪)と液体(水)の二つの状態が共存していることを指す科学用語。宮沢賢治は農学や地質学を学んだ科学者だったため、妹の死という極限の悲しみと混乱の中にあっても、目の前の自然現象を冷静に観察し、科学的な言葉で捉えようとする知的な姿勢が表れている。感情に押し流されまいとする、賢治ならではの心の働きが示された表現と言える。(ア)の「誇示」のような意図はない。

問12

詩の中の「やさしくあをじろく燃えてゐる/わたくしのけなげないもうとよ」という比喩表現について、これが妹のどのような様子を表現したものか。その説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選び、記号で答えなさい。

ア:病室に置かれたランプの光が弱々しく揺れており、その青白い光が妹の顔を照らしている様子。
イ:高熱による苦しみと死への怒りから、妹が激しい感情を燃え上がらせている様子。
ウ:消えゆく命の最後の輝きが、病気で青白くなった妹の中で、彼女本来の優しさを失わずに燃えている様子。
エ:すでに妹の命が燃え尽きてしまい、残された体が青白く冷たくなっている様子。

答えを見る


【解説】この一節は、妹の「命」そのものを「燃えている炎」にたとえた、優れた比喩表現である。「あをじろく」という言葉は、血の気を失った病人の顔色を連想させると同時に、炎が最も高温になった時の色でもあり、妹の命が最も激しく燃焼し、まさに消え尽きようとしている儚(はかな)さと最後の輝きを象徴している。「やさしく」という言葉は、そんな極限状態にあっても失われることのない、妹の本来の人柄や、兄を気遣う思いやりを表している。激しく燃え盛るのではなく、静かに、穏やかに燃えているというイメージ。「燃えてゐる」という現在進行形は、今まさに命が消えようとしている、その瞬間を捉えている。これらの要素を総合すると、ウの「消えゆく命の最後の輝きが、病で青白くなった妹の中で、彼女本来の優しさを失わずに燃えている様子」という説明が、この比喻の持つ深い意味を最も的確に捉えている。
ア:比喩を文字通り病室の光景として捉えてしまっているため、不適切。
イ:「やさしく」という言葉と矛盾しており、詩全体の妹の人物像とも合わない。
エ:「燃えてゐる」という現在進行形の表現と矛盾している。これは命が燃え尽きる「前」の、最後の瞬間の描写である。

問13

この詩では、「あめゆじゆとてちてけんじや」や「うまれでくるたて~」など、妹のセリフが岩手県花巻地方の方言でそのまま書かれている。この表現方法がもたらす効果として最も適切でないものを、次のア〜エの中から一つ選びなさい。

ア:標準語に訳さないことで、死にゆく妹のか細い声や息づかいまでもが伝わるような、強い臨場感とリアリティを生み出している。
イ:難解な方言を用いることで、詩全体に神秘的な雰囲気を与え、読者が自由に意味を解釈できる余地を残している。
ウ:作者と妹が共に生きてきた土地の言葉をそのまま使うことで、兄妹の間の親密な愛情の深さを表現している。
エ:繰り返し使われる方言の独特の響きが、詩全体のリズムを整え、読者の心に深く印象を残す音楽的な効果を生み出している。

答えを見る


【解説】 ア・ウ・エは、方言がもたらす効果としてすべて適切。方言は、その場のリアリティを高め(ア)、二人の間の親密さを示し(ウ)、独特の音楽的効果(エ)を生んでいる。
一方、イの「読者が自由に意味を解釈できる」という説明は不適切。作者は( )書きや詩の最後に註釈をつけることで、方言の意味を明確に読者に伝えようとしている。方言の使用は、曖昧さのためではなく、むしろその逆で、極限状態のコミュニケーションをより生々しく、正確に伝えるための表現。

内容理解についての問題

問1

「あめゆじゆ」とは、何のことか。詩の本文から抜き出して答えなさい。

答えを見る

みぞれ

問2

妹が「あめゆじゆとてちてけんじや」と頼んだ理由を、作者はどう解釈したか、それが書かれた1行を抜き出しなさい。

答えを見る

わたくしをいつしやうあかるくするために

問3

「わたくし」は、妹が雪を頼んだ本当の理由をどのように解釈したか。その解釈として最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:高熱で意識が朦朧とし、ただ本能的に冷たいものが欲しくなったのだろう。
イ:死にゆく自分を憐れんでほしいという、最後のわがままなのだろう。
ウ:故郷の自然の恵みを最後に口にして、安らかに旅立ちたいと願ったのだろう。
エ:残される自分のために「雪を取りに行かせる」という役割を与え、力づけようとしたのだろう。

答えを見る


【解説】詩の中の「わたくしをいつしやうあかるくするために/こんなさつぱりした雪のひとわんを/おまへはわたくしにたのんだのだ」という部分に、作者の解釈が明確に書かれている。妹は自分のために雪を欲しがったのではなく、残される兄が悲しみに打ちひしがれないように、「雪を取ってくる」という最後の使命を与え、その思い出によって生涯を支えようとしたのだ、と兄は受け止めており、妹の深い思いやりに対する兄の解釈である。

問4

「わたくしもまつすぐにすすんでいくから」という「わたくし」の誓いの言葉には、どのような決意が込められているか。最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:妹の死の悲しみを一日も早く忘れ、新しい人生をまっすぐに歩んでいくという決意。
イ:妹の気高く健気な生き方に応えるため、自分も困難から逃げずに正しく生きていくという決意。
ウ:妹の死の原因を突き止め、その無念を晴らすためにまっすぐに真相を追求していくという決意。
エ:天国にいる妹のもとへ、一日も早くまっすぐにたどり着けるように生きていくという決意。

答えを見る


【解説】この誓いは、直前の「ありがたうわたくしのけなげないもうとよ」という言葉と繋がっている。死の淵にありながら兄を気遣う妹の「健気」で「気高い」生き様を見て、自分もその姿に恥じないよう、人生の困難から目をそらさずに正しく生きていこう、と決意している。(ア)のように「忘れる」のではなく、むしろ妹の死を胸に刻んで生きていく誓いであり、(エ)のように死を望んでいるわけでもない。

問5

詩の中で、「わたくし」は松の枝から取る雪のことを「わたくしのやさしいいもうとの/さいごのたべものをもらつていかう」と表現している。
この「さいごのたべもの」という言葉には、「わたくし」のどのような認識が最も強く表れているか。その説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選び、記号で答えなさい。

ア:この雪を食べれば妹の病が治る最後の機会になるかもしれない、という奇跡を信じようとする切実な願い。
イ:妹が頼んだたくさんの食べ物の中で、これが最後の一つであるということを冷静に確認している、事務的な認識。
ウ:これが妹がこの世で口にする本当に最後のものになるだろうという、妹の死を避けられない現実として受け入れている悲痛な覚悟。
エ:天国へと旅立つ妹に捧げる、神聖な儀式のための食べ物であるという、宗教的な使命感に基づいた認識。

答えを見る


【解説】ア:詩全体に流れるのは悲しみと妹への感謝であり、病気が治るかもしれないという希望的な観測は読み取れない。
イ:状況は妹の臨終という極限状態であり、「たくさんの食べ物」「事務的な認識」といった日常的で冷静な解釈は、詩の切迫した雰囲気とは全く合わない。
ウ:「さいごの」という言葉には、これが文字通り妹の生涯で最後の食事になるだろうという、兄の痛切な予感と覚悟が込められています。妹の死がもはや避けられないという厳しい現実を受け入れ、その上で妹の願いを叶えようとしている、悲しみに満ちた認識を表しているため正しい。
エ:この詩の最後には「天上のアイスクリーム」「聖い資糧」といった宗教的な祈りが現れるが、この「さいごのたべもの」という段階では、まだ神聖な儀式というよりは、「死を受け入れる」という悲痛な現実認識の方が強く表れているため、「最も適切」ではない。この悲しい覚悟があるからこそ、後の必死の祈りへと繋がっていくのである。

問6

詩の中の「わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ/みなれたちやわんのこの藍のもやうにも/もうけふおまへはわかれてしまふ」という部分について、この表現から読み取れる作者の心情や、この表現が持つ効果の説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選び、記号で答えなさい。

ア:高価で美しい藍色の茶碗を妹がもう使えなくなることを惜しみ、失われるものの大きさを物質的な価値で表現している。
イ:妹が死ぬことで、思い出の品である茶碗を処分しなければならなくなるという、現実的な悲しみを表現している。
ウ:兄妹が共に過ごした平凡でかけがえのない日常の象徴である「見慣れた茶碗」との別れを描くことで、妹の死という事実がもたらす喪失感の深さを具体的に示している。
エ:茶碗の藍色が妹の青白い顔色や陰惨な空の色と重なり、死を連想させる不吉なイメージを読者に与えている。

答えを見る


【解説】ア:この詩において茶碗の価値は、高価かどうかではなく、「みなれた」という言葉に象徴される、兄妹の共有してきた時間の長さにある。物質的な価値を問題にしているわけではない。
イ:詩の中では茶碗を処分するという話は一切出ておらず、あくまで妹がそれと「わかれてしまふ」という精神的な別れを嘆いている。
ウ:この詩句のポイントは、「永訣(死)」という大きな出来事を、「見慣れた茶碗の模様」という具体的で身近な事物との別れとして描いている点にある。何気ない日常の中にこそ、失われて初めて気づくかけがえのない時間があったのだという、作者の深い喪失感が表現されている。「銀河や太陽」といった壮大な世界と、この小さな「茶碗」とを対比させることで、失われるものの大きさをより際立たせる効果もあるため、正しい。
エ:「藍色」に直接的な死のイメージを読み込むよりも、それが「見慣れた」日常の色であったという文脈を重視する方が、自然な読解。この部分の主題は色のイメージではなく、共有された時間との別れである。

問7

詩の中の以下の部分についての、「わたくし」の心情の説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選び、記号で答えなさい。

この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ

ア:恐ろしい空と美しい雪という矛盾した光景を前にして精神が混乱し、何が現実なのか判断できなくなっている錯乱した気持ち。
イ:美しい雪でさえも、元は恐ろしい空から来たのだから信用できず、妹に与えるべきではないのではないかと疑っている不信の気持ち。
ウ:妹の死という過酷で理不尽な現実(おそろしいそら)の中から、妹の清らかな魂のような純粋なもの(うつくしい雪)が生まれてきたという事実に、驚きと畏敬に近い感動を覚えている気持ち。
エ:あまりに雪が真っ白で美しいので、妹の死という悲しい現実を一時的に忘れ、ただ自然の造形美に見とれている穏やかな気持ち。

答えを見る


【解説】「あんなおそろしいみだれたそら」は、単なる天候だけでなく、妹の死という避けられない過酷な運命や、理不尽な現実そのものを象徴している。
一方、「このうつくしい雪」は、単なる自然の美しさだけでなく、そんな過酷な状況の中から生まれた妹の最後の清らかな願いや、その気高い魂を象徴している。この二つを結びつけて考えることで、作者は「最悪の現実の中から、最高の純粋さが生まれる」という逆説的な真実に気づき、単なる悲しみや絶望を超えた、畏敬の念(おそれうやまう気持ち)にも似た深い感動を得ている。この感動があったからこそ、後の「天上のアイスクリーム」という聖なる祈りへと繋がっていくのである。
ア:「混乱」はしているが、「判断できない」のではなく、二つの関係性を見抜いているため不適切。
イ:「うつくしい雪」と肯定的に捉えている作者の認識と矛盾するため、不適切。
エ:「悲しみを忘れている」わけではない。むしろ悲しみの極致だからこそ見えてきた光景であり、その解釈は表面的すぎる。

問8

妹の言葉「こんどはこたにわりやのごとばかりで/くるしまなあよにうまれてくる」に込められた心情の説明として、最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:今世では自分のことばかりで苦しんだので、来世では裕福に生まれ変わりたいという願い。
イ:病の苦しみの中で自己中心的になってしまうのが辛く、来世では他者のために生きられるようになりたいという願い。
ウ:人間に生まれると苦しむだけなので、次は苦しみのない動物に生まれ変わりたいという願い。
エ:自分のせいで家族を苦しませてしまったので、来世では誰とも関わらずに生きたいという願い。

答えを見る


【解説】この言葉は、病の苦しみからつい自分のことばかりを考えてしまう利己的な心を、妹自身が辛く感じていることを示している。そして、もし生まれ変われるなら、次はもっと他者のために生きられるような人間になりたい、という清らかで利他的な願いが込められている。これは、とし子の魂の気高さを象徴する非常に重要な一節。(ア)のような物質的な願いや、(ウ)(エ)のような他者との関係を断ちたいという願いではない。

問9

詩の最後の部分で、「わたくし」が雪に捧げた祈りの内容として最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:この雪を食べることで、妹の病気が奇跡的に治るようにという祈り。
イ:この雪が天国での聖なる食べ物となり、妹の魂を救済するようにという祈り。
ウ:この雪を思い出として、残された家族が悲しみを乗り越えられるようにという祈り。
エ:この雪のように清らかな存在に、自分も生まれ変われるようにという祈り。

答えを見る


【解説】詩の最後は、「どうかこれが天上のアイスクリームになつて/おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに」という祈りで締めくくられている。「天上のアイスクリーム」「聖い資糧(せいなる糧)」という言葉から、この雪が、死後の世界(天上)で妹の魂を養う食べ物になってほしい、という願いであることが分かる。これは、妹の魂が救済され、安らかになることを願う、作者の究極の祈りである。(ア)のように現世での回復を願う段階は、すでに超えている。

問10

詩の結びにある「わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」という一文に込められた、「わたくし」の心情や覚悟の説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選び、記号で答えなさい。

ア:自分のこれまでの幸運をすべて使い果たしてでも、妹の病気が治るという奇跡が起きてほしいと願う、最後の希望。
イ:妹と一緒に過ごしたことで得られた自分のすべての幸福な思い出を、感謝の気持ちとして天国の妹に捧げたいという思い。
ウ:自分自身のこれからの人生の幸福がすべて無くなっても構わないという覚悟で、妹の来世での幸福と魂の救済を願う、究極の自己犠牲の愛情。
エ:自分の持つすべての知恵や能力を総動員して、妹が安らかに旅立てるよう最善を尽くしたいという、兄としての強い決意。

答えを見る


【解説】この一文は、賢治の妹への愛情と彼の思想が凝縮されている。「さいはひ(幸い・幸福)をかけて」という表現は、「〜を賭(と)して」「〜を代償として」という意味合いを持ち、つまり自分の幸福と引き換えにしてでも、という意味になる。この祈りの対象は、病気が治るという現世での奇跡ではなく、雪が「天上のアイスクリーム」になり、妹に「聖い資糧」をもたらすという、死後の世界(来世)での魂の救済である。これらの点から、ウの「自分自身の幸福をすべて犠牲にして、妹の来世での幸福を願う」という説明が、この言葉に込められた賢治の痛切で深い愛情と自己犠牲の精神を最も的確に表している。

問11

詩全体を通して描かれている「妹(とし子)」の人物像として、最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:死の恐怖におびえ、兄に助けを求め続ける、か弱く哀れな人物。
イ:自分の運命を呪い、周囲に当たり散らす、自己中心的な人物。
ウ:自らの死を冷静に受け入れ、残される兄を最後まで気遣う、気高く健気な人物。
エ:生への執着を捨てきれず、兄に様々な要求をする、現実的な人物。

答えを見る


【解説】妹(とし子)は、高熱と喘ぎに苦しみながらも、兄に「雪を取ってきて」と頼み、それは兄を力づけるためであった。また、「一人で行く」という気丈な決意や、「次は人のために生きたい」という清らかな願いを示している。これらの言動から、彼女がただ死を待つ弱い存在ではなく、最後まで他者を思いやる優しさと、運命を受け入れる強さを持った、気高く健気な人物であることがわかる。

問12

詩の中から、妹(とし子)の様子や人柄を直接形容している、あるいは象徴的に表している形容詞を2つ、形容動詞を1つ抜き出し、それぞれ終止形(言い切りの形)で答えなさい。

答えを見る

形容詞①:やさしい
形容詞②:青白い(あをじろい)
形容動詞:けなげだ
【解説】実際に出た問題を参考にしている。形容詞①「やさしい」は、「わたくしのやさしいいもうとの」という部分から抜き出せる。妹の人柄を直接形容している言葉。
形容詞②「青白い(あをじろい)」は、「やさしくあをじろく燃えてゐる」という比喩表現から抜き出せる。「あをじろく」は「青白い」の連用形。これは消えゆく妹の命の様子を象徴的に表しており、病人の顔色も連想させるため、妹を形容する言葉として適切。
形容動詞「けなげだ」は、「わたくしのけなげないもうとよ」という部分から抜き出せる。「けなげな」は形容動詞「けなげだ」の連体形。困難な状況でも懸命にふるまう妹の気高い人柄を表してる。
【参考】「けなげない」という解釈について
「けなげな」を形容動詞「けなげだ」の連体形と捉えるのが一般的だが、これを「けなげない」という形容詞の連体形と解釈することも文法的には可能。その場合、形容詞の答えの一つとして「けなげない」も考えられるが、テストではより明確な「やさしい」「青白い」を答えるのが確実。

問13

この詩の主題として、最も適切なものを次の中から一つ選びなさい。

ア:厳しい冬の自然の中で生きる兄妹の、貧しくも美しい思い出。
イ:近代科学と古い信仰との間で揺れ動く、知識人の苦悩の告白。
ウ:最愛の妹との死別という悲痛な現実の中で交わされる、魂の深い交流と祈り。
エ:若くして死んでいく妹の視点から描かれた、生への渇望と世界の美しさ。

答えを見る


【解説】この詩は、賢治が妹とし子の死に直面した「永訣の朝」という一点の出来事を描いている。その中で描かれるのは、死にゆく妹と見送る兄との言葉にならない心の交流、兄の深い悲しみ、そして妹の魂の救済を願う切実な祈りであり、これが詩全体の中心的なテーマ(主題)となっている。他の選択肢は、テーマの一部に触れてはいるが、詩全体を包括する主題としては不十分。

問14

「Ora Orade Shitori egumo」という一節が、方言や標準語ではなくローマ字で表記されているが、その理由や効果についての説明として不適切なものを、次の中から一つ選びなさい。

ア:それまでの日本語の表記から切り離すことで、妹の孤独な決意を際立たせる効果。
イ:外国語のような響きを持たせることで、その言葉に音楽的で神聖な印象を与える効果。
ウ:兄にすら直接は届かない、妹の内なる魂の叫びであることを表現する効果。
エ:作者が海外の文学から影響を受けていることを示し、詩を国際的に見せる効果。

答えを見る


【解説】(ア)(イ)(ウ)は、いずれもローマ字表記の効果として適切。異質な文字で「孤独な決意」を際立たせ、音楽的・呪文的な響きで「神聖さ」を与え、兄にも届かない「魂の叫び」であることを表現している。他に、「妹の言葉をそのまま表し、臨場感を与えている」という解釈もある。(エ)は、作者の自己顕示欲と解釈しているため不適切。不適切とされるものに、他に「妹の言葉がよく聞き取れなかったから」「当時はローマ字表記をする風潮があった」というものもある。

問15

「わたくし」は、妹に頼まれたみぞれのことを、当初は「びちよびちよ」と重く不快なものとして描写していたが、後には「こんなさつぱりした雪のひとわん」と表現している。このように表現が変化した理由の説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選びなさい。

ア:外に出てみると、実際にみぞれが粉雪へと変わり、天候が回復してきたから。
イ:この雪が、残される兄を力づけようとする妹の清らかで美しい心の表れだと気づいたことで、「わたくし」の雪に対する認識そのものが変化したから。
ウ:一度は絶望したが、妹のために前向きになろうと決意し、あえて明るい言葉を選んで自分を励まそうとしているから。
エ:あまりに悲しみが深いために現実感覚が麻痺し、重苦しいみぞれを軽くさっぱりしたものだと錯覚してしまっているから。

答えを見る


【解説】解説サイトに「『雪』は、妹の美しい心の表象だと考えられる」とある通り、この表現の変化は、物理的な天候の変化ではなく、「わたくし」の内面的な認識の変化を表している。妹が自分を「いつしやうあかるくするため」に雪を頼んだのだと悟った瞬間、それまで陰惨な世界の象徴だったみぞれが、妹の気高い精神を象徴する「さっぱりした雪」へと、その意味を変えたのである。

問16

この詩は大きく「前半(妹への感謝)」と「後半(雪に託した祈り)」の二段に分ける場合、この構成に関する説明として最も適切なものを、次のア〜エの中から一つ選びなさい。

ア:前半では妹を失う絶望的な現実が、後半ではその絶望を乗り越えた後の穏やかな日常が描かれている。
イ:前半では妹の最後の願いに応えようとする兄の行動が、後半ではその行動を通して得られた兄の宗教的な祈りへと心情が深まっていく様子が描かれている。
ウ:前半では妹との楽しかった過去の思い出が、後半では妹のいない未来への不安が対比的に描かれている。
エ:前半では病に苦しむ妹の視点から、後半ではそれを見守る兄の視点から、というように視点が切り替わりながら物語が進行している。

答えを見る


【解説】この詩は、妹の「あめゆじゆとてちてけんじや」という願いに応える兄の行動(前半)から始まる。そして、その願いに込められた妹の思いやりを理解し、感謝する中で、兄の心情は単なる悲しみから、妹の魂の救済を願う宗教的な祈り(後半)へと昇華されていく。イは、この「行動から内面の祈りへ」という詩全体の大きな流れを的確に説明している。

記述式問題

問1

「わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに/このくらいみぞれのなかに飛びだした」という比喩表現について、これがどのような状況を表し、この時の「わたくし」のどのような心情を示しているか、60字以内で説明しなさい。

答えを見る

(解答例)妹の危篤状態に冷静さを失い、ただその願いを叶えたい一心で、周りが見えず無我夢中で行動しようとする、切迫した焦りと必死な心情。(60字)
【解説】記述問題で高得点を取るためのポイントは、「冷静さを失っている」「混乱している」といった状況が書けているか。「焦り」「必死さ」「切羽詰まった気持ち」といった心情を示す言葉が入っているか。「妹の最後の願いを叶えたい」という動機に触れられていると、より良い。

問2

「わたくし」は、妹が雪を頼んだ本当の理由を、「わたくしをいつしやうあかるくするため」だと解釈している。これはどういうことか。妹のどのような思いやりを「わたくし」が受け取ったのかが分かるように、70字以内で説明しなさい。

答えを見る

(解答例)妹は自分が死んだ後、残される兄が悲しみに暮れないよう、雪を取りに行かせるという最後の役割を与え、その思い出で支えようとしたということ。(68字)
【解説】記述問題で高得点を取るためのポイントは、「残される兄のため」という視点が入っているか。「(雪を取りに行かせるという)役割を与える」「思い出で支える」といった、妹の行動の意図が説明できているか。「思いやり」「気遣い」といったキーワードが盛り込まれているか。

問3

「あんなおそろしいみだれたそらから/このうつくしい雪がきたのだ」という対比表現には、「わたくし」のどのような感動や思いが込められているか。100字以内で説明しなさい。

答えを見る

(解答例)妹の死という、どうしようもなく恐ろしい現実(おそろしいそら)の中から、まるで妹の清らかな心そのものであるかのような美しい雪が生まれてきたことへの、驚きと不思議な感動。(83字)
【解説】記述問題で高得点を取るためのポイントは、「おそろしいみだれたそら」が「妹の死」「過酷な運命・現実」などを象徴していることを理解しているか。「うつくしい雪」が「妹の清らかな魂」「最後の願い」などを象徴していることを理解しているか。その二つの対照的なものの中から後者が生まれた、という関係性を説明できているか。

問4

詩の最後で、「わたくし」は雪が「天上のアイスクリーム」になり「聖い資糧」となるように祈るが、この祈りには、妹に対するどのような愛情や願いが込められているか。具体的に70字以内で説明しなさい。

答えを見る

(解答例)自分の幸福をすべて犠牲にしてでも、妹が死後の世界で安らかに過ごし、その魂が救済されてほしいと願う、究極の自己犠牲と深い愛情。(62字)
【解説】記述問題で高得点を取るためのポイントは、「死後の世界」「天国」での妹の幸せを願っていることが書けているか。「魂の救済」や「安らかさ」といったキーワードが入っているか。「わたくしのすべてのさいはひをかけて」という部分から、「自己犠牲的な愛情」という点を読み取れているか。

運営者情報

青山学院大学教育学科卒業。TOEIC795点。2児の母。2019年の長女の高校受験時、訳あって塾には行かずに自宅学習のみで挑戦することになり、教科書をイチから一緒に読み直しながら勉強を見た結果、偏差値20上昇。志望校の特待生クラストップ10位内で合格を果たす。

感想や意見を聞かせてね